2025年6月、京阪・淀屋橋駅が大規模リニューアル。新幹線車両の再生アルミを天井材として関西初導入したその設計には、鉄道の記憶と都市の未来が同居しています。
鉄道の余生が都市を支える──天井に宿る「新幹線の記憶」

今回のリニューアルで最も象徴的なのは、コンコース天井に使用された「東海道新幹線」の再生アルミ素材です。JR東海グループの保有する引退車両から取り出したアルミ部材を関西で初めて建材として導入し、見た目の美しさに加え、CO₂排出量を従来比で97%削減できるという環境性能を兼ね備えています。
淀屋橋駅の開業は1963年、東海道新幹線の開業はその翌年の1964年。高度経済成長期に誕生した両者が、60年後のいま、素材と空間という形で“再会”を果たしたことは、鉄道と都市の時間的なつながりを感じさせます。京阪グループが掲げる「BIOSTYLE」(環境・健康・文化の調和)を象徴する取り組みとも言えるでしょう。
接続する都市、ひらく動線──動線改革と新出入口の整備

実用面でも大きな変化があります。これまでOsaka Metroとの乗換ルートには混雑が見られましたが、今回のリニューアルでは利用者の動線を全面的に見直し、新たに整備された「地下接続広場」が2025年6月1日より供用開始されます。隣接する複合施設「淀屋橋ステーションワン」と駅の地下空間を直接結ぶ構造で、回遊性と移動効率が大きく向上します。
さらに、6月23日には「京阪13号出入口」が開放され、ステーションワンのビル内エレベーターと階段を通じて、地上と地下をスムーズに結びます。始発から終電まで利用できるこの出入口は、バリアフリー動線としても活躍し、利用者層の拡大と快適性の向上を両立します。
駅から始まる街の再構築──再生事業とデザインの力
このプロジェクトは、「淀屋橋駅東地区都市再生事業」の一環として進められてきました。単なる老朽化対策ではなく、駅とその周辺エリアを一体で再構築する都市再生の取り組みです。リニューアルのデザインコンセプトは「クラシックとスタイリッシュの共存」。重厚な歴史を感じさせる佇まいと、現代的で洗練された空間デザインが調和しています。
鉄道駅は単なる通過点ではなく、都市の「節点」としての機能を再び取り戻しつつあります。素材の選定から動線設計、デザイン思想に至るまで、すべてが「次の都市」を見据えた選択であり、全国の再開発事業にも示唆を与える好例となるでしょう。
天井に目を向ければ、そこには鉄道の記憶と、都市の未来が静かに描かれているのです。
【出典元】
→京阪電鉄>「淀屋橋ステーションワン」オープンに合わせ 淀屋橋駅コンコースの大規模リニューアルを実施しました