近鉄百貨店の2025年度決算は、表面上はかなり強い内容でした。個別売上高は1,047億68百万円で前期比10.7%増、営業利益は60億1百万円で同42.7%増。連結でも売上高1,254億50百万円、営業利益67億18百万円と、しっかり増収増益を確保しています。会社側も、大阪・関西万博のオフィシャルストア出店が増収増益に寄与したと説明しています。
ただ、店別売上高を並べると印象は少し変わります。今回の好決算は、近鉄百貨店の全店が一斉に強かったというより、あべのハルカス近鉄本店(Hoop等を含む)を中心とした、あべの・天王寺エリアへの成長集中として読むほうが実態に近い決算でした。
【実績】2025年度(2026年2月期) 店舗別売上高 (単位:百万円)
| 順位 | 店舗名 | 2026年度 (新基準 / 旧基準推計) |
2025年度 (新基準 / 旧基準推計) |
増減額 (新基準) |
増減率 (新基準) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | あべのハルカス近鉄本店 (Hoop等を含む) |
61,562 / 143,697 | 51,490 / 130,085 | +10,072 | +19.6% |
| 2 | 奈良店 | 7,834 / 18,286 | 8,085 / 20,426 | △251 | △3.1% |
| 3 | 上本町店 | 7,499 / 17,504 | 7,558 / 19,095 | △59 | △0.8% |
| 4 | 四日市店 | 6,674 / 15,578 | 6,574 / 16,609 | +100 | +1.5% |
| 5 | 和歌山店 | 6,458 / 15,074 | 6,409 / 16,192 | +49 | +0.8% |
| 6 | 草津店 | 4,504 / 10,513 | 4,338 / 10,960 | +166 | +3.8% |
| 7 | 橿原店 | 4,312 / 10,065 | 4,414 / 11,152 | △102 | △2.3% |
| 8 | 生駒店 | 2,745 / 6,407 | 2,610 / 6,594 | +135 | +5.2% |
| 9 | 名古屋店(近鉄パッセ) | 1,871 / 4,367 | 1,892 / 4,780 | △21 | △1.1% |
| 10 | 東大阪店 | 1,304 / 3,044 | 1,254 / 3,168 | +50 | +4.0% |
| 合計 | 百貨店業 合計 | 104,768 / 244,548 | 94,630 / 239,075 | +10,138 | +10.7% |
(参考)あべのハルカス近鉄本店 単独
・2026年度 新基準:38,387百万円(前年比 △2.9%)
・2025年度 新基準:39,515百万円(前年比 +4.6%)
増収のほぼすべては、ハルカス周辺が稼いだ
百貨店業全体の増収額は101億38百万円でした。一方、あべのハルカス近鉄本店(Hoop等を含む)の増収額は100億71百万円です。つまり、百貨店業全体の増収のほぼすべてを、あべの・天王寺エリアが稼いだ計算になります。奈良店や上本町店、橿原店のように減収だった店舗もあり、全店がそろって強かったわけではありません。
ここでさらに興味深いのは、あべのハルカス近鉄本店単独では減収だったことです。Hoop等を含むエリア全体は615億62百万円で19.6%増でしたが、注記ベースのあべのハルカス近鉄本店単独は383億87百万円で2.9%減でした。つまり、伸びの主役は百貨店本体だけではなく、Hoopやandなどを含む周辺商業、エリア全体の回遊需要だった可能性が高いとみられます。
伸びを支えたのは、万博需要と周辺商業の上振れだった可能性が高い
会社は2025年度の施策として、大阪・関西万博の会場内オフィシャルストア運営に加え、あべの・天王寺エリアの魅力最大化策を進めました。Hoopには「SALOMON」「New Balance」、さらに大型スポーツ専門店「スーパースポーツゼビオ」を導入し、あべのハルカス近鉄本店・Hoop・andの3館でエリア価値を高めたと説明しています。
商品別売上高を見ても、その傾向はかなりはっきりしています。2025年度は食料品が346億63百万円で13.6%増、雑貨が201億65百万円で64.2%増と大きく伸びた一方、紳士服・洋品は7.3%減、婦人服・洋品は7.5%減、化粧品も5.7%減でした。伝統的な百貨店の主力カテゴリーが全面的に回復したというより、万博関連需要、雑貨需要、回遊消費、周辺商業の活性化が売上を押し上げたとみるほうが自然です。
地域店は健闘もあるが、構造はなお「あべの依存」が強い
もちろん、地域店が総崩れだったわけではありません。生駒店は5.2%増、東大阪店は4.0%増、草津店は3.8%増、四日市店は1.5%増、和歌山店も0.8%増でした。一方で、奈良店は3.1%減、上本町店は0.8%減、橿原店は2.3%減、名古屋店(近鉄パッセ)は1.1%減となっています。つまり、健闘した店はあるものの、全社業績を押し上げるほどの規模ではなく、収益構造はさらに「あべの集中型」へ傾いたと見るべきでしょう。
