大阪は「国際金融都市」になれるのか?香港・シンガポール・ソウル・東京と比べて見えた現在地と、大阪に残された勝ち筋


大阪が「国際金融都市」を目指す。そう聞いても、多くの人はまだその輪郭をつかみにくいはずです。

関西には世界に通用する企業がたくさんあるのに、大型の資金調達や海外M&Aになると、なぜか実務の主役は東京の投資銀行や法律事務所になる。企業は関西にあるのに、案件は東京で回る。この違和感こそが、大阪の現在地を最もよく表しています。実際、GFCI 39では香港3位、シンガポール4位、ソウル8位、東京10位に対し、大阪は26位です。大阪は金融の世界地図から外れているわけではありませんが、上位都市とはまだ距離があります。

つまり問うべきなのは、「大阪は香港や東京のような国際金融都市になれるのか」という大きすぎる話ではありません。本当の論点はもっと具体的です。なぜ関西の企業活動から生まれる金融案件が、大阪に蓄積されず東京へ流れるのか。その理由をたどると、大阪の課題と勝ち筋の両方が見えてきます。

結論を先に言えば、大阪が香港や東京のようになるのは難しい。ですが、大阪取引所(OSE)を核に、JPXグループの市場基盤とつながる専門特化型の金融拠点としてなら、十分に勝機があります。大阪に必要なのは、総合力での正面衝突ではなく、「この機能なら大阪を通さざるを得ない」と言われる領域をつくることです。

国際金融都市は、「銀行が多い街」ではなく「資本が都市の中で回る街」



国際金融都市というと、銀行や証券会社が多い街をイメージしがちです。ですが、実際はもっと構造的です。都市の中で、案件を生み出す機能と、市場を支える機能の両方がつながって初めて、金融都市としての厚みが生まれます。JPXは東京証券取引所、大阪取引所、東京商品取引所、そしてJSCCをグループ内に持ち、JSCCは清算機関として独立した機能を担っています。取引所、清算、担保、決済といった市場インフラは、単なる裏方ではなく、市場そのものを成立させる中核機能です。

ここでいう前工程(オリジネーション)とは、M&A、株式・社債発行、資金調達、ファンド組成など、案件をつくり、資本の流れを組み立てる機能のことです。投資銀行、証券会社、資産運用会社、法律事務所、会計事務所などが主役になります。

一方、後工程(インフラ)とは、取引所、清算、決済、証拠金管理、リスク管理など、市場を安全に回すためのインフラ機能です。こちらは表に出にくい一方で、金融市場の信頼性を支える土台です。

大阪の現在地を一言で言えば、市場インフラや後工程には相対的な強みがある一方、案件組成や資産運用など前工程の厚みはなお限定的、ということです。このアンバランスがなぜ生まれているのか、そして大阪はどこから突破口を開くべきか、という点を以下で考察します。

国際金融都市を支える5つの機能


機能 何をするか 厚い都市ほど起きること
オリジネーション M&A、ECM、DCM、資金調達、案件組成 案件が都市に集まり、人材も集まる
マーケット 株式、債券、為替、デリバティブの売買 流動性が厚くなり、さらに参加者が増える
資産運用 ファンド、PB、WM、機関投資家対応 長期資金が定着し、都市の金融の厚みになる
市場インフラ 取引所、清算、決済、証拠金管理 「その都市を通す理由」が生まれる
専門サービス 法務、会計、税務、規制対応 海外案件でも現地完結しやすくなる

香港・シンガポール・東京は「通さざるを得ない機能」を持つ

アジアの主要都市は、同じ「国際金融都市」でも勝ち方がかなり違います。香港は中国本土との接続、シンガポールは資産運用と制度競争、東京は日本国内最大市場の総合力が核です。香港では2024年末の資産・ウェルスマネジメント関連残高が35.1兆香港ドル、シンガポールでは2024年のAUMが6.07兆シンガポールドルに達しています。定義は完全には同一ではないものの、いずれもその都市を通って大きな資金が回っていることを示す参考指標と言えます。


都市 強みの核 いまの立ち位置
香港 中国本土との接続、IPO、オフショア人民元、PB/WM 中国関連マネーの玄関口
シンガポール 資産運用、英語完結、制度安定、地域統括 富裕層資産と運用拠点の集積地
東京 国内最大の案件集積、投資銀行、専門サービス 日本の金融中枢
ソウル 国内市場、IT基盤、政策支援 韓国市場の中心
大阪 OSE、実体産業との近さ、特区制度 市場インフラに強み、前工程は薄い

都市別の機能の厚み

機能 香港 シンガポール 東京 ソウル 大阪
オリジネーション(M&A、ECM、DCM、案件組成)
マーケット(株式・債券・為替)
資産運用・PB・WM
デリバティブ・清算
国際専門サービス(法務・会計・税務)
英語完結の行政・生活支援
フィンテック/デジタル金融
実体産業との近接性

