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TSMCが日本に半導体工場建設を検討中だが実現するかは流動的。米国がアジアの競争相手を弱体化させる戦術をとるリスクを懸念






半導体の受託生産世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が、日本に半導体工場を建設することを検討している事が明らかになりました。同社は、コロナ禍の影響でスマートフォンやノートパソコン、自動車向けの半導体需要の急増を受け、中国・米国の生産能力を増強し、日本に新工場を建設する事を検討しています。

TSMCの魏CEOは2021年7月15日に行われた、第2四半期の決算発表後の質疑応答で「当社は日本でウエハー工場に関するデューデリジェンスの過程にある」と述ました。日本では特殊技術(スペシャルティーテクノロジー)の半導体工場を検討しているとの事ですが、この言葉は、通常特定の市場やニッチな市場に対応する成熟したノードのチップを指すので、残念ながら最先端技術の工場ではなさそうです。

【出展元】
TSMC Is Considering Building a Chip Plant in Japan, CEO Says
英特爾有意收購GlobalFoundries 價碼約300億美元

 

 


出典:TaiwanSemiconductor Manufacturing CompanyTSMC

続いて、米国および中国での生産能力拡大計画についても説明し、中国の生産能力を拡大するほか、米アリゾナ工場の「第2段階」の拡張を行う可能性も排除しないと語りました。TSMCは顧客の「緊急の必要性」により28ナノメートルの半導体製造技術を用いて、中国の南京でも生産能力の拡大を計画、来年から生産を開始する予定で、最終的には2023半ばまでに月産4万枚に引き上げるとのことです。

また、マーク・リュー会長は、日本での工場建設についてはまだ最終決定ではない、最終的な結果は、顧客の需要に左右されると延べました。今年は、世界的な半導体不足で自動車などの生産に支障をきたしたことから、米国、中国、欧州、日本の各国が自国での生産能力の拡大を目指しています。

 

 

 

 



TSMCは、最先端のチップを作るための最も高度な技術を持っているため、世界中の政治家からアプローチを受けています。6月には、自民党の甘利議員が、日本が安定した半導体基盤を構築するためにはTSMCの協力が不可欠であると述べ、TSMCに期待を寄せ、アメリカやヨーロッパに追いつくためには、日本は何兆円もの資金を費やす覚悟が必要だと述べました。トヨタや日産などの自動車メーカーは日本経済の礎であり、生産を維持するためには安定したチップの供給が不可欠です。

 

 

 


Photo by Chien-Tong Wang/CW

経済産業省は、今年初めに報告書を発表し、食料やエネルギーの確保と同様に重要な「国家プロジェクト」として、日本のチップ産業の成長を促進することを求めてます。世界の半導体売上高に占める日本のシェアは、1988年の50%から2019年にはわずか10%にまで低下しました。日本にはまだ84のチップ工場があり、これは世界で最も多いのですが、十分なハイエンド製品を生産していません。その結果、かつて半導体で覇権を握っていた日本は現在では、半導体の64%を輸入しなければならなくなっています。

 

 

 


出典:ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング

TSMCは、つくばに研究開発拠点を新設する事が明らかになっています。総事業費は約370億円で、日本政府が約半分の190億円を補助する方針。半導体の製造工程のうち、回路が刻まれた半導体をカットして製品の形に組み立てる「後工程」の施設との事です。TSMCの規模から考えると非常に小規模な研究拠点で、内容も「後工程」の為、過度な期待はできないと思います。

また、新工場については複数の報道機関が、半導体産業が集積する九州地方を中心に検討、熊本のほかに北九州市なども候補に挙がっている、と伝えています。なかでも熊本については具体的な内容が報じられており、実現すれば熊本県・菊陽町にあるソニーGのイメージセンサー工場近くに建てる計画で、自動車や産業機械、家電などに使う回路線幅20ナノ―40ナノメートルのミドルエンド品を生産する模様です。

 

 

インテルがグローバルファウンドリーズの買収を模索

 



日本政府はTSMCの進出を切望していますが、TSMCが置かれた状況は急激に変わりつつあります。米国の半導体業界の王者インテルの動きがアジアのファウンドリーへの圧力を高めるかもしれません。

ウォールストリートジャーナル(WSJ)は、インテルが約300億米ドルの価格でグローバルファウンドリーズ(GlobalFoundries)を買収する機会を模索していると独占的に報じました。実現すればインテルにとっての歴史上最大の買収となります。

グローバルファウンドリーズは、かつてAMDのチップ製造部門でしがた、現在はアブダビに本拠を置くムバダラ・インベストメント社が所有し、米国に本社を置いています。2021年第1四半期の世界市場シェアは約7%で、TSMC、UMC(2303)、サムスンに次ぐ第4位に位置しています。

GlobalFoundries社はかつて先進プロセスレースに参加していましたが、2018年に撤退を表明し、7nm以下の技術への投資を断念、14/12nm以上の成熟した特殊なプロセスに注力しています。 ここ数年、財務状況の悪さから資産売却のジレンマに陥ることが多く、工場を低価格で売却したことで業界から揶揄されることもありました。

しかし、新型コロナウィルスの流行は、DXの流れを加速させ、半導体業界全体にブームを巻き起こし、GlobalFoundries社では2020年以降に受注が殺到、経営が大きく好転することになりました。 最近では、シンガポールに新工場を設立することを発表し、アメリカやドイツなどでも生産能力の拡大を計画しています。

