
政府は2026年7月31日、地域の成長産業を育成する「戦略産業クラスター計画」の第1弾として、全国7地域・13件の計画を公表しました。近畿では、空飛ぶクルマ、バイオ・先端医療、ロケットの3分野が選ばれています。
新たな投資枠や交付金を活用し、企業の設備投資だけでなく、発着場や道路などのインフラ整備、規制改革、需要創出、人材育成までを一体的に支援します。大阪・関西万博で披露された先端技術を実証で終わらせず、2040年までに投資、雇用、輸出を生み出す産業集積へ育てる構想です。
近畿3分野に官民約1,241億円、付加価値増加は約4,162億円
| 分野 | 2040年までの主な目標 | 中核拠点・事業者 | 産業化の焦点 |
|---|---|---|---|
| 空飛ぶクルマ | 投資約348億円、付加価値増加約1,191億円、発着場約30カ所、人材約1,100人 | SkyDrive、Osaka Metro、大阪港、森之宮、淡路島など | 2029~30年度に運航形態を確立し、観光・交通サービスへ移行 |
| バイオ・先端医療 | 投資約388億円、付加価値増加約2,026億円 | 中之島クロス、神戸医療産業都市、神戸大学、日揮HD、クオリプス | 研究成果を実証、治験、量産、事業化へつなぐ |
| ロケット・射場 | 投資約505億円、付加価値増加約945億円、人材2,280人以上 | スペースワン、スペースポート紀伊 | 第2射点を整備し、製造、衛星、管制、観光まで集積 |
空飛ぶクルマは2040年に発着場30カ所、近畿を国内中核拠点へ

政府は近畿を「空飛ぶクルマ産業における我が国の中核的拠点」と位置づけ、2029~30年度に事業としての運航形態を確立する方針です。
大阪市内や兵庫県淡路島などの観光地を結ぶ遊覧飛行を想定し、既存施設の拡充を含め、2040年までに約30カ所のバーティポートを整備します。まず2028年度までに2地点を先行整備し、福井、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山を結ぶ広域運航網の構築を検討します。
大阪港には格納庫を備えたバーティポートが整備されているほか、SkyDriveとOsaka Metroは2028年をめどに森之宮エリアでの商用サービス開始を目指しています。兼松も大阪府内で、整備、駐機、充電、人材育成を担う「バーティハブ」の整備を計画しています。
| 育成対象 | 想定される産業・サービス |
|---|---|
| 機体・部品 | バッテリー、モーター、軽量素材、制御装置 |
| 運航基盤 | 航空管制、通信、低層気象、予約・運航管理 |
| 地上設備 | バーティポート、格納庫、充電、駐機、整備 |
| 用途開発 | 観光、空港アクセス、医薬品輸送、災害対応 |
| 周辺産業 | 保険、教育、人材育成、保守サービス |
運賃、需要、騒音、悪天候時の運休率、安全責任を踏まえ、ヘリコプターや鉄道にはない用途を確立できるかが焦点となります。
スペースポート紀伊を「射場」から宇宙産業の集積地へ

ロケット分野では、和歌山県串本町のスペースポート紀伊とスペースワンを核に、2040年度までに約505億円を投じます。
スペースワンが計画する第2射点の整備に加え、高規格道路、部品供給網、人材育成、企業誘致を一体で進め、紀南地域を「宇宙への玄関口」に転換する構想です。串本古座高校や田辺工業高校では、宇宙分野の教育も進められています。
| 必要な機能 | 地域への効果 |
|---|---|
| ロケット部品製造 | 地元企業のサプライチェーン参入 |
| 小型衛星開発 | 継続的な打ち上げ需要の創出 |
| 追跡・管制、地上局 | 高度人材と関連企業の集積 |
| 物流、保険、データ利用 | 打ち上げ後も収益を生む事業の形成 |
| 観光・教育 | 交流人口、宿泊、地域消費の拡大 |
足元では、スペースワンのカイロス3号機が2026年3月5日の打ち上げ後、約68.8秒で飛行を中断し、衛星の軌道投入には至りませんでした。2025年の軌道投入ロケットの打ち上げ成功数は、米国192回、中国91回に対し、日本は3回にとどまります。
まずは打ち上げ成功率と頻度を高め、安定した商用サービスを確立する必要があります。そのうえで、射場の存在を企業誘致、人材育成、観光振興へ波及させられるかが問われます。
バイオは京阪神の研究力を「量産と収益化」へつなぐ

