国際的な富裕層旅行市場をつなぐ商談イベント「Connections Luxury Asia Pacific(以下CLAP)」が、2026年から3年連続で大阪にて開催されることが決定しました。主催は英国Jacobs Media Group傘下のConnections Luxuryで、体験を通じて富裕層バイヤーとサプライヤーの信頼関係を構築するユニークなB2Bイベントです。
この誘致は、単なるMICE(Meeting, Incentive, Convention, Exhibition/Event)イベントの誘致にとどまりません。大阪が「ポスト万博戦略」として、京都・奈良の文化資産と接続しながら海外富裕層を引き込み、「国際交易ハブ都市」へと進化する布石だと位置づけられます。
1.東京から大阪へ。開催地移転の必然

2025年に東京で初開催されたCLAPは、日本文化を体験しながら約130名の業界リーダーが濃密な商談を交わす成功例となりました。しかし東京はすでに世界的な都市ブランドを確立しており、追加のニュースバリューは限定的です。
一方の大阪は、2025年に大阪関西万博を成功させ、IR(統合型リゾート、2030年予定)を控えつつも、国際的な富裕層市場におけるプレゼンスが不足していました。この「飢餓感」に応えるように、開催地を移すことで主催者側も大きなインパクトと都市のコミットメントを引き出せると判断したのです。
また、大阪にとって最大の課題は「万博で整備された交流インフラの持続的活用」です。CLAPは、国際的に「大阪は富裕層のハブとしてインフラを活かす都市」というメッセージを発信する具体的なツールとなります。
2. イベントの意図と目的
CLAP大阪開催の狙いは、単なる観光客数の拡大ではなく「質の高い消費」を重視する点にあります。まずアジア富裕層を中心に、米国・英国・中東市場へ段階的に拡大する戦略です。
項目 | 意図・目的 | ゴール |
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富裕層市場 | 高付加価値インバウンド消費の獲得、関西の事業者を国際販売網に接続 | 富裕層ハブの確立 |
都市ブランド | 万博・IR(ハード)×ラグジュアリーMICE(ソフト)の統合 | 国際ビジネス観光都市へ格上げ |
オーバーツーリズム | 「量より質」の徹底で収益最大化と混雑抑制 | 持続可能な観光都市モデル |
MICE戦略 | 3年連続開催の実績で大型国際会議を誘致 | アジア太平洋のMICE拠点化 |
3.京都・奈良との接続「国際交易ハブ都市」構想

大阪の強みは単独都市としての力にとどまりません。京都・奈良という歴史文化資産と接続することで、日本文化と海外富裕層を結ぶ「国際交易ハブ都市」へと進化します。
具体的な富裕層回廊の体験例:
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京都:茶道や庭園、伝統建築に加え、非公開寺院の夜間貸し切り特別拝観や、老舗京料理店の完全個室での「食文化体験」を提供。世界的に認知されたラグジュアリー文化資源を「独占体験」へと昇華。
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奈良:古代都の歴史的遺産や精神文化。法隆寺や東大寺の僧侶によるプライベート講話、文化財建築を改装したハイエンド宿泊施設による「精神的豊かさ」の提供。
大阪は、国際空港・万博跡地・IRといったハードインフラに加え、周辺の文化資産を組み合わせることで、関西一帯を「富裕層回廊」として国際的に打ち出すことが可能です。
4. 国際交易ハブ都市がもたらす効果
富裕層インバウンドによる経済効果
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富裕層旅行者は一般層の10倍以上の消費力を持ちます。
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「少ない来訪者数で大きな経済効果」を実現し、オーバーツーリズムを抑制しながら観光収益を最大化できます。
ハイエンド産業の需要創出と雇用
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高級ホテル、ガストロノミー、ラグジュアリーツアーなど新市場が生まれ、雇用も拡大。
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通訳・コンシェルジュ・ソムリエ・文化体験プランナーなど、高付加価値な職種が増加します。
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高級施設の一部は一般層にも開放され、街の洗練化が生活環境の改善につながります。
5. 競合都市との比較と大阪の独自性
大阪の「国際交易ハブ都市」戦略は、アジアの主要な富裕層都市と一線を画します。
都市 | 主な富裕層誘致の軸 | 大阪(目標)の独自性 |
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シンガポール | 金融、クリーンMICE、最新エンターテイメント | 「歴史文化」と「最新インフラ」の融合 |
香港 | 国際交易、金融、大規模ショッピング | 「質」重視によるオーバーツーリズム抑制 |
ラスベガス | IR(カジノ)、エンターテイメント | 「文化とMICE」立脚、非カジノ事業の強調 |
大阪は、京都・奈良という世界的に比類のない歴史文化資産を背景に持つ点で、シンガポールやラスベガスにはない、深い付加価値を提供できます。これにより、単なるカジノやショッピングではなく、日本文化そのものを体験したい高付加価値層を取り込むことが可能になります。
6. CLAP×IR 二重螺旋の戦略
2026〜2028年のCLAPと2030年のIR開業は戦略的に連動しています。
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CLAP(ソフト):IR開業前に大阪が「国際水準の体験とネットワークを持つ都市」であることを証明。
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IR(ハード):CLAPで築いた富裕層ネットワークがIRのホテル・MICE需要を下支えし、単なる「カジノ都市」ではなく「文化とMICEの都市」としてブランドを強化。
7. リスクと成功の条件
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リスク:インフラ供給過剰による稼働率低下、富裕層と一般層の格差拡大による都市分裂。
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成功条件:
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IR収益を非カジノ事業へ再投資できるか。
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京都・奈良を含めた関西広域が一体となって文化資産を磨き上げられるか。
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万博レガシーと富裕層ハブ戦略を融合できるか。
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まとめ:大阪は「文化とMICEに立脚した国際交易ハブ都市」へ

CLAP大阪開催は、万博閉幕後の都市戦略を象徴する一手です。大阪は京都・奈良の文化資産と接続することで「日本文化と海外富裕層を接続する国際交易ハブ都市」という新しいアイデンティティを築こうとしています。
成功すれば、シンガポールやラスベガスとは異なる、「文化とMICEに立脚した日本独自の富裕層都市」が確立されます。失敗すれば、整備された巨大インフラが重荷となる。大阪の未来を左右する正念場が、いま始まっているのです。
出典元
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Jacobs Media Group / Connections Luxury 公式発表
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大阪観光局 プレスリリース
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Gregory Reeves氏(Connections Luxury Managing Director)発言
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Duncan Horton氏(Jacobs Media Group CEO)コメント
そして大阪自身が古都大阪であり歴史文化都市であります。