しかも、2025年度には四日市店と奈良店の店舗資産について減損損失が計上されています。これは直ちに店舗撤退を意味するものではありませんが、少なくとも会社が地域店の収益性を慎重に見直したことは事実です。好決算の裏側で、地域店の体力差や採算性の問題はなお残っています。
次期計画は慎重。ただし「全店減収」ではない
2027年2月期の個別業績予想は、売上高930億円で前期比11.2%減、営業利益47億円で同21.7%減です。連結でも売上高1,150億円で8.3%減、営業利益54億円で19.6%減と、会社はかなり慎重な見通しを示しています。
ただし、ここは少し丁寧に見たほうがよくて、来期は全店一律の減収計画ではありません。店別予想では、あべのハルカス近鉄本店(Hoop等を含む)が502億80百万円で18.3%減と大きく落ち込む一方、上本町店は11.7%増、橿原店は7.6%増、草津店は5.0%増、和歌山店は0.8%増、四日市店は0.2%増を見込んでいます。会社全体が慎重なのは、地域店が弱いからというより、主力のハルカス周辺の反動減をかなり大きく織り込んでいるためです。
【予想】2026年度(2027年2月期) 店舗別売上高 (単位:百万円)
| 順位 | 店舗名 | 2027年度予想 (新基準 / 旧基準推計) |
2026年度実績 (新基準 / 旧基準推計) |
増減額 (新基準) |
増減率 (新基準) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | あべのハルカス近鉄本店 (Hoop等を含む) |
50,280 / 124,835 | 61,562 / 143,697 | △11,282 | △18.3% |
| 2 | 上本町店 | 8,380 / 20,806 | 7,499 / 17,504 | +881 | +11.7% |
| 3 | 奈良店 | 7,710 / 19,142 | 7,834 / 18,286 | △124 | △1.6% |
| 4 | 四日市店 | 6,690 / 16,610 | 6,674 / 15,578 | +16 | +0.2% |
| 5 | 和歌山店 | 6,510 / 16,163 | 6,458 / 15,074 | +52 | +0.8% |
| 6 | 草津店 | 4,730 / 11,744 | 4,504 / 10,513 | +226 | +5.0% |
| 7 | 橿原店 | 4,640 / 11,520 | 4,312 / 10,065 | +328 | +7.6% |
| 8 | 生駒店 | 2,760 / 6,853 | 2,745 / 6,407 | +15 | +0.5% |
| 9 | 東大阪店 | 1,300 / 3,228 | 1,304 / 3,044 | △4 | △0.3% |
| 合計 | 百貨店業 合計 | 93,000 / 230,900 | 104,768 / 244,548 | △11,768 | △11.2% |
(参考)あべのハルカス近鉄本店 単独
・2027年度予想:38,580百万円(前年比 +0.5%)
・2026年度実績:38,387百万円(前年比 △2.9%
※名古屋店(近鉄パッセ)は2026年2月28日をもって閉店したため、2027年度予想では対象外です。
中国政情・中東情勢・万博反動が、来期の重しになる
外部環境も軽くありません。会社は2025年度の振り返りで、下半期の百貨店売上について「日中関係の悪化の影響等」により勢いを欠いたと説明しています。また、2027年2月期の見通しでは、「国際情勢の不安定化」や「物価上昇の懸念」をリスクとして挙げています。ブログ的に分かりやすく言えば、中国政情や中東情勢を含む地政学リスクと、万博反動が同時に重なる局面に入るということです。
とくに近鉄百貨店の場合、2025年度の伸びがあべの・天王寺エリアに集中していたぶん、万博の追い風が剥がれた後の反動は小さくありません。数字の上では好決算でも、その中身を丁寧に見ると、2025年度は「近鉄百貨店全体の全面回復」ではなく、「イベントとエリア集客が作った局地的な強さ」が大きかった1年でした。
焦点は、万博後にどこまで地力が残るか
今回の決算をどう評価するか。結論としては、2025年度は好決算ではあるが、そのまま実力値とは言い切れないということです。増収のほぼすべてをハルカス周辺が稼ぎ、その中身も百貨店本体の全面復活というより、万博関連需要や雑貨、周辺商業の上振れに支えられていました。だからこそ、2026年度の最大の焦点は明快です。万博反動のあと、近鉄百貨店にどれだけ地力が残るのか。 ここが見えてくる1年になりそうです。
出典
近鉄百貨店「2026年2月期 決算短信」
近鉄百貨店「2026年2月期 決算説明資料」
近鉄百貨店「2025年2月期 決算短信」





