京都府、JR4路線から「次の複線化」を選定へ 要望型からデータで優先順位を決める鉄道政策へ



京都府が、府内JR線の「次の複線化」を選ぶための定量評価に乗り出します。

対象は山陰本線、奈良線、関西本線、学研都市線(片町線)の4エリア。輸送量や沿線開発、将来需要などを比較したうえで1路線を選定し、全線複線化と複数の部分複線化案について、事業費・需要・便益を検証します。

重要なのは、「4路線すべてを複線化する」という話ではないことです。

今回の核心は、沿線ごとの要望を積み上げる従来型の鉄道政策から、限られた財源をどこへ投じれば最も効果が高いのかを、データで判断する段階へ進むことにあります。

4路線を比較し、1路線を詳細検討


項目 内容
比較対象 山陰本線、奈良線、関西本線、学研都市線
基礎分析 輸送量、駅利用者数、ダイヤ、沿線開発、将来需要など
詳細検討 4エリアから1路線を選定
対象区間 輸送需要の増加が見込まれる区間
整備案 全線複線化+部分複線化2案以上
需要予測 四段階推計法
評価 概算事業費、利用者便益、拡張便益、地域への波及効果など
評価手法 国交省「鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル」に準拠
残る3エリア 維持・活性化、利用促進、他交通との連携策を検討
契約期間 2027年2月26日まで
対象路線は現時点で決まっていません。4エリアの分析結果と受注者の提案を踏まえ、契約後に京都府が1路線を決定します。

特定路線の複線化を前提とするのではなく、まず4路線を共通の物差しで比較するところから始めるのが今回の特徴です。

全線複線化だけでなく「最も効く区間」を探す


出典:Wikimedia Commons/Tam0031、CC BY-SA 3.0

今回の調査で注目したいのが、全線複線化に加え、部分複線化を2案以上検討する点です。

単線区間では列車交換が増発や速達化の制約になります。一方、全線を複線化すれば、用地取得や橋梁、駅、踏切、信号設備などの改良が必要となり、事業費は大きくなります。

そこで、ボトルネックとなる区間を重点的に複線化した場合も比較し、

「どこを複線化すれば、限られた投資で増発・速達化・定時性向上を最大化できるのか」

を探ります。

複線化するかどうかではなく、投資規模と効果の最適点を見極める調査です。

4路線で異なる「次の一手」



4路線は、置かれている状況が大きく異なります。
路線 現在の状況 政策上のポイント
学研都市線 木津~松井山手などが単線 けいはんな学研都市の成長を背景に、複線化による輸送力強化が焦点
奈良線 第2期複線化後も単線区間が残る 第3期以降の複線化をどう進めるかが課題
山陰本線 京都~園部は複線化済み 園部以北では需要規模を踏まえた輸送改善が中心
関西本線 木津~加茂に複線化構想 加茂以東では利用者減少や地域交通網の維持も重要
なかでも政策面で先行しているのが学研都市線と奈良線です。

けいはんな学研都市の地域公共交通計画では、学研都市線について「複線化に向けた事業化調査」、奈良線についても「第3期以降構想」として、さらなる複線化が位置付けられています。

けいはんなでは企業、研究機関、大学の集積が進んでおり、今後も通勤・交流需要の増加が見込まれます。今回の詳細検討が「輸送需要の増加が見込まれる区間」を対象としていることを考えると、学研都市線と奈良線は注目候補といえます。

ただし、これは既存計画や沿線動向からみた推測であり、京都府は対象路線をまだ決定していません。

一方、関西本線加茂以東や山陰本線園部以北では、輸送力増強だけでなく、利用者減少や地域交通の維持も大きな課題です。

つまり、すべての路線に「複線化」という同じ処方箋を当てるのではなく、需要増が見込める路線には設備投資、需要維持が課題の路線には利用促進や交通再編と、政策を使い分ける考え方です。

選ばれない3路線も「落選」ではない

詳細な複線化検討を行わない3エリアについても、利用状況や沿線特性を分析し、鉄道の維持・活性化、観光利用、通勤・通学需要の掘り起こし、他の公共交通との連携策を検討します。

今回の調査は、単に「どの路線を複線化するか」を決めるものではありません。

「各路線にどの政策が最も適しているか」を整理する調査でもあります。

事業化に必要な「投資の物差し」を整える

詳細検討する1路線では、概算事業費に加え、利用者便益や地域への波及効果を分析します。

需要予測には四段階推計法を採用し、評価は国土交通省の「鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル」に準拠します。

仕様書に「B/C」という表記自体はありませんが、費用と便益を比較することで、B/Cなど鉄道投資の事業性を判断するための基礎データが整うことになります。

実際に複線化を進める場合には、JR西日本との調整に加え、国の支援制度や沿線自治体を含めた費用負担の議論が必要です。客観的な需要予測と費用対効果は、その前提となります。

パシフィックコンサルタンツを選定

京都府は2026年8月26日、業務候補者としてパシフィックコンサルタンツを選定しました。総合評価は165点で、ジェイアール西日本コンサルタンツも参加していました。

調査ではビッグデータ分析に加え、沿線自治体や鉄道事業者を交えた勉強会も実施します。

事業名は「府内鉄道網等の将来的な社会基盤整備の検討に向けた人材育成事業」ですが、実際には府内JR線を題材に、需要分析から複線化の事業性評価まで踏み込む政策検討となっています。

京都の鉄道政策、「要望」から「投資判断」へ


出典:Wikimedia Commons

これまで鉄道複線化では、沿線自治体や期成同盟会が国や鉄道会社に早期整備を求める要望活動が大きな役割を果たしてきました。

しかし、人口減少と建設費上昇が同時に進む現在、すべての単線区間を順番に複線化していくのは現実的ではありません。

そこで京都府は、4路線を同じ土俵に載せて将来需要を予測し、全線複線化と部分複線化をコストと便益で比較します。

従来の「この路線を複線化してほしい」という要望型の政策から、

「この区間に、この規模で投資すれば、これだけの効果が得られる」

と示す投資判断型の政策への転換です。

今回の調査だけで複線化事業が決まるわけではありません。それでも、需要・コスト・便益を定量化できれば、議論は「複線化してほしい」から、「どの案なら事業として成立するのか」へ進みます。

どの路線が選ばれるか以上に、「どう選ぶか」が変わる。

今回の調査は、人口減少時代の地方鉄道投資を考えるうえで、一つの転換点になりそうです。




出典

  • 京都府「府内鉄道網等の将来的な社会基盤整備の検討に向けた人材育成事業 業務委託仕様書」
  • 京都府「総合評価競争入札方式による業者選定の評価及び候補者選定結果等の公表について」
  • 京都府「けいはんな学研都市地域公共交通計画」
  • 国土交通省「鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル」

Visited 732 times, 733 visit(s) today