大阪の「デリバティブ・清算」は、OSEを核に、JPXグループの清算基盤と接続した市場機能として評価。JSCC自体の本社は東京。

都市の実力は、プレーヤーの顔ぶれを見るとはっきりする

都市の金融機能は、制度だけでなく、実際にどんなプレーヤーがどの機能で集まっているかを見ると、さらに分かりやすくなります。

香港やシンガポール、東京では、グローバル投資銀行や資産運用会社が前工程を厚く支える構造があります。

これに対して大阪は、OSEやODX(大阪デジタルエクスチェンジ)といった市場インフラの核は持つ一方、進出プレーヤーはVC、フィンテック、クロスボーダー支援、BCP・決済関連など、周辺機能の比重がなお高い段階にあります。

ライバル都市と大阪の代表的プレーヤーの


都市 主なプレーヤーの例 市場インフラ 特徴
香港 Goldman Sachs、Morgan Stanley、J.P. Morgan、BlackRock など HKEX、HKCC 中国関連案件と国際資本市場が一体で回る都市
シンガポール Goldman Sachs、Morgan Stanley、J.P. Morgan など SGX、CDP、SGX-DC 資産運用と東南アジア統括機能が厚い都市
東京 Nomura、Daiwa、BlackRock Japan など JPX、東証、JSCC 日本最大の前工程・国内案件集積地
ソウル Goldman Sachs Seoul、Morgan Stanley Seoul、UBS Korea など KRX フィンテックに強み。国内市場を軸に外資も一定の厚みを持つ都市
大阪 UBS大阪オフィス、モルガン・スタンレーMUFG証券、Chang Hwa Bank、Monex Ventures など OSE、ODX 市場インフラは強いが、プレーヤーはVC・フィンテック・地域開拓・BCP/周辺機能の比重がまだ高い
この表の読み方で大事なのは、大阪に拠点がある外資系金融機関を、そのまま“前工程の厚み”と同義にしないことです。大阪府市の公式説明では、たとえばモルガン・スタンレーMUFG証券の大阪拠点は、BCP拠点として一部バックオフィス業務や決済・管理継続を担う性格が示されています。

顔ぶれまで落として見ると、香港・シンガポール・東京は前工程の厚みが際立つ一方、大阪はOSEやODXといった市場インフラを核に、周辺プレーヤーが積み上がり始めている段階だと分かります。

核心は、制度不足ではなく「関西の案件が東京で処理される構造」



大阪の課題は、制度がないことではありません。金融・資産運用特区の対象地域に選ばれ、大阪グローバルファイナンス・ワンストップサポートセンターでは、金融ライセンスから生活面まで英語・日本語で支援しています。入口整備は以前よりかなり進んでいます。

それでも厚くなりにくいのは、案件をつくる機能です。M&A、株式・社債発行、ファンド組成、海外資金調達などを設計し、実行する力。金融の言葉でいえば「前工程」にあたります。

関西には、製造業、医薬、部材、ライフサイエンスなど世界に通用する企業群があります。にもかかわらず、大型の資金調達や海外M&Aになると、実務は東京の投資銀行、法律事務所、会計事務所を通ることが多い。結果として、案件が東京に集まり、知見も人材も東京に蓄積される。大阪は制度を整えても、案件の自己増殖が起きにくいのです。

大阪の問題は、努力不足だけではありません。案件、人材、意思決定が東京に集まる構造的な不利にあります。

大阪にある機能と薄い機能


項目 判定 理由
取引所・市場インフラ OSEという代替されにくい市場インフラを持つ
デリバティブ関連人材の土台 取引所周辺の実務が集まりやすい
実体産業との近接 製造業、医薬、ライフサイエンスとの距離が近い
英語支援・特区制度 特区指定、ワンストップ支援、英語対応が進展
グローバルIBフロント 拠点はあっても案件集積の厚みは限定的
グローバルAM/PB 誘致は進むが、都市機能としてはまだ薄い
国際法務・税務の厚み 対応可能だが、東京級の集積には達していない
大型案件の起点化 関西企業案件でも東京経由が多い
 

大阪の勝機は、OSEという代替されにくい市場基盤にある



大阪の決定的な強みは、OSEを核とするデリバティブ市場です。

FY2025の売買代金は3,994兆円、2026年3月単月では過去最高の587兆円を記録しました。重要なのは数字の大きさだけではありません。デリバティブ市場は、流動性と参加者が集まるほど他の市場に移りにくくなる傾向があります。OSEは、日本のデリバティブ市場において、そうした流動性の厚みと粘着性を持つ市場の一つです。リスク管理、担保管理、デリバティブ法務、クオンツといった専門機能が大阪に引き寄せられる構造的な理由が、ここにあります。

