
神戸の「山、海へ行く」を支えた巨大土木インフラが、約20年の眠りを経て、生成AI時代のデジタルインフラへ生まれ変わります。
三井不動産、熊谷組、ゲットワークスは2026年10月6日、神戸市西区に残る旧土砂運搬用ベルトコンベアのトンネル約3kmを活用し、地中型データセンターを開発すると発表しました。
対象面積は約1万7,000㎡。トンネルの大部分は地下約40m以深に位置し、将来的に最大受電容量20MW規模まで拡張します。初期開発のサービス開始は2027年末の予定。既存トンネルを使い、外部顧客向けにサービスを提供する商用データセンターとしては日本初としています。
| 項目 | 計画概要 |
|---|---|
| 所在地 | 神戸市西区押部谷町木見~見津が丘 |
| 活用施設 | ベルトコンベア跡トンネル |
| 対象延長 | 約3km |
| 面積 | 約17,000㎡ |
| 深さ | 大部分が地下約40m以深 |
| トンネル内温度 | 年間約15~20℃ |
| 方式 | コンテナ型データセンター |
| 最大受電容量 | 将来20MW規模 |
| 冷却 | 地下水を循環利用する水冷方式 |
| サービス開始 | 2027年末予定 |
| 事業者 | 三井不動産、熊谷組、ゲットワークス |
| 設計支援 | パシフィックコンサルタンツ |
| 施工 | 熊谷組予定 |
| 貸付期間 | 10~20年 |
| 年間賃料 | 757万2,000円 |
神戸を造った全長14.5kmの巨大インフラ

今回使われるのは、単なる使われなくなったトンネルではありません。神戸市では高度成長期、六甲山系などの山を削って住宅・産業用地を造成し、そこで発生した大量の土砂を海岸部の埋め立てに利用する、いわゆる「山、海へ行く」と呼ばれる都市開発が進められました。
その大量輸送を担ったのが、山側と海側を結ぶベルトコンベアです。
1964年に運転を開始。約41年間にわたり、西神ニュータウンなどの住宅・産業団地整備や六甲アイランドなどの埋め立て、さらに神戸空港につながる都市開発を支え、総延長は約14.5kmに達しました。2005年9月に役割を終えています。
つまり今回のプロジェクトは、
「神戸の街そのものを造るために掘られたインフラを、次の産業を支えるインフラへ転換する」
取り組みでもあります。
約20年眠っていた地下空間をデータセンターへ
今回、神戸市が民間事業者へ貸し付けるのは全長14.5kmのうち約3km、約1万7,000㎡です。神戸市は2026年6月に施設利用条件付き入札を開始し、9月4日に開札。三井不動産を代表企業、熊谷組を構成企業とするグループが落札しました。貸付期間は10~20年間、年間賃料は757万2,000円です。10月6日に神戸市が落札結果を正式発表すると同時に、三井不動産など3社から具体的なデータセンター計画が公表されました。
興味深いのは、熊谷組がかつて対象トンネルの施工に携わった企業でもあることです。神戸の都市造成を支えた巨大土木施設を造った企業が、約60年後、その空間をAI時代のインフラへ転換するプロジェクトにも参加することになります。
地下40m、年間15~20℃。トンネルそのものが「冷却装置」になる

データセンターで大きな課題となるのが、サーバーが発生させる大量の熱です。
特に生成AIで使われるGPUサーバーは高密度・高発熱化が進んでおり、電力だけでなくいかに効率よく冷却するかが施設立地を左右する重要な条件になっています。
今回活用するトンネルは大部分が地下約40m以深にあり、内部温度は年間を通じて**15~20℃**に保たれています。
さらに施設では地下水を循環利用する水冷方式を採用。トンネルが本来持つ冷涼な環境と組み合わせることで、GPUサーバーに対応した高効率な運用を目指します。
また、地中空間には耐震性や、外部から容易に接近できない物理的セキュリティという特徴があります。
「土地を取得して巨大な建物を建てる」という従来型のデータセンターとは異なり、すでに存在する巨大な地下構造物そのものを設備の一部として利用する発想です。
トンネル内には「コンテナ型DC」を並べる

内部には一般的な大規模建築物を新設するのではなく、ゲットワークスが手掛けるシェルター型コンテナデータセンターを設置します。ゲットワークスは2013年からコンテナ型DCの企画・設計・構築・運営を手掛けており、2026年9月時点で累計380棟の構築実績があります。
コンテナ型は必要な設備をユニット単位で追加できるため、需要に合わせた段階的な増設と相性が良く、今回も初期開発から順次拡張していく計画です。
将来的には最大受電容量20MW規模を目指しますが、これは2027年末のサービス開始時点から20MWすべてを使用するという意味ではありません。初期開発の規模や20MWまでの具体的な増設スケジュールは現時点では明らかにされていません。
神戸だけでは終わらない。全国の廃トンネル・鉱山跡へ
今回の計画でもう一つ注目されるのが、三井不動産が神戸を全国展開の第1号モデルとして位置付けていることです。国内には道路・鉄道・鉱山・工業施設など、役割を終えた巨大な地下空間が数多く存在します。三井不動産は神戸で開発・運営ノウハウを蓄積し、今後は全国各地のトンネルや鉱山跡地を活用した地中型データセンターの複数拠点展開を目指します。
さらにゲットワークスは、NTTドコモビジネスとの連携により、IOWN APNを使って新潟県湯沢町、鹿児島、北海道、神戸などのコンテナ型DCを接続する構想も示しています。
単独の「神戸データセンター」を造るだけではなく、地方に分散した計算資源を高速ネットワークで結ぶインフラの一拠点になる可能性があります。
神戸の都市史が、AI時代へつながる

出展:神戸市公式note
1960年代の神戸は、山を削り、その土砂を海へ運ぶことで市街地と港湾を拡張しました。その土砂を運ぶために造られた巨大ベルトコンベアは2005年に役割を終え、地下空間だけが残されました。それから約20年。
かつて「物質」を大量輸送して神戸の都市を造った地下インフラが、今度はGPUと「データ」を支えるインフラへ転生しようとしています。
しかもこれは、単なる廃施設の再利用ではありません。既存インフラ、安定した地中温度、地下水、コンテナ型データセンター、高速通信網を組み合わせ、AI時代に急増する電力・冷却・用地需要に対応する新しいデータセンターの形をつくろうとする試みです。
20世紀の神戸を造った巨大土木遺産が、21世紀のデジタル社会を支える。
今回のプロジェクトは、神戸らしい都市開発の歴史が次の時代へつながる、非常に象徴的なインフラ再生事業といえそうです。
出典
・三井不動産・熊谷組・ゲットワークス「日本初、既存トンネルを活用した地中型データセンターを開発」(2026年10月6日) 公式リリース・神戸市「ベルトコンベア跡トンネル施設貸付の落札者決定」(2026年10月6日) 神戸市公式
・神戸市「須磨ニュータウンの歴史」
・Impress Watch「遊休トンネル活用の地中型データセンター 三井不動産らが日本初」(2026年10月6日)
・建設通信新聞Digital「三井不と熊谷組ら、既存トンネルにデータセンター」(2026年10月6日)
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