
京都市の公共交通需要が、コロナ禍前の水準を明確に超え始めました。
京都市交通局が公表した令和7年度速報値によると、市バスと地下鉄を合わせた1日平均利用者数は76.2万人となり、コロナ禍前の令和元年度を初めて上回りました。内訳は、市バスが34.6万人、地下鉄が41.6万人。地下鉄はコロナ前比で3.6%増となり、過去最高だった前年度をさらに更新しました。
これは単なる「観光客が戻った」という話ではありません。地下鉄では、観光・買物・イベント・ビジネス利用などを含む定期外利用に加え、通勤定期、通学定期もそろって増加しています。京都の都市交通需要は、観光回復だけでなく、日常利用を含めて回復局面に入りました。
地下鉄が全体を押し上げた
| 区分 | 令和元年度 | 令和6年度 | 令和7年度 | R7/R6比 | R7/R1比 |
|---|---|---|---|---|---|
| 市バス | 35.7万人/日 | 34.0万人/日 | 34.6万人/日 | +2.0% | ▲3.4% |
| 地下鉄 | 40.0万人/日 | 40.2万人/日 | 41.6万人/日 | +3.4% | +3.6% |
| 合計 | 75.7万人/日 | 74.2万人/日 | 76.2万人/日 | +2.7% | +0.3% |
この構図は重要です。京都の交通需要は、単純にコロナ前へ戻ったのではありません。混雑しやすい市バスに需要が集中する従来型から、地下鉄を基幹軸として利用する方向へ、少しずつ重心が移っています。
インバウンドだけでは説明できない

地下鉄利用が過去最高になった背景には、インバウンド回復の影響があります。ただし、京都市交通局の統計では「外国人観光客」だけを切り出した乗車人員は公表されていません。そのため、「インバウンド客が地下鉄で何人増えた」とは断定できません。
数字として追えるのは、国籍別ではなく「定期外」「通勤定期」「通学定期」などの利用区分です。地下鉄の定期外利用は令和7年度に22.2万人/日となり、前年度比で3.8%増、コロナ前比で6.5%増となりました。ここには外国人観光客だけでなく、日本人観光客、買物客、イベント来訪者、業務利用なども含まれます。
| 地下鉄の主な内訳 | 令和7年度 | R7/R6比 | R7/R1比 |
|---|---|---|---|
| 定期外 | 22.2万人/日 | +3.8% | +6.5% |
| 定期全体 | 17.7万人/日 | +3.4% | +4.5% |
| 通勤定期 | 11.8万人/日 | +4.1% | +7.0% |
| 通学定期・大学 | 4.1万人/日 | +3.6% | +1.7% |
一方、京都市の観光統計でも、令和7年の観光客数は6,279万人、外国人観光客は1,268万人となり、いずれも過去最高を更新しています。観光需要の強い戻りが地下鉄利用を押し上げたことは確かですが、地下鉄過去最高の理由を「インバウンド増」だけに縮小すると、実態を見誤ります。
運賃収入も過去最高、だが経営危機が消えたわけではない

令和7年度の運賃収入は、市バスが213億円、地下鉄が272億円、両事業合計で485億円となりました。コロナ前比では市バスが6.3%増、地下鉄が5.6%増、合計で5.9%増となっています。地下鉄の運賃収入も、利用者数と同じく過去最高を更新しました。
ただし、これで京都市営交通の経営危機が完全に終わったわけではありません。
令和6年度決算では、市バスは10億円の黒字を確保しましたが、国や一般会計からの財政支援約7億円を含んだ黒字でした。地下鉄も26億円の黒字となった一方で、なお約3,000億円にのぼる企業債残高を抱えています。
さらに令和8年度予算では、市バスは人件費、運転士確保、物価高、前乗り後降り方式への着手などにより9億円の経常赤字を見込んでいます。地下鉄は9億円の経常黒字を見込むものの、企業債残高は約2,800億円と依然として高水準にあります。
つまり現在の京都市営交通は、「利用者減で沈む危機」からはかなり脱しました。しかし次に待つのは、戻ってきた需要をどう収益化し、同時に人件費、設備更新、安全投資、混雑対策、巨額債務の返済をどう乗り切るかという局面です。
市バス集中から地下鉄活用へ

京都市交通局は、市バス混雑の緩和策として、均一運賃系統60系統に「前乗り後降り方式」を導入する方針を示しています。令和8年度から取組に着手し、令和10年度末の導入を目指します。概算事業費は約20億円です。
背景にあるのは、観光回復で再び表面化した市バスの混雑、大型手荷物、ICカードエラー、高額紙幣対応、運転士不足といった課題です。市バスの輸送力を簡単には増やせない以上、地下鉄や鉄道への分散誘導は、京都の都市交通政策の中核になります。
京都は長く「バスで巡る観光都市」というイメージが強い都市でした。しかし、観光客、市民、学生、通勤客を同じバス網で受け止めるには限界があります。今後の京都に必要なのは、地下鉄を基幹軸に据え、バス、私鉄、JR、徒歩を組み合わせて移動需要を都市全体に分散させる交通体系です。
令和7年度速報値は、その転換が数字として表れ始めたデータといえます。地下鉄の過去最高更新は、京都市営交通にとって明るいニュースであると同時に、経営改善と混雑対策を同時に進める新しい局面の始まりでもあります。
出典・参考
・京都市交通局「市バス・地下鉄のお客様数(令和7年度速報値)」・京都市交通局「令和6年度市バス・地下鉄事業決算概要」
・京都市交通局「令和8年度市バス・地下鉄事業予算概要」
・京都市交通局「市バスの『前乗り後降り方式』の導入」
・京都市「令和7年 京都観光総合調査結果」
Visited 65 times, 65 visit(s) today
