大阪・関西万博をめぐり、SNSや一部メディアでは「万博のために13兆円もの税金が使われる」という情報が拡散しています。しかし、内閣官房と経済産業省の公式資料を読み解くと、大半が万博とは直接無関係な国家的プロジェクトであり、この「13兆円」という数字が意図的にミスリードされている事実が浮かび上がります。本稿では、国の公式資料をもとに支出の内訳を整理し、冷静な視点から万博に「13兆円」という誤解を解き明かしていきます。
万博に必要な本当の国の支出額は約1,768億円

まず、万博に「直接」必要な国の支出は、以下の通りです。
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会場整備費(博覧会協会の国負担分):約783億円
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日本政府館建設費:約360億円
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途上国・国連等出展支援:約240億円
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万博会場の安全確保(警備資機材等):約255億円
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全国的な機運醸成(広報・交流事業):約103億円
これらを合計すると約1,741億円、さらに過去の誘致活動費約27億円を加えても、国の直接支出は、約1,768億円にとどまります。「万博に13兆円の税金」という認識がいかに大きくズレているかがわかります。
13兆円の内訳を解剖――ほとんどがインフラ整備だった
国が公表した「万博関連費用 約13兆円」の中身を精査すると、実際には万博招致計画以前から進められてきた国家的プロジェクトが数多く含まれています。
たとえば、新名神高速道路、京奈和自動車道、なにわ筋線、大阪湾岸道路西伸部などは、万博の影も形もなかった時代から既に着手されていた事業です。さらに、四国や中部地方の高速道路整備(鳥取豊岡宮津自動車道、中部縦貫自動車道、四国横断道など)まで対象に含まれており、
関西圏以外のインフラ事業も「万博関連費用」としてカウントされています。これらの事業は、防災、交通政策、地域振興といった本来の行政目的に基づいて実施されてきたものであり、万博開催とは直接の因果関係がありません。
内閣官房の公式資料でも、
「インフラ整備計画に関係する施策は、あくまでも本来の行政目的のために実施する事業であり、『大阪・関西万博のための新規又は追加的なものではない』」
と繰り返し明記されています。
万博招致前から進んでいた計画とは?――国家プロジェクトを整理
実際に、万博とは独立して進められていた主なプロジェクトを分野別に整理すると、次の通りです。
| 分野 | 主なプロジェクト・施策 |
|---|---|
| ① 広域インフラ整備 | 新名神高速道路、大阪湾岸道路西伸部、淀川左岸線延伸部、京奈和自動車道、北近畿豊岡道、鳥取豊岡宮津道、中国横断道、四国縦貫・横断道、中部縦貫道、東播磨道、関空機能強化、国際コンテナターミナル整備 |
| ② 鉄道・軌道整備 | なにわ筋線、北大阪急行延伸、大阪メトロ中央線延伸、大阪モノレール延伸 |
| ③ 防災・減災・安全対策 | 河川改修(淀川、大和川、桂川、宇治川、木津川)、安威川ダム、遊水地、無電柱化、耐震補強、此花ポンプ場 |
| ④ 都市再生・まちづくり・観光振興 | うめきた2期、御堂筋再編、水都大阪、中之島・道頓堀川周辺再整備、枚方市駅・大浜北町再開発、自転車空間整備 |
| ⑤ 研究・技術開発 | カーボンニュートラル、空飛ぶクルマ、自動運転、フードテック、健康医療・介護ロボット、防災DX、量子・宇宙・海洋技術(※GI基金・革新的研究推進基金内数) |
| ⑥ 国家文化・教育・観光政策 | クールジャパン戦略、日本博2.0、修学旅行支援、ジュニアEXPOプログラム、MICE誘致、スポーツ振興 |
これらは、万博とは関係なく推進されてきたものであり、「万博のために新たに決まった事業」ではありません。
なぜ「万博関連」に括ったのか?――国の狙いを読み解く
本来、各事業はそれぞれの行政目的に基づき推進されてきたものですが、あえて「万博関連費用」として括った背景には、いくつかの政策的意図が存在します。
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万博を全国規模の成長戦略の起爆剤に位置づけたい政府の狙い
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各省庁が施策推進力と予算執行の正当性を高めたい意図
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国民に「万博がもたらす成果」を可視化して示したい説明責任意識
さらに、ここにはもう一つ、関係各所の「頑張ってますアピール」の側面もあります。実際、過去のナショナルイベント(例:東京オリンピック、愛知万博)と比べても、大阪・関西万博をきっかけに新規に立ち上がった大型プロジェクトはごくわずかです。このため、既存事業をできるだけ「万博関連」としてまとめ、国全体で積極的に取り組んでいる姿勢を国民にアピールしようとする意図もうかがえます。
その結果、
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「万博のために巨額の税金が使われている」という誤解
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「本当に万博と関係があるのか?」という不信感
が拡がる副作用も生じています。
13兆円デマに惑わされないために

「万博に13兆円」というインパクトある数字だけを見て議論するのは危険です。
実際には、
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万博開催に直接関係する国の支出は約1,768億円に過ぎない
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13兆円の大半は、万博とは独立して推進されていた国家的施策
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国自身が「新規または追加的なものではない」と明記している
という事実が存在します。
内閣官房の公式発表によれば、万博に直接関係する国の支出は約1,768億円にとどまっています。これは、当初から整備が予定されていたインフラ計画や、防災対策、研究開発プロジェクトとは明確に区別される支出です。
それにもかかわらず、一部のマスコミやSNSでは「万博に13兆円」というインパクトだけを強調し、あたかも万博そのものに13兆円もの税金が投じられるかのような情報が流されています。これは、冷静な事実に基づくものではなく、プロパガンダの一種と見るべきでしょう。
さらに、こうした「万博13兆円」論を、あえて繰り返し拡散し続けるメディアやSNSアカウントも存在します。実態を知りながら、意図的にミスリードを図っているケースもあり、国民の冷静な判断力が試される状況となっています。
数字のインパクトに騙されず、正確な内訳と背景を理解することが、今、私たちに求められています。大阪・関西万博を通じて社会インフラを強化し、未来へ向けた投資と成長をどう実現するか――。この本質的な議論を、デマや扇動に惑わされることなく、しっかりと進めていく必要があります。




