【続報】奈良市新クリーンセンター、候補地比較の全貌を公表 総事業費は約1,094~1,114億円、七条地区案から計画が大きく変更



当ブログで2024年2月にお伝えしたトピックスの続報です。

奈良市は2026年8月27日、大和田町と北之庄町を対象とした新クリーンセンター建設候補地調査の結果を公表しました。地質、アクセス道路、自然環境、交通、施設配置、事業費まで比較したもので、20年間の維持管理・収集運搬費を含む概算総事業費は約1,094~1,114億円。3案では北之庄町が最も低くなりました。

前回お伝えした2024年時点では、七条地区を前提に基本計画案まで具体化していました。その後、市議会や地域との調整を経て計画は大きく変化し、現在は北之庄町と大和田町から建設地を選ぶ段階に入っています。

新施設は「焼却場の更新」にとどまらない

以前に公開された完成イメージ。今後、変更される可能性があります。
出展:奈良市


現・環境清美工場は稼働から40年以上が経過し、2005年には周辺住民との公害調停を受けて移転建設へ動き始めました。

新クリーンセンターは、老朽施設を更新して安定したごみ処理を確保するとともに、焼却熱から高効率にエネルギーを回収し、防災機能も担う基幹インフラとして整備する構想です。

奈良市はこれとは別に、リサイクルセンターの再構築や地域資源循環モデルも組み合わせ、循環型・脱炭素型の環境都市を目指しています。
狙い 主な内容 期待される効果
安定処理 老朽施設を更新 故障・長期停止リスクを低減
規模適正化 将来の人口・ごみ量を踏まえて再設計 過大投資・維持費を抑制
エネルギー回収 焼却熱を高効率で発電・利用 施設内・地域でのエネルギー利用
資源循環 リサイクル施設や地域循環施策と連携 焼却・最終処分への依存を低減
脱炭素 発電・熱利用を高度化 化石燃料由来エネルギーを削減
防災 発電した電力・熱を防災機能に活用 災害時の地域レジリエンス向上
地域還元 エネルギー・地域振興策と連携 立地地域へのメリット創出
官民連携 PPPなどを検討 民間ノウハウを事業に活用
従来の「ごみを燃やして処理する施設」から、ごみ処理とエネルギー回収を組み合わせた都市インフラへ役割を広げる計画です。

北之庄町と大和田町、実質3案を比較


(1)大和田町北側(平地部)

今回の調査では、焼却施設「地域エネルギーセンター」を190t/日(95t/日×2炉)、破砕選別施設を35t/日として検討しています。

大和田町は平地部の北側案と山地部の南側案に分け、北之庄町と合わせた3案を比較しました。
項目 大和田町・北側 大和田町・南側 北之庄町
主な地形 平地部 山地部 平坦な農地
焼却能力 190t/日 190t/日 190t/日
破砕選別能力 35t/日 35t/日 35t/日
アクセス道路 約1.11km 約1.44km 約190m
概算整備費 約527.8億円 約532.1億円 約514.9億円
維持管理+収集運搬費(20年) 約582.3億円 約582.3億円 約579.1億円
概算総事業費 約1,110.1億円 約1,114.5億円 約1,094.0億円
主な課題 オオタカ、液状化の可能性、道路、電力 オオタカ、液状化の可能性、造成、道路 液状化、深い支持層、埋蔵文化財
※整備費は調査報告書上、税抜き。

最安の北之庄町と最も高い大和田町南側との差は約20億円で、総額の2%弱です。候補地選定では価格に加え、施工条件、環境、交通、災害リスク、地域との調整などが判断材料になります。

コスト差を生むのは焼却炉より「道路と造成」


(2)大和田町南側(山地部)

地域エネルギーセンター本体は約405~411億円、破砕選別施設は約81~83億円で、候補地による差は限定的です。

一方、アクセス道路と造成費には大きな差があります。
主な付帯費用 大和田北 大和田南 北之庄
アクセス道路 約4.29億円 約5.28億円 約0.49億円
敷地造成 約19.55億円 約25.78億円 約2.56億円
施設敷地取得 約10.08億円 約0.27億円 約10.29億円
埋蔵文化財調査 ― ― 約5億円
北之庄町は既存道路を約190m改良すればアクセスでき、造成規模も小さいため整備費を抑えやすい条件です。一方、支持層が深く、液状化対策が必要なほか、平城京南方遺跡に関連して約5億円の埋蔵文化財調査費を見込みます。

大和田町では1kmを超えるアクセス道路と大規模造成が必要です。周辺ではオオタカの営巣も確認されています。地質についても砂層を主体とすることから液状化対策が必要になる可能性があります。

