リーガロイヤルホテルを運営する株式会社ロイヤルホテルは、温泉リゾート型の新ブランド「ノワ・バイ・リーガ」を立ち上げ、その第一号施設として「ノワ・バイ・リーガ 神戸有馬」を2028年2月末頃に開業すると発表しました。
この動きは、大阪本館の不動産売却・財務再建・IHGとの提携など、同社が進める事業構造転換と密接に関係しています。
1:新ブランド「ノワ・バイ・リーガ」有馬:93室の温泉リゾート
第一号施設となる「ノワ・バイ・リーガ 神戸有馬」は、有馬温泉エリアに立地し、以下の特徴を備えています。
・所在地:神戸市北区有馬町(有馬川沿い)
・客室数:93室(全室40㎡以上、7タイプ)
・建物:地上8階建、2027年11月竣工予定
・温浴施設:大浴場・貸切風呂など有馬温泉を活かした設備
・飲食:ライブ感のある調理演出、地産食材を活用するスペシャリティレストラン
・ラウンジ:茶文化を取り入れたティー&バーラウンジ
・デザイン:静寂や和の洗練を軸とした設計
ターゲットは40〜60代のアッパーミドル層とインバウンド客。短期間でもリフレッシュできる高付加価値の滞在を想定しています。完成予想パースからは、三井系の最高級ホテル「HOTEL THE MITSUI KYOTO」に匹敵するラグジュアリーを目指しているように見えます。
2:有馬出店の背景:リゾート領域への本格展開
ロイヤルホテルは「中期経営計画2026」の中で、ブランドポートフォリオの再編とリゾート領域の強化を掲げています。「ノワ・バイ・リーガ」は、 同社がこれまで十分に展開してこなかった 温泉・リトリート市場 を開拓する位置づけのブランドであり、 都市型中心だったラインナップに新カテゴリーが追加されることになります
3:大阪本館売却が示すアセットライト戦略への転換
新ブランド発表の前提となっているのが、
2024〜2025年に実施された リーガロイヤルホテル(大阪)の不動産売却 です。
◆売却の概要
・売却先:カナダ系ファンド BGO(BentallGreenOak)
・売却額:推定500億円台半ば
・方式:信託受益権の譲渡
・運営:ロイヤルホテルが継続(オペレーターに専念)
◆売却益の使途
売却で確保した資金は、主に財務改善に充てられています。
・有利子負債 約320億円を全額返済
・DBJ等が保有する優先株 約100億円を償還
→ 売却益は新規建設費用ではなく、財務再建に集中投入されています。
◆BGOがロイヤルホテル本体へ33%出資
・筆頭株主となり取締役2名(うち1名は代表権)を派遣
・経営体制・ガバナンス改革が前進
◆大阪本館の改修費135億円はBGO負担
・客室・宴会場・付帯施設を2025年3月までに改修
・ロイヤルホテル側の資金負担は少ない
これらにより、同社は「不動産を持たずに運営に特化する」アセットライト型企業へ大きく舵を切りました。
4:IHGとの提携で都市型ホテルの競争力を強化
リーガロイヤルホテル(大阪)はIHGとの提携により「Vignette Collection」として再整備されました。
この提携により、以下の効果が見込まれます。
・IHG One Rewards 会員を通じた国際的な集客
・グローバル販売網の活用による海外富裕層の獲得
・ADR(客室単価)の上昇
・名門ホテルとしてのブランド価値再構築
都市型ホテルの競争力をIHGと協働で補強し、リゾート領域は自社ブランドの「ノワ」で展開するという二軸体制が形成されています。
5:新規5施設の開業を支えるのは“売却益”ではない
ロイヤルホテルは2026年以降、5施設の開業を予定しています。
・リーガロイヤルリゾート沖縄 北谷(2026/4)
・アンカード・バイ・リーガ 大阪なんば(2026/4)
・バウンシー・バイ・リーガ 福岡博多(2026/9予定)
・広島・平和大通りエリア新ホテル(2028/6予定)
・ノワ・バイ・リーガ 神戸有馬(2028/2予定)
ここで間違われやすいのが、
「大阪本館売却で得た資金が新規開発に使われている」という見方ですが、実際は異なります。
◆実際の原動力
・財務負担の減少による投資余力回復
・不動産を所有しないことで開業リスクが軽減
・BGOなど外部資本との連携拡大
・IHG提携でブランド価値が向上
アセットライト化によって“拡大できる体質”に変わったことで、複数ブランドを同時に展開できる構造が整ったという位置づけです。
6:激化する競争環境の中での再ポジション
国内のホテル市場は、以下のグローバルチェーンが積極展開する極めて厳しい環境です。
・マリオット
・ヒルトン
・ハイアット
・アコー
・IHG
こうした状況の中で、ロイヤルホテルは
・IHG加盟による競争力強化
・多ブランド展開による市場対応力向上
を進めています。
一方で、「アンカード」「バウンシー」「ノワ」が短期間で投入されたことにより、ブランド構造が分散し過ぎる懸念も指摘されています。ただし、大阪本館売却によって財務面の重荷が解消され、同社が攻めのフェーズに移行したことは事実です。名門ホテルとしての歴史を背景に、外資が価値を評価し、BGOが資本参加したことは、ロイヤルホテルのブランド・顧客基盤に一定の信頼があったことを示しています。今後は、この多ブランド戦略が市場でどのように評価されるかが焦点となります。
7:総括:有馬出店は構造転換後の象徴的プロジェクト
「ノワ・バイ・リーガ 神戸有馬」は、単なる新規出店ではなく、以下の流れが合流して生まれた象徴的な事例です。
・大阪本館の売却による財務再建
・BGO出資によるガバナンス改革
・IHGとの提携による競争力強化
・リゾート領域へ踏み込む新ブランド「ノワ」
・アセットライト化による多ブランド展開の加速
ロイヤルホテルは、「不動産を持つ名門企業」から「運営力を軸に展開するホテル企業」へ、明確に構造転換を進めています。
有馬での新ブランド開業は、その転換を象徴するプロジェクトとして位置付けられます。
【出典元】
・株式会社ロイヤルホテル「ノワ・バイ・リーガ 神戸有馬」プレスリリース
・ロイヤルホテル「中期経営計画2026」
・BGO × ロイヤルホテル 資本提携資料
・リーガロイヤルホテル(大阪) IHG「Vignette Collection」関連発表資料








