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【国際会議開催数ランキング2024】日本は世界7位に浮上「一極集中の東京モデル」とは異なる、もう一つの日本の成長戦略とは?


第1章:世界の“会議地図”を読む――都市の知力を映すランキングとは?

ICCA(国際会議協会)が発表した「ICCA GlobeWatch:ビジネス分析 – 国別・都市別ランキング2024」は、世界中で開催された11,000件以上の国際会議のデータを集約した、MICE(Meeting, Incentive, Convention, Exhibition)分野における最も権威ある統計のひとつです。

この統計は単なる件数の記録ではなく、各都市・各国が知識・文化・技術の交流をいかに実現しているかを可視化した「知の交差点」としての評価書でもあります。MICEは国家や都市の知的基盤を支える重要なインフラであり、このデータを読み解くことは、現代の「思考の地理学」を理解する第一歩となります。

国際会議の開催地は、単に施設や交通の利便性だけでなく、都市そのものの魅力、政策的支援、学術的基盤、そして「ここで会う意味」をどれだけ創出できるかに左右されます。ランキングはその国や都市が「世界の知といかにつながっているか」を示す、いわば知のハブ度を映す鏡でもあるのです。

第2章:どの国で「知」は集まっているのか?世界ランキングで見る知の重心


順位 2024 2023 前年比(件数) 前年比(件数)
1 米国 709 690 19 102.8%
2 イタリア 635 553 82 114.8%
3 スペイン 536 505 31 106.1%
4 ドイツ 491 463 28 106.0%
5 英国 481 425 56 113.2%
6 フランス 432 472 -40 91.5%
7 日本 428 363 65 117.9%
8 オランダ 295 304 -9 97.0%
9 ポルトガル 290 303 -13 95.7%
10 カナダ 252 259 -7 97.3%
11 中国 249 170 79 146.5%
12 韓国 243 252 -9 96.4%
13 ベルギー 238 202 36 117.8%
14 スウェーデン 235 227 8 103.5%
15 ブラジル 234 156 78 150.0%
16 オーストリア 233 203 30 114.8%
17 オーストラリア 227 219 8 103.7%
18 ギリシャ 211 190 21 111.1%
19 ポーランド 191 179 12 106.7%
20 フィンランド 186 #VALUE!

2024年の国別統計では、米国が709件でトップ。依然として「世界の知の交差点」としての地位を保持しています。続くイタリア(635件)、スペイン(536件)、ドイツ(491件)、英国(481件)といったヨーロッパ諸国も高い水準を維持しています。特にイタリアでは、地方分散型の開催戦略が奏功し、前年比114.8%と著しい伸びを示しました。

一方で、フランスはパリ五輪準備の影響で432件と前年比91.5%の減少。アジアでは日本が前年の363件から428件(+17.9%)に増加し、世界7位、アジア太平洋地域で首位を獲得しました。また、中国(+146.5%)、ブラジル(+150.0%)など新興国の急伸も注目すべき変化です。MICEを国家戦略と位置づける国々が、開催件数を「知的GDP」の指標として活用し始めている現れでもあります。

ICCAはこの動向を「地政学的な知の重心シフト」と表現しており、知的ネットワークの再編が進む中で、非欧米圏の存在感が着実に増していると分析しています。パンデミック後の国際協調の文脈において、アジア・中南米諸国の台頭は今後の流れを決定づける要素となるかもしれません。

第3章:今、世界で最も選ばれている都市は?国際会議の都市別トップ25

 
順位 2024 2023 前年比(件数) 前年比(件数)
1 ウィーン 154 141 13 109.2%
2 リスボン 153 151 2 101.3%
3 シンガポール 144 152 -8 94.7%
4 バルセロナ 142 139 3 102.2%
5 プラハ 131 134 -3 97.8%
6 パリ 124 156 -32 79.5%
6 ソウル 124 103 21 120.4%
8 バンコク 115 88 27 130.7%
9 ローマ 114 119 -5 95.8%
10 アテネ 111 88 23 126.1%
11 ロンドン 105 99 6 106.1%
11 マドリッド 105 109 -4 96.3%
13 コペンハーゲン 101 87 14 116.1%
14 ブリュッセル 100 76 24 131.6%
14 ミラノ 100
16 東京 97 91 6 106.6%
17 アムステルダム 94 84 10 111.9%
18 ブエノスアイレス 91 90 1 101.1%
19 ブダペスト 87
20 ダブリン 86 104 -18 82.7%
20 香港 86 51 35 168.6%
20 イスタンブール 86 72 14 119.4%
23 ベルリン 85 97 -12 87.6%
23 ストックホルム 85 74 11 114.9%
25 ヘルシンキ 80 72 8 111.1%

都市別ではウィーン(154件)が首位を獲得。リスボン(153件)、シンガポール(144件)、バルセロナ(142件)と続きます。欧州都市の堅実な強さに加え、アジアの躍進も顕著です。ソウル(124件、+120.4%)、バンコク(115件、+130.7%)、アテネ(111件、+126.1%)などが急成長を遂げました。

こうした都市はいずれも、会議施設や交通網の整備だけでなく、都市ブランディングや政策支援が非常に強力です。シンガポールは「アジアの交差点」としての地位を確立し、ソウルは医療・ICT分野の会議を誘致する戦略に成功。バンコクも医療観光との連携でMICE都市としての認知度を高めています。

東京は97件で世界16位、アジア4位。前年から増加したものの、シンガポールやソウルのような伸び率には及びません。ただしこの数字は、日本におけるMICEの「分散型モデル」の一端を示すものであり、東京一極集中ではなく、地方都市にも開催が広がっている構造を物語っています。

