ヒルトン最上級「ウォルドーフ・アストリア大阪」
ヒルトンが、日本市場への投資を本格的に拡大しています。同社は現在、日本国内で33軒のホテルを展開していますが、2026年以降に13軒の新規開業を予定しています。ラグジュアリーを中核に、ライフスタイル型やリゾート型までを網羅する多層ブランド戦略を通じ、日本をアジア太平洋戦略の重要拠点として位置づける姿勢が明確になっています。
1.日本市場の方針|「高付加価値」へのシフトが鮮明に
今回の記者説明会で最も強調されたのは、インバウンド需要の量的回復ではなく、質的変化への対応です。日本・韓国・ミクロネシア地区代表のジョセフ・カイララ氏は、「訪日旅行者のラグジュアリー需要は依然として高く、オーナー側からも高級ブランドへの期待が大きい」と明言しました。単なる拠点数の拡大ではなく、高単価かつ長期滞在が見込める層を主対象としたブランドポートフォリオへの再構築が進められています。
2.開業ロードマップ|いつ・どこに展開するのか
今年開業する「コンラッド名古屋」
13軒の新規開業は、都市型とリゾート型を織り交ぜながら段階的に進められます。
2025年12月
・ザ・グリーンリーフ・ニセコビレッジ タペストリー・コレクションbyヒルトン(北海道)
2026年
・コンラッド名古屋(愛知)
・ヒルトン高山リゾート(岐阜)
・ヒルトン・ガーデン・イン横浜みなとみらい(神奈川)
・キャノピーbyヒルトン沖縄宮古島リゾート(沖縄)
2027年
・コンラッド横浜(神奈川)
・ウォルドーフ・アストリア東京日本橋(東京)
・ヒルトン・ガーデン・イン長崎中華街(長崎)
2028年
・キャノピーbyヒルトン東京赤坂(東京)
・京都ブライトンホテル キュリオ・コレクションbyヒルトン(仮称)
・LXR Hotels & Resorts(広島県廿日市市)
このほか北海道では、「カサラ・ニセコビレッジLXRホテルズ&リゾーツ」や「ヒルトン札幌パークホテル(仮称)」の計画も進行しています。
3.なぜ今、日本なのか|需要・為替・政策が重なった局面

ヒルトンが再投資を強める背景には、三つの構造要因があります。
需要
2024年の訪日外国人旅行者数は約3,687万人と過去最高を更新しました。政府は2030年に6,000万人という目標を掲げており、中長期的な市場拡大が見込まれています。特に消費額の大きい欧米豪市場の回復が先行しています。
為替
円安基調が定着し、海外から見た日本の宿泊費や不動産価格は相対的に割安な状態が続いています。これはインバウンド消費だけでなく、外資系ホテル投資の判断を後押しする要因となっています。
政策
観光立国推進のもと、地方誘客や高付加価値観光への転換が進められており、都市型とリゾート型の双方を展開するヒルトンの戦略と整合しています。
4.戦略の核心①|ラグジュアリーを軸に「面」で押さえる

ヒルトン戦略の第一の柱は、ラグジュアリーブランドの集中的投入です。「ウォルドーフ・アストリア」「コンラッド」「LXR」を主要都市や有力観光地に配置し、高単価需要を確実に取り込む構えです。オーナー側にとっても、ラグジュアリーブランドは資産価値の維持・向上に直結しやすく、開発意欲が高い分野とされています。
5.戦略の核心②|リブランド(コンバージョン)という現実解
ダイワロイネットホテルをリブランドした「ダブルツリーbyヒルトン京都駅」
今回の計画で象徴的なのが、京都ブライトンホテルのキュリオ・コレクション入りです。
建築コストの高騰や工期の長期化が常態化する中、既存の良質なホテルをヒルトンの予約システムや会員基盤に組み込むコンバージョンは、スピードと収益性の両面で合理的な手法です。特に新規開発が難しい京都のような都市では、「ハードは日本、ソフトは外資」という形のリブランド案件が今後も増加する可能性があります。
同様の動きは、マリオット・インターナショナルでも進んでおり、ラグジュアリーコレクションやオートグラフコレクションといった形で、地方の独立系ホテルが外資系巨大チェーンの会員ネットワークに組み込まれる事例が増えています。
6.戦略の核心③|地方×ラグジュアリーの先取り
広島県廿日市市へのLXR展開も、ヒルトンの先読みを示す事例です。国内では、京都のROKU KYOTO, LXR Hotels & Resortsに続く2軒目となります。欧米豪の富裕層は、東京・京都・大阪のゴールデンルートに加え、瀬戸内や地方での文化・自然体験を重視しています。ヒルトンは、こうした需要を見越し、地方におけるラグジュアリーの受け皿を先行的に整備しています。
7.収益基盤|ヒルトン・オナーズとドミナント戦略

これらすべてを支えるのが、約2億3,500万人を擁する会員プログラム「ヒルトン・オナーズ」です。予約の約9割が自社チャネル経由となっており、OTA手数料を抑えた高収益体質を実現しています。
ヒルトンが進めるドミナント戦略が深化すればするほど、日本のインバウンド市場は同社のネットワークに組み込まれ、一種のインフラとして機能する構造が強まります。その一方で、日系ホテル事業者は、送客網や会員基盤を持たない場合、より厳しい競争環境に置かれる可能性があります。
8.今後の展望|国内ホテル勢との「優勝劣敗」
ヒルトンの攻勢は、日本の宿泊市場が「量」から「質」へと完全に構造転換したことを示しています。外資系によるラグジュアリーと会員ネットワークの支配が進む中、国内ホテル事業者には、明確な付加価値や独自性がより強く求められる局面に入っています。
都市のブランド力が高まる一方で、事業者間の優勝劣敗が鮮明になるフェーズに入ったといえるでしょう。
【出典】
-
ヒルトン 記者説明会 発表内容
-
ヒルトン・ワールドワイド・ホールディングス プレスリリース
-
日本政府観光局(JNTO)訪日外国人旅行者数統計
-
観光立国推進基本計画
-
各開業案件に関する公式発表・報道資料






