堺市は、堺旧港を魅力ある交流拠点に再生する「堺旧港交流空間創出事業」で、新たに宿泊機能となるヴィラを導入します。屋台村、カフェ、バーベキュー場などの飲食施設に加え、桟橋を活用した水面利用、客室とプライベートサウナを備えたヴィラを組み合わせ、堺旧港を“眺める水辺”から“滞在して消費する水辺”へ転換します。
事業者は株式会社RETOWN。堺市は2025年2月に同社を優先交渉権者に決定し、同年6月30日に事業協定を締結しました。当初は2026年3月ごろの開業を予定していましたが、協定締結後の協議で事業内容を拡充。2026年7月ごろに土地の使用契約を締結し、工事に着手、2027年春ごろの開業を目指します。
対象地は堺市堺区戎島町5丁地内ほか。南海本線「堺」駅から約500m、大浜公園にも近接する堺旧港北側の水辺空間です。事業期間は2025年6月30日から2055年3月31日までの約30年間。後背地エリアA・B、護岸エリア、水面利用エリアを一体的に活用します。
| エリア | 最新計画の内容 |
|---|---|
| 後背地エリアA | 2階建て、延床面積約330㎡。1階は駐車場、2階はカフェ・屋台村、屋上はテラス席・BBQ場 |
| 後背地エリアB | 3階建て、延床面積約690㎡。1階は駐車場、2階・3階はヴィラ、客室、プライベートサウナ |
| 護岸エリア | テラス席、定期イベントに活用 |
| 水面利用エリア | マリーナとして桟橋を新設。船で訪れる利用者への係留サービスやイベント展開を想定 |
当初計画からの変化:規模拡大型から“滞在消費型”へ
2025年2月の優先交渉権者決定時点では、後背地エリアAは延床面積約1,558㎡、後背地エリアBは約2,310㎡で、Bの2階・3階はバーベキュー場として計画されていました。最新計画ではAが約330㎡、Bが約690㎡へコンパクト化される一方、Bの上層階にヴィラとプライベートサウナを導入します。
当初案は、屋台村、カフェ、バーベキュー場を中心とする「集客型」の計画でした。最新案では宿泊機能が加わり、夜間需要、冬季需要、インバウンド、グループ利用、記念日需要などを取り込む「滞在消費型」へ進化しています。ヴィラとプライベートサウナは、単なる付帯設備ではなく、客単価と滞在時間を引き上げる収益装置です。
つまり今回の変更は、堺旧港の価値を「にぎわいの量」だけで測るのではなく、「どれだけ長く滞在し、どれだけ消費が発生するか」へ移行させるものです。
なぜRETOWNなのか?低未利用地を“目的地”に変える編集力
今回の事業を読み解く鍵は、事業者であるRETOWNの性格にあります。
RETOWNは、大規模商業施設を開発するデベロッパーではありません。全国チェーンの飲食企業でもありません。同社の強みは、地域の飲食店、小商い、宿泊、イベント、水辺、公園、学校跡地などを組み合わせ、低未利用地を“使われる場所”へ変える編集力にあります。
同社は「ローカルを、日本の観光産業の次の主役に」と掲げ、地域に眠る空間資源、人的資源、文化資源を再編集し、商業・宿泊・体験を循環させる観光プラットフォームを目指しています。堺旧港には、旧堺燈台、大浜公園、親水護岸、堺駅、ポルトマーレ、ホテル、海上交通といった素材があります。しかし素材があるだけでは、人は回遊しません。必要なのは、それらを束ね、利用者にとって分かりやすい目的地へ変える運営者です。
RETOWNが担うのは、まさにこの領域です。
TUGBOAT TAISHO、汐かけ横丁、いくのパークで積み上げた実績
RETOWNが手掛けた施設の代表例は、大阪市大正区の水辺複合施設「TUGBOAT TAISHO」です。また、住吉公園の「汐かけ横丁」では、RETOWNとE-DESIGNが大阪府のPark-PFI事業を受託。和カフェ棟と約4坪の小規模飲食店15店舗からなる屋台棟を整備しました。特徴的なのは、単なるテナント誘致ではなく、地元の出店希望者を募り、保証金や敷金を抑え、厨房機器も一定程度用意することで、地域の人が飲食に挑戦しやすい仕組みをつくった点です。
大阪市生野区の「いくのパーク」では、旧御幸森小学校跡地を活用し、RETOWNとNPO法人IKUNO・多文化ふらっとが共同で運営。小学校跡地を売却せず、多文化共生や多世代交流の拠点として再編集しています。
これらの実績から見えるRETOWNの得意技は明確です。
大手がやるには細かすぎ、個人店がやるには大きすぎる領域を、事業として成立させることです。
他社との差は「開業後の運営密度」
似たような施設をつくること自体は、他社にもできます。大手デベロッパーなら建物を建てられます。飲食チェーンなら店舗を出せます。イベント会社なら短期的なにぎわいを演出できます。
しかし、RETOWNの強みは施設そのものではありません。小さな店を集め、地域と調整し、行政のルールに乗せ、公共空間を日常的に運営し続けることにあります。
この領域は見た目以上に手間がかかります。個人店は熱量がある一方、行政協議や施設全体管理は難しい。大手は資金力がある一方、地域の小商いを細かく束ねるのは不得意です。イベント会社は短期集客には強くても、日常運営やテナント管理には限界があります。
RETOWNの模倣困難性は、特許のような技術ではなく、現場運営、人材ネットワーク、飲食事業者との接点、行政案件の経験、地域プレイヤーとの調整力にあります。堺市の選定委員会も、同社について「水辺の先進事例を実施する会社」と評価し、堺旧港の認知度向上、後背地・護岸・水面の一体利用、自社を中心に各テナントにも責任を持たせる体制を評価しています。
RETOWNの価値は、施設を完成させることではなく、完成後に人が集まり続ける状態をつくることにあります。
公共空間を“維持する場所”から“稼ぐ場所”へ
自治体にとって、堺旧港のような水辺空間は扱いが難しい資産です。景観や歴史性はある。ポテンシャルもある。しかし、行政だけで飲食、イベント、宿泊、水面利用まで一体運営し、日常的なにぎわいをつくるのは簡単ではありません。
RETOWNが入ることで、公共空間は「整備して終わり」の場所から、「民間が運営し、収益を生み、人を呼び続ける場所」へ変わります。
| 自治体側のメリット | 内容 |
|---|---|
| にぎわいの常態化 | イベント時だけでなく、日常的に人が訪れる水辺をつくれる |
| 民間投資・民間運営 | 行政負担を抑え、民間の運営力を活用できる |
| 観光消費の拡大 | 飲食、宿泊、サウナ、舟運を組み合わせ、滞在消費を生み出せる |
| 地域事業者の参加 | 地元飲食店や小規模事業者が関われる余地が生まれる |
| エリア価値向上 | ポルトマーレ、ホテル、大浜公園、旧堺燈台との回遊性が高まる |







