神戸市「郊外・既成市街地の再生に向けたスポンジ化対策要綱」の素案を公表。空き家・空き地対策を住宅・交通・商業一体の地域再生へ



神戸市は、空き家や空き地が市街地に虫食い状に広がる「都市のスポンジ化」への対策を本格化します。2026年8月4日、「郊外・既成市街地の再生に向けたスポンジ化対策要綱」の素案を公表し、9月4日まで市民意見を募集しています。

今回の要綱は、老朽住宅の解体や空き家の流通促進といった個別対策にとどまりません。住宅、交通、商業、公共空間、地域活動を一体的に捉え、地域単位で再生を進める枠組みです。

空き家対策を「点」から「面」へ広げ、人口が減少しても生活サービスと地域価値を維持できる市街地への転換を目指します。

空き家を減らすだけではない―神戸市が始める「人口減少時代の都市経営」


項目 内容
制度名称 郊外・既成市街地の再生に向けたスポンジ化対策要綱
現在の段階 素案を公表し、市民意見を募集
募集期間 2026年8月4日~9月4日
主な対象 郊外ニュータウン、山麓部などの既成市街地
基本方針 空き家、交通、買い物、公共空間、地域活動を一体的に再生
制度の性格 新たな規制や罰則ではなく、既存施策を地域単位で組み合わせる行政指針
神戸市内の空き家は、2023年時点で約11万8,400戸、空き家率は13.9%に達しています。このうち、賃貸や売却、別荘などに使われていない空き家は約3万9,500戸です。

もっとも、問題の本質は空き家の戸数そのものではありません。地域人口が減れば、商店やスーパー、診療所、路線バスなどの利用者も減少します。生活サービスが縮小すれば住宅地としての魅力が低下し、若い世帯の流出と空き家の増加がさらに進みます。

人口減少
→ 空き家・空き店舗の増加
→ 交通・商業サービスの縮小
→ 生活利便性と地域イメージの低下
→ 若年世帯の流出
→ さらなる空き家の増加


神戸市が食い止めようとしているのは、この負の連鎖です。今回の要綱は、空き家を減らすためだけの住宅政策ではなく、人口減少下でも地域の暮らしを維持する都市経営の枠組みと位置付けられます。

なぜ神戸で深刻化するのか ニュータウンと山麓住宅地が抱える構造問題

神戸市では、地域によってスポンジ化の原因と現れ方が大きく異なります。
地域 構造的な課題 求められる対応
郊外ニュータウン 同世代が一斉に入居したため、高齢化、相続、空き家化が同時に進みやすい 若年世帯の転入、住み替え、近隣センターやバス路線の維持
山麓部の既成市街地 坂道、狭い道路、未接道・狭小宅地が多く、再建築や売却が難しい 隣接地との統合、接道条件の改善、解体後の土地活用
古い集合住宅 エレベーターがなく、高齢者の転出後に空室が残りやすい 改修、用途転換、管理の適正化
駅・バス停から遠い住宅地 人口減少により公共交通や店舗の採算が悪化 地域交通、移動販売、新たなモビリティーの導入
高度経済成長期に開発された郊外ニュータウンでは、同世代の住民がまとまって高齢化しています。今後は相続に伴う住宅の市場放出が増える一方、立地や建物の条件によっては買い手が付かず、空き家化が一斉に進む可能性があります。

山麓部の既成市街地では、坂道や狭い道路、接道条件を満たさない宅地が流通を阻みます。建物を解体しても再建築できず、空き地だけが残るケースも想定されます。

そのため、全市一律の施策では十分ではありません。住宅市場、交通条件、商業機能、公共施設、地域活動を地区ごとに分析し、必要な対策を組み合わせる必要があります。

約40施策を地域ごとに再編集 空き家対策を「点」から「面」へ



要綱素案では、スポンジ化対策を四つの政策分野に整理しています。
政策分野 主な施策 神戸市の狙い
空き家・空き地の流通 解体、改修、売却・賃貸、住み替え、隣接地統合、狭小宅地の再生 相続後に止まっている不動産を市場へ戻す
暮らしの質の維持 店舗誘致、移動販売、路線バス支援、地域交通、新モビリティー 住宅だけでなく「暮らせる地域」を維持する
地域価値の向上 駅前、公園、景観、歴史資産、交流・文化拠点の整備 郊外住宅地の魅力と不動産需要を回復させる
担い手づくり 住民、NPO、学生、不動産・交通事業者との連携 行政依存ではなく、地域が自走できる体制を築く
制度の特徴は、新たな補助金を一つ設けることではなく、神戸市がすでに持つ約40の施策を、地域の課題に合わせて組み直す点にあります。

空き家を解体するだけでは、跡地が空き地として残り、地域人口や生活サービスは回復しません。住宅の流通促進と並行して、買い物、交通、公園、駅前空間を改善し、若年世帯や新たな事業者が入りやすい環境を整える必要があります。

