堺市は、自転車による都市魅力の向上と地域活性化を目指し、大和川沿いに新たな体験型サイクリング拠点の整備を進めています。2027年3月の開業を予定し、運営には民間事業者グループを起用。自転車文化の中心地である堺の特色を活かし、関西広域からの集客を視野に入れた、実用性とにぎわいを両立させる複合施設が誕生します。
自転車とまちづくりを結ぶ拠点づくり
2025年6月、堺市は「自転車にぎわい拠点事業」の優先交渉権者として、スマートシティ分野で実績を持つAndeco(大阪市中央区)を代表とするグループを選定しました。提案には、自転車体験施設やサイクルステーション、自転車ショップ、ベーカリーカフェなど、多機能を備えた複合型施設が含まれており、今後サービスの具体化に向けて調整が進められます。
この事業は、大和川リバーサイドサイクルラインと阪堺電気軌道の大和川停留場に隣接する敷地約13,000㎡を活用して整備されます。本拠点は堺市堺区遠里小野町1丁目に位置し、大阪市とも接しており、自転車と公共交通の結節点としての機能も期待されています。
多様な利用者を想定した施設構成
施設の中核となるのは、1周200mの自転車トラックや、傾斜・起伏を設けたパンプトラック、初心者向け練習コースなどを含む「自転車体験エリア」です。未就学児からシニア層、観光客まで幅広い層が安心して利用できるよう設計されており、遊びながら交通ルールを学べるような仕組みも取り入れられます。
サイクルステーションには、駐輪場、トイレ、シャワー、休憩スペースが整備され、長距離サイクリングの起点や中継点としての機能も担います。また、自転車ショップではメンテナンスやレンタルに加えて、スポーツバイクや関連用品の販売も行われる予定です。
さらに、施設内にはベーカリーカフェも併設される計画で、キューブ型パンなどを提供し、サイクリストだけでなく家族連れや地域住民の日常的な利用も見込まれています。
自転車文化を地域資源に
堺市は、シマノをはじめとする自転車部品メーカーの集積地として知られており、古くから自転車産業が根付いた地域です。今回の事業は、自転車を都市ブランディングと観光振興の柱とする「サイクルシティ堺」構想の中核として位置づけられています。
そのため、単なる施設整備にとどまらず、自転車に関する教育プログラムや地域研究の学びの場、外国人観光客向けの交通ルール講習、健康促進イベントなど、多様なプログラム展開が予定されています。輪行(自転車を電車に載せて移動する)との連携も視野に入れており、阪堺電車や周辺交通との接続性を高めることで、利用者の裾野を広げる構想です。
事業スキームと今後のスケジュール
今回の公募には2者が参加し、Andecoグループの提案が選ばれました。運営は10年2か月の期間で行われ、市が整備費として3億円を負担。一方で、事業者は建物部分に対して月額2,230円/㎡、土地部分に対して月額426円/㎡の貸付料を支払います。
2025年6月下旬に基本協定を締結し、9月下旬には整備費負担協定を結ぶ予定です。施設の設計および整備工事は2025年10月に始まり、2027年3月の開業を目指しています。
関西広域からの新たな来訪拠点に
この自転車拠点は、大和川を挟んで大阪市に接し、柏原市から大阪湾岸までを結ぶ全長25kmの「大和川リバーサイドサイクルライン」に直結しています。さらに、ツアー・オブ・ジャパンの舞台となる大仙公園などとも接続されており、関西圏の広域サイクリングネットワークのハブとしての役割も期待されています。
堺市は、今回の施設整備を通じて自転車を日常の交通手段としてだけでなく、観光・学び・健康・交流を生む都市インフラとして再定義しようとしています。「サイクルシティ堺」の名にふさわしい、中核的な拠点が新たに生まれようとしています。
【出典】
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堺市報道提供資料「自転車にぎわい拠点事業の優先交渉権者を決定しました」(2025年6月3日発表)
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日本経済新聞電子版「堺市が自転車拠点、多様なスポーツバイク体験 大和川沿いのロードに」(2025年6月3日公開)