ODXの動きも見逃せません。日本初のセキュリティトークン二次流通市場「START」の運営、2023年の本社移転。これは単なる拠点設置ではなく、既存の大市場では扱いにくい資産や案件に対して、大阪が新しい流通レイヤーをゼロから作り始めたということです。

スタートアップの資金調達、ライフサイエンス企業の成長資金、大学発の知財を裏付けにした調達。東京の既存市場とは異なるレイヤーで、新しい資金調達や流通の仕組みを試しやすい点は、大阪の特徴です。スタートアップ、ライフサイエンス、大学発技術など、従来型の大市場では扱いにくい領域で、大阪が先行余地を持つことを示しています。

では、この強みを起点に、大阪はどう戦略を組み立てるべきか。ここで参照すべき都市が一つあります。

大阪が学ぶべき相手は、東京よりむしろシンガポールだ



大阪が学ぶべき都市は、シンガポールです。

シンガポールは香港のコピーを目指しませんでした。香港が中国本土との接続という圧倒的な固有性を持つ以上、同じ土俵で戦っても勝ちにくい。そこでシンガポールは、英語完結の制度、政治的安定、資産運用、富裕層資産の管理に強みを集中させました。

MASの2024年調査でAUMが6.07兆シンガポールドルに達しているのは、その戦略が機能していることを示しています。大阪も、東京と同じ総合型金融都市を目指すより、東京に代替されにくい機能に絞る方が現実的です。

大阪が目指すべきなのは「総合型」ではなく「専門特化型」の国際金融拠点


項目 内容
目指す姿 総合型ではなく、専門特化型の国際金融拠点
核となる資産 OSE、特区制度、実体産業との近さ、ODX
厚くすべき機能 デリバティブ、リスク管理、担保管理、クオンツ、デリバティブ法務、周辺システム
接続すべき領域 ライフサイエンス、ディープテック、製造業、大学発スタートアップ
差別化の軸 東京の代替ではなく、「大阪を通す理由」を作ること
ここに関西の実体産業の近さを組み合わせると、絵がかなりはっきりします。大阪・関西には、製造業、医薬、ヘルスケア、研究開発型スタートアップが集積しています。東京の大型案件市場を奪うのではなく、実体産業に近い場所で専門性の高い成長資金を回す方が、よほど現実的です。

誘致件数ではなく”大阪で何が回り始めたか”を直視する



大阪の金融戦略が前に進んでいるかどうかは、「何社誘致したか」だけでは判断できません。大事なのは、大阪で何が回り始めたのかです。

たとえば、関西企業の大型資金調達や再編案件で、大阪拠点の金融プレーヤーが主役になる事例が増えてくること。あるいは、OSE周辺に、リスク管理、デリバティブ法務、クオンツといった専門人材や企業が集まってくること。さらに、ライフサイエンスやディープテックなど関西の成長分野に対して、大阪発の資金供給やファンド組成が目に見えて増えてくることです。
見るべき変化 何が起きれば前進と言えるか
関西企業案件の地元化 関西企業の大型案件を大阪拠点が主導する事例が増える
専門人材の集積 OSE周辺にリスク管理や市場実務の人材・企業が集まる
成長産業への資金供給 ライフサイエンスやディープテックに大阪発の資金が流れる

「東京の縮小版」ではなく「この機能なら大阪」と言われる都市を目指す

大阪は、香港や東京のような総合型の国際金融都市になるのは難しい。
これは現実です。

大阪に必要なのは、東京と同じ土俵に立つことではありません。「この機能なら大阪を通さざるを得ない」と言われる領域を、一つ持つことです。

その領域は、すでに存在しています。OSEを核とするデリバティブ市場、ODXが切り拓くデジタル流通レイヤー、関西の実体産業との距離の近さ。これらは制度上の話ではなく、今この瞬間も動いている現実です。

リスク管理、担保管理、専門法務、ライフサイエンスへの成長資金。東京の既存市場とは異なるレイヤーで、大阪が役割を取りやすい領域が見え始めています。

10年後に「あの時が転換点だった」と言われる条件は、すでに揃い始めている。大阪の可能性は、これから作るものではなく、すでにあるものをつなげることで生まれます。




出典元
・The Global Financial Centres Index 39(Long Finance / Z/Yen)
・Hong Kong SFC「Asset and Wealth Management Activities Survey 2024」
・Monetary Authority of Singapore「Singapore Asset Management Survey 2024」
・Japan Exchange Group(JPX)「Trading Overview in FY2025 & March 2026」
・Japan Exchange Group / JSCC 公式サイト
・Global Financial City OSAKA 公式サイト
・金融庁「金融・資産運用特区」関連資料
・大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)公式サイト

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