再生の対象を「一軒の建物」から「地域の暮らし」へ広げる政策転換です。

若者を呼び、バスと商店を守る 神戸市が狙う六つの効果


政策目的 目指す状態
不動産市場の再起動 売れない、貸せない、建て替えられない物件を再流通させる
若年・子育て世帯の呼び込み 新築より手頃な既存住宅を供給する
地域の世代交代 高齢者の住み替えと若年世帯の入居を同時に進める
生活サービスの維持 バス、店舗、医療、移動販売が成立する人口密度を保つ
郊外のブランド再構築 公園、自然、景観、駅前空間を住宅地の価値へ転換する
都市運営の効率化 インフラや行政サービスを持続可能な形で維持する
神戸市が目指すのは、空き家を市場に戻すだけではありません。若年・子育て世帯の転入を促し、地域内の世代交代を進めることで、商店や公共交通を支える需要を維持しようとしています。

既存住宅は、新築住宅に比べて価格を抑えやすく、若い世帯の受け皿になり得ます。空き家対策と住宅価格対策、人口対策を一体化できる点に、この制度の合理性があります。

都心再開発の次は郊外再生へ 既存住宅を生かす都市政策に転換



神戸市では、三宮やウォーターフロントを中心に都心再整備が進む一方、郊外ニュータウンや山麓住宅地では高齢化と人口減少が進行しています。

都心の魅力を高めるだけでは、郊外から人口が流出し、都市内部の格差が拡大する可能性があります。今回の要綱は、都心再生に続く次の政策軸として、郊外・既成市街地の再編に踏み込むものと捉えられます。

新たな宅地開発によって都市を外側へ広げるのではなく、既存住宅、遊休地、公共施設、商業施設を再利用する点も重要です。人口増加を前提とした新築中心の都市政策から、既存ストックを再編集する都市経営への転換といえます。

危険な空き家を除却し、地域全体を立て直す「二段構え」

神戸市は2026年度、空き家・空き地対策に約8億3,900万円を計上しています。
施策 内容
老朽空き家の解体補助 年間1,000件から1,200件へ拡大
補助対象 建築時期に関する要件を緩和
管理不全空き家 勧告や是正対応を強化
所有者不明物件 裁判所が管理人を選任する財産管理制度を活用
地域再生 要綱に基づき、個別施策を地域単位で組み合わせる
危険な空き家を除却する「点」の対策と、住宅地全体の機能を立て直す「面」の対策を同時に進める構えです。

発生した空き家を処理するだけでなく、住宅、交通、商業、公共空間を一体的に再編し、空き家を生み出しにくい地域構造への転換を目指します。

空き家流通から不動産価値まで 期待される地域再生の波及効果


分野 期待される効果
住宅 空き家流通の拡大、若年世帯の住宅取得負担の軽減
安全・景観 倒壊、火災、雑草、治安悪化のリスク低減
交通 バス利用者の確保、地域交通やラストワンマイルの補完
商業 店舗需要の維持、空き店舗の再利用
地域社会 多世代交流、孤立防止、地域活動の担い手確保
都市経営 行政サービスやインフラ維持の効率化
不動産価値 地域イメージの悪化を防ぎ、住宅需要の急落を抑制
重要なのは、人口増加だけを成果にしないことです。人口が減少しても、空き家の増加速度を抑え、交通や買い物環境を維持し、地域内で世代交代が進めば、住宅地としての持続可能性は高まります。

今回の制度は、成長を前提とした都市政策ではなく、縮小局面でも暮らしの質を守る政策です。

成否を握る重点地区の選定 制度を「施策のカタログ」で終わらせないために



今後は、市民意見を踏まえて要綱を確定し、重点地域の選定、地域別データの分析、住民・事業者との施策設計、モデル地区での実証へ進むとみられます。

一方、素案の段階では、重点地区、数値目標、地域別予算、事業を統括する主体は明確になっていません。

制度の成否は、約40の既存施策を並べるだけでなく、対象地域を絞り、予算と人員を集中的に投入できるかにかかっています。空き家の流通件数、若年世帯の転入数、店舗数、バス利用者数などの指標を設定し、住宅、交通、商業を横断して地域全体を調整する主体も必要です。

神戸市が目指すのは、空き家をゼロにすることではありません。人口減少を前提に都市機能を組み替え、規模が縮小しても暮らしの質と地域価値を維持することです。

今回の要綱は、従来の空き家対策を、人口減少時代の都市再生政策へと引き上げる枠組みになりそうです。




出典

  • 神戸市「郊外・既成市街地の再生に向けたスポンジ化対策要綱(素案)」
  • 神戸市「スポンジ化対策要綱素案への意見募集」
  • 神戸市「神戸市空家空地対策計画(2026~2035年度)」
  • 神戸市「2026年度予算案・空き家空き地対策」
  • 神戸新聞「街の活力奪う空き家・空き地」
  • 神戸市公式X、市議会議員による関連発信

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