出展:神戸医療産業都市
バイオ・先端医療では、京都、大阪、神戸に集積する大学、病院、研究機関、企業を結び、研究成果を量産や事業化へ移す仕組みを整えます。対象は創薬だけではありません。微生物を利用するバイオものづくり、バイオ医薬品、再生医療、AIやロボティクスを活用した先端医療まで含まれます。
| 拠点・事業 | 主な役割 |
|---|---|
| 中之島クロス | 再生医療の研究、臨床、事業化支援 |
| 神戸医療産業都市 | 医療機関、研究所、企業の集積 |
| 神戸大学バイオものづくり研究棟 | 微生物・細胞を使った生産技術の研究 |
| 日揮HD「JBX1・JBX2」 | CO₂などを原料とするガス発酵技術の実証 |
| DP-Lab KOBE、アイパーク神戸 | スタートアップ、企業向け研究環境 |
一方、国際競争は激化しています。特許庁の2022年度調査では、iPS細胞を含むヒト幹細胞関連技術の臨床試験件数のうち、米国籍企業が5割近くを占めました。日本では、研究成果が生まれても、治験、薬事承認、パイロット生産、量産の段階で資金と人材が途切れやすいことが課題です。
今回の計画は、共同利用型の実証設備、GMP人材、原材料供給、リスクマネーを整え、研究から製品化までの空白を埋める狙いがあります。
万博で生まれた技術と連携を、近畿の産業基盤へ
政府が近畿で3分野を重点化する背景には、それぞれの産業を支える既存資産があります。| 分野 | 近畿の既存資産 |
|---|---|
| 空飛ぶクルマ | 万博での実証経験、都市交通・観光需要、航空機関連企業 |
| ロケット | 民間ロケット射場、紀南地域の地理的条件、宇宙教育 |
| バイオ | 大学、病院、製薬・化学企業、神戸医療産業都市、中之島クロス |
今回のクラスター計画は、万博を契機に生まれた技術や企業間連携を、近畿の新たな産業基盤へ発展させる試みです。実証、研究、施設整備を個別に進めるのではなく、広域的な産業集積として結び付ける点に特徴があります。
目標額より重要な「資金と人が集まり続ける仕組み」
3分野はいずれも、技術開発から収益化まで長い時間を要します。今回の投資額や付加価値増加額は、確定した国費や企業の投資契約ではなく、企業への聞き取り、市場成長率、政策シナリオを基にした目標値です。実現には、補助金による初期投資だけでなく、民間資金、人材、規制対応、海外市場を継続的に呼び込む仕組みが欠かせません。
| 今後の焦点 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 政府支援 | 新設する投資枠・交付金の規模と採択事業 |
| 空飛ぶクルマ | 型式証明、運航事業者、発着場30カ所の配置 |
| 民間ロケット | 次号機の成功、第2射点、年間打ち上げ回数 |
| バイオ | 量産施設、治験支援、民間投資、海外展開 |
| 人材・資金 | 技術者、経営者、リスクマネーを呼び込めるか |
技術が実用化され、企業が集まり、人材と資金が循環し、地域に継続的な収益が残る仕組みを築けるか。2040年の目標達成を左右するのは、施設数や投資額以上に、その産業循環を構築できるかどうかです。
出典
- 内閣官房「戦略産業クラスター計画」関係資料
- 内閣府「経済財政諮問会議」関係資料
- 日本経済新聞「空飛ぶクルマ発着場、近畿で40年に30カ所 政府が産業集積後押し」2026年8月4日
- 大阪府「空飛ぶクルマ都市型ビジネス創造都市推進事業」
- 和歌山県「宇宙への玄関口・スペースエントランス構想」
- スペースワン株式会社
- SkyDrive株式会社
- 日揮ホールディングス株式会社
- 神戸大学
Visited 320 times, 320 visit(s) today