さらに電力系統には接続上の制約があり、ごみ発電の送電に設備増強が必要となった場合、数十億円規模の追加費用が生じる可能性も示されています。

なお、大和田町ではアクセス道路用地として、施設敷地とは別に北側約2.81億円、南側約3.16億円の用地取得費が見込まれています。

今回の比較では、焼却炉本体の価格より、道路、造成、地質、環境など候補地固有の条件が事業費と施工リスクを左右する構図が鮮明になりました。

「1,100億円」は建設費ではない


(3)北之庄町

今回の約1,100億円は、2024年に七条地区を前提として示された「約450億円」と単純比較できません。
2024年・基本計画案 2026年・候補地調査
想定候補地 七条地区 大和田・北之庄
焼却能力 290t/日 190t/日
施設整備費 約450億円・税込 約515~532億円・税抜
道路・造成等 一部今後検討 候補地別に具体化
20年間の維持管理・収集運搬 含まず 含む
概算総事業費 ― 約1,094~1,114億円
今回の総事業費には、施設整備費に加えて20年間の維持管理費と収集運搬費が含まれています。このため、「450億円から1,100億円へ2.4倍になった」という単純な比較にはなりません。

一方、施設整備費だけでも約515~532億円に達しています。今回の焼却能力は190t/日で、旧計画の290t/日より小さいものの、計画条件そのものが異なります。建設コストの上昇に加え、道路、造成、地質対策など候補地固有の費用が具体化したことも影響しています。

なお、約1,100億円は今回の候補地調査で試算された施設整備費と20年間の維持管理・収集運搬費の合計です。奈良市が別途進めるリサイクルセンター再構築や地域資源循環モデルの事業費まで、すべて含む数字ではありません。

七条地区から、なぜ計画が動いたのか

奈良市の新クリーンセンター計画では、施設整備と並んで建設地の合意形成が長年の課題となっています。

奈良市は20年以上にわたって候補地選定を続け、一時は周辺自治体との広域処理を前提に七条地区まで絞り込みました。しかし、各自治体が広域化検討から離脱し、七条地区への建設をめぐって市議会や地域から反対も強まり、再び複数候補地を比較することになりました。
時期 主な動き
2005年12月 現施設周辺住民との公害調停成立、移転建設へ
2006年2月 候補地選定を開始
2007~2011年 15カ所→9カ所→4カ所→2カ所へ絞り込み
2013年3月 東里地区を最終候補地に決定
2017年7月 東里地区での計画を見直し
2018年~ 周辺自治体との広域処理を検討
2019年12月 七条地区へ候補地を絞り込み
2020~2022年 周辺4市町が広域化検討から離脱、奈良市単独整備へ
2024年2~3月 七条地区を前提とする基本計画案を公表
2024年3~5月 パブリックコメント1,859通・4,823件
2024年6月 七条地区への建設反対請願を市議会が採択
2024年11月 複数候補地を比較する方向へ転換
2025年6月 七条町・北之庄町・大和田町を候補地として答申
2026年3月 七条町を除外し、北之庄町・大和田町を詳細調査へ
2026年8月27日 候補地比較結果を公表
新施設にエネルギー、防災、地域振興などの機能を持たせる背景には、施設整備だけでなく、立地地域への還元を含めて合意形成を進める狙いがあります。

次の焦点は候補地の絞り込み



候補地はまだ決まっていません。奈良市は調査結果を市議会に示し、周辺住民への説明と並行して建設地を検討します。
時期 主な予定・見通し
2026年8月31日 市議会「ごみ焼却施設等検討特別委員会」で審議
2026年9月 9月定例市議会で候補地を本格議論
並行して実施 北之庄町・大和田町周辺への住民説明
時期未定 最終候補地を決定
候補地決定後 基本計画を再整理、環境影響評価手続きを継続、都市計画・用地・道路計画などを具体化
その後 事業方式決定、事業者選定、設計・造成・建設
供用開始 最新の供用開始時期は現時点で改めて示されていない
環境影響評価については、すでに2021年に計画段階環境配慮書の手続きが始まっており、今後は候補地選定と整合を取りながら手続きを進めることになります。

2024年の基本計画案では2032年度の稼働を想定していましたが、その後候補地選定が大きく変わったため、最新の供用開始時期は現時点で改めて示されていません。

まとめ



今回の調査によって、大和田町と北之庄町について、コストだけでなく道路、造成、地質、自然環境、電力などの条件が具体的に比較できるようになりました。

北之庄町は総事業費で最も低い一方、液状化や深い支持層、埋蔵文化財という課題があります。大和田町ではアクセス道路、造成、自然環境、電力系統などが論点です。

2005年の公害調停から20年以上。約1,100億円規模の新クリーンセンター計画は、施設の構想から「どこに造るのか」を具体的に決める局面へ移っています。




出典

  • 奈良市「新クリーンセンター候補地調査業務について」
  • 奈良市「新クリーンセンター建設候補地調査業務委託報告書」
  • 奈良市「クリーンセンターの建設計画について」
  • 奈良市「新クリーンセンター施設整備基本計画(案)」
  • 奈良市「新クリーンセンター建設に係る環境影響評価」
  • 奈良市「官民連携による新クリーンセンター整備に向けた事業」
  • 奈良市議会「ごみ焼却施設等検討特別委員会」
  • 奈良テレビ
  • 日刊建設工業新聞

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