 

経済的意義よりも政治的意義

 


GlobalFoundries社は、資産の整理を急いでいた過去に比べ、最近の同社は市場へのアプローチをより積極的に行い、復活を目指してかなりの意気込みで臨んでいます。 そのため、市場では、インテルがグローバルファウンドリーズの買収に関心を持っていると噂されている背景には何があるのかが注目されています。

業界関係者によると、インテルがグローバルファウンドリーズを買収することは、グローバルファウンドリーズの技術が14/12nmにとどまっていることから、両社の規模や技術力から見て、「金銭的な意味」はほとんどないといいます。 売上規模では、インテルの2020年の売上は778億米ドルであるのに対し、グローバルファウンドリーズの昨年の推定売上は57億米ドル以上であり、合併による業績への貢献は限定的です。

では、インテルは何を目論んでいるのでしょうか。 インテル社の最近のCEOであるパット・ゲルシンガー氏は、最近外国の報道機関に宛てて、製造のためだけに米国に来ている外国企業に補助金を出さないよう政府に要請し、噂されている合併の基盤を固めました。

インテルがTSMCの先進的な製造プロセスを求め、政府に補助金を求めないことを公言しているのは、国際的な大企業の典型的な考え方であると彼は考えています。 インテルはまだ先進的な製造プロセスに「行き詰まって」おり、競争力のある製品のために多くのリソースを確保し、時間通りに発売するためには、外部のファウンドリーに頼らざるを得ません。 半導体メーカーにとって、これはその場しのぎであり、必要に迫られての選択であり、国が提供する恩恵を「部外者」が享受するのは喜ばしいことではありません。

半導体の戦略的重要性が著しく高まる中、米国の半導体産業を「統一」しようとするインテルの野望が明らかになってきました。 グローバルファウンドリーズは最近、生産拡大を進め、資本市場に参入する意向を表明していますが、この希有な栄光を利用して、有利な価格で販売し、取引を確保する可能性も否定できないといます。

 

 

M&Aが実現すれば、アジアのファウンドリーへの圧力が高まる


実際、業界では最近、米国が他のアジアの競争相手を弱体化させる戦術(米国の技術の使用に課税するなど)を取るのではないかとの懸念が表明され始めており、最前線にいるTSMCがその最初の犠牲者になるかもしれません。

おそらくTSMCもこの将来の不安を感じている為、アメリカや日本など幅広い地域に拠点を持ち、高度なR&D技術は台湾に残し、生産はグローバルで主要顧客に近いところで行うという戦略で、グローバルな展開を積極的に行っています。

また、TSMCの保守的な値上げ戦略にもヒントがあります。 昨年の第4四半期以降、ファウンドリー向けに値上げの波が押し寄せていますが、TSMCは無差別に値上げをするのではなく、販売割引の取り消しや、一部の成熟したプロセスの微調整にとどめています。

ポストトレードの時代、地政学的リスクはどの企業にとっても無視できない課題となっています。 TSMCにとっては、混沌とした時代であればあるほど、主要顧客と同じ側にいることが重要であり、それは長期的なオペレーションの傘にもなります。 TSMCが繰り返し強調してきたように、TSMC3つの強みのうち、技術、生産、顧客の信頼が不可欠です。

 

 

この記事の まとめ

 



半導体はハイテク産業にとって「水や電気」と同じぐらい重要で、日本の主要産業である自動車やカメラなどの生産に不可欠な存在です。半導体の安定供給は国家レベルでのリスク管理に関わる為、世界最大手のTSMCの工場を国内に誘致し半導体の供給を安定する必要があります。

しかし世界レベルで見るとライバルのインテル社などの動きが活発化しており、インテルはグローバルファウンドリーズを買収し米国の半導体産業の「統一」を目論んでいます。また、TSMCは米国がHUAWEIなどに行った様に、他のアジアの競争相手を弱体化させる戦術をとるリスクを懸念しています。TSMCは米国の動向を踏まえつつ、グローバルで俯瞰した情勢に基づき投資先を決定します。その為、日本の熊本などに新工場が出来る可能性は、いまだ流動的とみられます。

1 COMMENT

大阪淀屋

よく調べていますね。驚きました。
半導体だけでなく、スマホ、そして電気自動車分野でも日本は遅れており、もどかしい限りです。
それもこれもTSMCにしろサムスンにしろ投資額が莫大で、社長のリーダーシップが弱く、利益率が低いうえ、各分野に満遍なく投資する日本の企業では世界競争は出来ない。
その典型がパナソニックでリチウム電池これから需要が急拡大するという時期にトヨタと合弁会社をつくり主導権はトヨタに渡し、競争から降りた、その間に中韓勢は大投資で急伸してパナをあっさり世界一位から降ろした。
TSMCは年間3兆円の投資予算で、米に1兆円、中国に3000億の投資を行い、欧州からも要望があるが最先端の工場は台湾以外に作らないと明言している。一番は人材である。台湾では高度な人材が集まりやすいということ。サムスンが必死になっても追いつけない開発能力と製造技術能力が必要な企業である。
TSMC潰しはインテルが必死になっても追いつけないし、スマホのトップメーカーアップルが反対するだろう。
私は熊本に自動車向けの半導体工場は出来ると思うが、相当な補助金が必要だろう。

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