名古屋市、「SRT(Smart Roadway Transit)」を2026年2月13日運行開始 地上交通で都心の回遊性を強化


名古屋市は2026年2月13日から、新たな路面公共交通システム「SRT(Smart Roadway Transit)」の運行を開始します。

名古屋駅~栄間の総延長約5.6kmのルートを、全長18.125mの連節バス1両が走行。運行日は金曜から月曜および祝日で、9時から17時台に1日12本運行します。事業主体は名古屋市、運行事業者は名鉄バス株式会社です。

名古屋都心の回遊性を高める新たな地上交通

SRTは「Smart Roadway Transit」の略称で、スマート技術を活用した新しい地上交通を意味します。

名古屋市は、名駅・栄・大須など都心の主要エリアをつなぎ、回遊性を高めてにぎわいを創出することを目的に導入します。
地下鉄や市バスを補完する短距離移動の手段として位置づけられ、2026年に名駅~栄間で先行運行を開始し、今後の拡張も検討されています。

広小路通を走る、総延長5.6kmのルート


SRTは広小路通を中心に、名古屋駅から栄を結ぶ、総延長全長5.6kmのルートを走行します。停留所は7カ所で、3カ所がSRT専用、4カ所が市バスや名鉄バスとの共用です。


停留所はテラス型の「なごまちテラス」として整備され、ベンチやデジタルサイネージが設置されます。乗降空間としてだけでなく、まちの情報発信拠点として機能することを目指します。

運行ダイヤは、金土日月・祝 9時~17時台 運行。1日12便のスモールスタートで実証を開始します。

乗降は3扉の全扉乗降方式で、乗車時に1タップで決済します。運賃は大人210円、小児100円。現金、ICカード(マナカカードシステム)、クレジットカードのタッチ決済に対応し、1日上限500円の割引制度を導入します。QR一日乗車券(MaaSアプリ)は事前決済で、クレジットカード ・PayPayに対応。

Smart機能による運行とデータ活用


SRTには、デジタル技術を活用した運行管理や情報提供の仕組みが導入されます。

コンテンツや走行ルートなどの情報をクラウド上で一元管理し、車両位置と連動させることで、その場のまちの情報をリアルタイムに紹介します。停留所のデジタルサイネージでは、運行情報に加えて周辺施設やイベント情報を発信し、移動そのものを“情報体験”へと拡張します。

また、運行データや人流データを収集・分析し、交通需要や滞在傾向を可視化してまちづくりに活用します。システム構築は、西日本電信電話株式会社(NTT西日本)東海支店が担当しています。

地下鉄があるのになぜ必要なのか

名古屋駅と栄は地下鉄で1駅、約2kmしか離れていませんが、その間の地上空間は自動車中心に設計されており、歩行者が移動しづらい構造になっています。名古屋市が今回の課題としているのは「距離」ではなく、駅と駅の間に生まれた“地上の空白地帯”の解消です。

SRTはこの区間を連節バスで結び、車優先だった広小路通を「人が滞留し、歩きやすい街路」へと再生することを目的としています。つまり、SRTは「交通整備」ではなく「賑わいの面的拡大」を目指す都市再生プロジェクトとして位置付けられています。

段階的導入と柔軟運用によるリスク最小化


SRTは、財政面・運用面の両方でリスクを抑えた段階的な導入が可能です。運行は週4日・日中のみの限定運行から始まり、実際の渋滞や人流、利用状況を検証した上で、路線拡張や運行本数の増加を検討します。既存道路を活用するため、軌道やトンネルなどの大規模工事は不要で、整備費は地下鉄に比べて大幅に低コストに抑えられます。また、ルート変更や増便が容易なため、利用データに基づいた柔軟な運行が可能です。

今回の名古屋市のSRTは、スモールスタートで実績を積み重ね、効果を検証しながら発展させていくことで、持続的かつ現実的な公共交通モデルの構築を目指しています。

まとめ:結局、SRTはバスなのか?



関西空港で運行されている連節バス

実際、SRTは現時点で「連節バスを走らせる交通システム」であることは否定できません。そのため、「SRT=新しい交通インフラ」というよりも、「今のところはバスの新しい形」と言うのが正確な理解と言えます。

名古屋市は「SRT」を、将来的に新しい交通の形へと進化させるためのプロトタイプとして位置付けています。現在は、既存のバスシステムを活用した社会実験に過ぎません。しかし、この実験を通じて得られたデータや成果を基に、SRTは将来的に自動運転や高度なデータ分析機能を備えた、都市の“情報インフラ”へと発展する可能性を秘めています。

つまり、SRTは現時点では「情報提供が整った連接バス」という事実を受け入れつつ、名古屋市は“次世代都市交通”の実験を始めていると言えます。

今回のSRT導入は非常に小規模ですが、確実に効果を検証しながら進める姿勢は、慎重かつ実践的な都市戦略といえます。SRTが、地上交通を通じて名古屋の都心再生を着実に前進させる取り組みとなるのか、今後の展開に注目が集まります。






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