パソナ、本社機能を淡路島に 東京集中の弊害回避:日本経済新聞 https://t.co/WcCP2wv8zO
— ロング@再都市化 (@saitoshika_west) September 1, 2020
人材派遣大手のパソナグループは、東京にある本社機能の一部を兵庫県の淡路島に段階的に移転させます。経営企画や人事などの本部機能の約1200人が対象になる見通しで主要幹部は淡路島に常駐します。パソナは2008年から淡路島で農業や観光事業を手掛け、旧三洋電機から取得した寮などの施設も保有しています。これらの状況や感染症対策を含めた事業継続計画(BCP)の観点から、既存施設を使って地方移転する利点が大きいと判断した様です。
『パソナの社員が東京から淡路島に島流し』。このニュースは、センセーショナルな煽り的見出しを付けられて、瞬く間にネット上を駆け巡りました。PV数稼ぎの誇張した「まとめ記事」や、土地勘がない人が想像で書いた記事、果ては大手メディアから政界の陰謀論まで出てくる有様です。今回の記事では「パソナの本社移転」のニュースをなるべく客観的に読み解いてお伝えしたいと思います。
1:淡路島は神戸と高速道路で結ばれたアーバンリゾート
関東方面の近隣には身近に「島」がないので淡路「島」と聞くフェリーで何時間もかかる「伊豆大島」あたりをイメージされるかもしれません。しかし、淡路島は人口152万人を擁する神戸市と高速道路で結ばれた、大都市に近接するアーバンリゾートといった位置づけの場所です。上のMAPは神戸都心の三宮駅前からパソナグループ夢舞台オフィスまでのルート案内ですが高速経由で約35分程度の距離感です。パソナの移転先は「島流し的離島」ではなく、神戸から35分程度のアーバンリゾート。これが実態に近い認識だと思います。2:移転計画は全体の26%程度の規模で全面移転でない

次に今回の本社移転ですが、パソナグループの本社が全面的に移転する事にはなりません。パソナの東京都千代田区の本社では営業部門やグループ企業を含め約4600人が働いていますが、今回の移転対象は1200人程度で2024年までに段階的に移転させる計画です。人員規模から考えると全体の26%ほどしか移転しません。
また、移転対象になる部門ですが、取引先とパソコンを通じてオンラインでやり取りができる営業部門や、給与計算、福利厚生などを担う人事・管理部門が対象となっています。リモートワークやWebと親和性の高い部門が移転対象になっています。この辺りから実現可能なプランを考えていると推測できます。
3:コロナ禍がリモートワークを一気に普及させ環境が整った

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言で、自宅からのネットを介した「リモートワーク」を多くの人々が体験しました。感染拡大を機に働き方やオフィス機能の見直しが広がっており、情報収集や人材確保など地方が不利とされてきた点も、ウェブ会議などの普及でかなり緩和されてきました。
また、これまでは大手企業を中心に行われていたリモートワークやWEB会議、WEBセミナーが、コロナ禍によって中小企業まで一気に普及し、リモートに対する心理的バリアーが相当緩和されました。これらの社会情勢の変化により、Webとの親和性が高い部門の移転が可能と判断したのだと思います。
4:最大の目的は「自社の構造改革」

出典:夢舞台
今回の移転に伴い、パソナグループはデジタル技術を活用して社内を変革する「デジタル・トランスフォーメーション(DX)センター」を設置します。デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念で、「データやデジタル技術を駆使して、ビジネスに関わるすべての事象に変革をもたらす」といった意味となり、『ビジネス全体を根底から大きく変革すること』と言えます。パソナグループは今回の移転をきっかけに、DXを一気に推し進め自社の既存の仕組みを破壊して再構築する。そんな経営者の意図が透けて見えます。DXの概念
・デジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革する
・既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションをもたらす
・従来なかった製品・サービス、ビジネスモデルを生み出す
・業務そのものを見直し、働き方に変革をもたらす
・上記を実現する土壌として企業の在り方自体を見直す
5:副次的な目的は「オフィス賃料削減」によるコストカット

日本一賃料が高い東京丸の内のオフィスを縮小する事で莫大な額の経費節減が可能になります。移転する1200人分が使用している床面積が解ればコスト削減額を推測できますが、現時点では不明です。南部靖之代表は「上場企業の先陣を切って本社機能を地方に移転する。淡路島では賃料などが首都圏に比べて5分の1程度と安く、節減できた経費は社員に還元できる」と語りました。
6:パソナの事例に続く企業は現れるか?

出典:Wikipedia 大井第一生命館ビル。BCP対策の為に東京都心から郊外に本社を移転した先例。現在は東京に機能を戻した
今回の移転計画は、コロナ禍による情勢変化とDX対応、自社の構造改革、コスト効率、パソナグループが展開する淡路島事業などの既存インフラなど、複合的な要素を考慮して決定されました。1200人の生活環境が変わる、大きな変革なので強力なトップダウン無しではまず不可能だと思います。パソナグループの本社機能移転は、移転先が淡路島だったので特に話題を集めましたが、これに続く企業の移転先は京阪神だけでなく、札幌・仙台・広島・福岡など東京に比べて職住近接で「QOLの向上が見込める大都市」が有力な候補になると思います。
企業の東京から地方への移転については、以下の3つのシナリオを考えました。色々思いを巡らせましたが、東京の既得権益が強すぎるので、パソナグループの様にトップが強力なリーダシップを発揮しない限り大規模な移転は進まないと予想します。
企業は経済行為を行っていますので、究極的には経済的なインセンティブ、移転した方が有利であったり、得をする様な状況がないと痛みを伴って移動する事はないと思います。逆に言えば、経済的なインセンティブがあれば移転は住んで行く事になるでしょう。
「悲観的シナリオ」
省庁の許認可権・メディア特区・金融特区といった東京が持つ首都機能により「移転しない」「変化しない」
「楽観的シナリオ」
コロナ禍により人々の意識・価値観が変化しリモートワークがさらに定着、東京の優位性が低下し地方移転の動きが出てくる
「現実的シナリオ」
リモートワークがある程度定着、賃料抑制の為、「コールセンター」と同様に移転可能な部門のみ地方移転。業務中枢機能は東京から移転する事は無い