第4章:知の首都はひとつじゃない――日本に広がる“分散型”の可能性


都市名 2024年件数 2023年件数 前年比(件) 前年比(率)
東京 97 91 6 106.6%
京都 49 41 8 119.5%
大阪 27 20 7 135.0%
札幌 24 17 7 141.2%
福岡 21 17 4 123.5%
北九州 15
名古屋 14 11 3 127.3%
横浜 14 20 -6 70.0%
仙台 13 15 -2 86.7%
つくば 13 9 4 144.4%
広島 12 7 5 171.4%
神戸 12 12 0 100.0%
金沢 8
松江 7 5 2 140.0%
奈良 6 5 1 120.0%
富山 5 6 -1 83.3%
337 276 122.1%

日本では東京(97件)に続き、京都(49件)、大阪(27件)、札幌(24件)、福岡(21件)など全国各地の都市が名を連ねています。特につくば(13件)、広島(12件)、松江(7件)など、学術機関や専門分野を活かした地方都市の伸長が顕著です。

ICCAの統計には15都市以上が含まれており、これはアジアでも特異な現象です。日本では大学や研究機関、国立の会議場が地方に点在しており、地域ごとに独自のテーマ性を持つ国際会議が展開されています。

この構造は「知のネットワーク」が全国に張り巡らされていることを示しており、首都一極型の他国とは対照的な、日本ならではのMICE戦略の成果といえるでしょう。全国に知の回廊が拡張されることで、都市間の知的格差が縮小し、新たな対話や創発の場が創出されつつあります。

エリア別開催件数と全国シェア


エリア 2024年件数 構成比
関東 124 36.8%
近畿 94 27.9%
九州・沖縄 36 10.7%
東海・北陸 27 8.0%
北海道 24 7.1%
中国・四国 19 5.6%
東北 13 3.9%
337 100.0%

第5章:出会いが未来をつくる――地方と都市が交わる“知の交差点”

創造性や革新性は、どこから生まれるのでしょうか。それは、異なる視点が交わる“交差点”からです。つまり、異質な価値観や文化、専門分野がぶつかり合う場所こそが、新たな知を生み出す起点なのです。

歴史を振り返れば、それは明らかです。ルネサンスはイスラム世界との知の融合から生まれ、明治維新は西洋との衝突が変革を促しました。シリコンバレーもまた、異なるバックグラウンドを持つ人々が集まり、想定外の化学反応を起こした結果といえるでしょう。

日本においても、こうした創発の土壌が至る所にあります。「地方×都市」「理系×文系」「伝統×テクノロジー」など、交差の起点となる構造は無数に存在します。重要なのは、それらを交差させる“場”をいかに設計し、維持できるかという点です。

 

同じ環境に長く身を置くと、視点や価値観は次第に固定化されていきます。「そもそも、この前提自体が正しいのか?」という根本的な問いは見落とされ、気づけば“既存の枠内での最適化”ばかりに思考が偏ってしまいます。

こうした「単眼的環境」では深化は進むものの、大胆な発想や枠組みの転換には弱い。一方で、多様な視点がぶつかり合う「多眼的環境」では、誤解や違和感さえもが新たな問いを引き出す触媒となり、イノベーションの火種となるのです。

つまり、創造力とは“出会いの場”に宿るもの。新しい知は、未結合だった要素同士が交差する、その瞬間に芽生えるのです。

第6章:会議の数だけ未来がある――全国に広がる“知のインフラ”とは?

そうした創発の舞台となっているのが、全国各地で開かれるMICEです。

国際会議や学術集会は、医学・科学・技術・文化など多様な分野の知が交差する“知のプラットフォーム”です。こうした場が東京だけでなく、大阪・京都・福岡・札幌・広島・つくばといった都市でも開催されていることは、日本における「知の分散」がいまだ健在であることを示しています。

ここで注目すべきなのは、経済や行政、報道といった他の機能が東京に一極集中しているにもかかわらず、MICE分野においては“知の中央集権”が進行していないという点です。つまり、知の流通においては、多極的ネットワークが保たれているのです。

この構造がもたらす最大の価値は、「多様な文脈が共存し、交差する場を日本全国に確保できていること」にあります。たとえば、京都では文化と哲学、大阪では医療とビジネス、つくばでは研究開発、福岡ではアジアとの接点──それぞれが独自のテーマで世界とつながっており、そこには単一の価値観に収斂しない自由があります。

こうした“文脈のゆらぎ”は、まさに新しい問いを生む余白です。全国に点在する会議の場が、地域ごとの専門性と課題意識を背景に多様な対話を展開していることは、知的生態系としての健全性を裏付けるものです。

第7章:東京だけじゃないニッポンの強み――多極型・知のネットワーク国家へ

行政・経済・報道機能が東京に集中する中で、MICE分野ではいまだ「知の多極構造」が健在であるという事実は、日本の大きな強みです。

各地域の大学、研究機関、医療拠点、文化資源が連携し、それぞれが独自の知的テーマで国際社会と接点を持つことで、中央依存に陥らない思考の多眼性が担保されています。

この構造こそが、日本の未来を全国で共創していくためのインフラであり、地方における小さな出会いの積み重ねが、国家全体の知の厚みを形づくる──それが、いま日本が示すMICEの新しいかたちなのです。

MICEの分散型ネットワークは、「一極集中の東京モデル」とは異なる、もう一つの日本の成長戦略です。これをどう持続可能な仕組みにしていくか──それが、これからの政策や地域連携に求められる最大の問いと言えるでしょう。




出典 / 参考資料

  • ICCA – International Congress and Convention Association
    ICCA GlobeWatch: Business Intelligence – Country & City Rankings 2024
    URL: https://www.iccaworld.org

  • TTGmice
    ICCA reveals top performing cities and countries in Asia Pacific for 2024
    URL: https://www.ttgmice.com

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