日立・東芝、台湾高鉄向け「N700ST」第1編成を初出荷 2027年7月の営業投入へ、現地試験と量産が次の焦点

出展:日立製作所・東芝 台湾向け新型高速鉄道車両「N700ST」


日立製作所と東芝などで構成するHitachi Toshiba Supreme Consortium(HTSC)は2026年7月30日、台湾高速鉄路(台湾高鉄)向け新型車両「N700ST」の第1編成を完成させ、山口県下松市の日立製作所笠戸事業所から台湾へ向けて出荷しました。

今回出荷されたのは、台湾高鉄が導入する12編成144両のうち、最初の1編成12両です。笠戸港から海上輸送され、8月15日に高雄港へ到着する予定です。台湾到着後は受け入れ整備や走行試験を行い、2027年7月1日の営業投入を目指します。

ただし、今回完了したのは日本側からの工場出荷です。台湾高鉄への最終的な引き渡しや営業認可は完了しておらず、プロジェクトは製造段階から現地試験・認証段階へ移ったところです。

入札不成立を経て、12編成144両を約1,241億円で契約

 

台湾高鉄は2019年ごろから新型車両の調達を本格化しましたが、当初の入札は提示価格や書類上の問題から不成立となりました。台湾仕様への設計変更、少数編成向けの開発費、輸送、技術支援などを含む契約条件を巡り、台湾高鉄と日本側メーカーの間に隔たりがあったとされています。

その後、台湾高鉄は調達条件を見直し、2023年3月に日立・東芝連合への発注を決定。同年5月18日、12編成144両を約1,240億9,100万円で導入する契約を締結しました。

単純平均では1編成当たり約103億円、1両当たり約8億6,000万円です。ただし、契約額には設計変更、試験、輸送、技術支援などが含まれる可能性があり、車両本体だけの製造原価を示すものではありません。
時期 主な動き
2019年ごろ 新型車両の調達を本格化
2021年 価格や書類上の問題から入札が不成立
2023年3月 台湾高鉄が日立・東芝連合への発注を決定
2023年5月18日 12編成144両、約1,241億円で正式契約
2025年8月 車両形式を「N700ST」と発表
2026年5月19日 日本車輌製造の担当車両を日立へ移送
2026年7月30日 第1編成を完成し、台湾へ初出荷
2026年8月15日 高雄港へ到着予定
2027年7月1日 第1編成の営業投入目標
2027~2028年 各年6編成、計12編成を順次投入
製造は日立製作所と日本車輌製造が分担し、東芝が主回路、電気品、非常用バッテリーなど電気システムの中核を担います。

第1編成は1~4号車、5~8号車、9~12号車の3ユニットに分けて製造されました。このうち、ビジネスクラス車やバリアフリー対応車を含む5~8号車を日本車輌製造が担当。笠戸事業所で12両編成として統合し、工場試験を経て出荷しました。

N700Sを台湾の気候・設備に合わせて設計


東海道新幹線「N700S」

N700STは、JR東海の東海道新幹線などで使われている「N700S」を基礎に、台湾高鉄の線路設備、気候、災害リスク、旅客ニーズに合わせて設計した車両です。名称の「T」はTaiwanを表します。

編成は現行700Tと同じ12両で、全長は約300メートル。営業最高速度も同じ時速300キロです。最高速度の向上ではなく、省エネルギー性能、災害対応力、乗り心地、荷物設備、バリアフリー機能の改善に重点を置いています。

高温多湿、台風、豪雨、沿岸部の塩害、地震など、台湾特有の環境にも対応します。
項目 N700STの主な仕様・特徴
編成・速度 12両編成、全長約300メートル、営業最高速度300キロ
座席数 975席。現行700Tの977席より2席少ない
主回路 SiCパワー半導体を採用し、機器を小型・軽量化
冷却方式 走行風を利用するブロワーレス冷却を採用
非常時対応 東芝製SCiBリチウムイオン電池による自走機能を搭載
乗り心地 フルアクティブ制振制御を採用
車内電源 全席に110ボルトのコンセントを設置
案内設備 上下2段のフルカラー液晶ディスプレーを設置
荷物設備 全車両に大型荷物置き場を設置。大型スーツケース114個を収容可能
バリアフリー 車いすスペースを4席から6席へ増設
子育て対応 授乳室に洗面台、ベビーシート、コート掛けなどを追加
安全対策 滑走・空転制御、低重心化、耐風安定性、湿気・塩害対策を強化
SiCパワー半導体と走行風冷却の採用により、台湾高鉄は既存の700系世代と比べ、消費エネルギーを約20%削減できるとの見通しを示しています。ただし、これは設計上の目標であり、実際の削減効果は営業運転開始後の運行条件によって変わります。

架線停電時には、東芝のリチウムイオン電池「SCiB」を使い、低速で安全な場所まで移動できます。台湾高鉄の説明では、時速約30キロで約10キロ走行するか、照明やトイレなどの車内設備を約30分間維持できる設計です。

大型荷物置き場は、改修後の700Tの61個から114個へ拡大します。海外旅行者の大型スーツケースを専用スペースへ収容することで、通路の閉塞や乗降時の混雑を抑える狙いがあります。

台湾で69項目の動的試験を実施



高雄港への到着後、N700STは台湾高鉄の基地へ搬入され、車体、台車、電気機器、旅客設備などの静的試験を受けます。その後、実際の線路を使った動的試験へ移ります。

動的試験では、加速・制動、信号・列車制御、電力、無線通信、騒音、振動、乗り心地、車内設備、異常時の動作など、69項目を4段階に分けて確認する計画です。

受け入れ整備と静的試験は2026年11月末、動的試験は2027年4月末までの完了を目指します。その後、試験結果を基に台湾交通部鉄道局が営業認可の手続きを進めます。
時期 主な工程
2026年8月15日 第1編成が高雄港へ到着予定
2026年後半 基地搬入、受け入れ整備、静的試験
2026年後半~2027年4月 69項目の動的試験
2027年春以降 営業認可、乗務員・保守要員の訓練
2027年7月1日 第1編成の営業投入目標
2027年 合計6編成を営業投入予定
2028年 残る6編成を投入
2028年末 全12編成の営業入りを予定
2027年7月1日は、試験と認可が順調に進むことを前提とした目標日です。第1編成で不具合や仕様調整が生じれば、後続編成の製造や投入時期にも影響する可能性があります。

車両は34編成から46編成へ、週間1,400本超を計画


台湾新幹線の車内

台湾高鉄は現在の34編成にN700STを12編成加え、最終的に46編成体制とする計画です。2027年と2028年にそれぞれ6編成を投入し、2028年末までに全編成の営業入りを目指します。

全数投入後は、週間運行本数を現在の1,134本から1,400本超へ増やし、ピーク時の輸送力を約25%引き上げる構想です。

N700STの座席数は現行700Tより2席少ないため、輸送力の増強は1編成当たりの大型化ではなく、保有編成数を増やして列車を増発することで実現します。台湾北部と南部を短時間で結ぶ長距離直達列車など、新たな運行パターンも検討されています。

保有編成数は約35%増える一方、ピーク時の輸送力の増加は約25%です。定期検査や予備車の確保に加え、駅、線路、折り返し設備の処理能力が運行本数の制約となるためです。

検修施設やホームドアも改修


台湾新幹線のホームドア

12編成の増備効果を引き出すには、車両だけでなく、検修施設、運行管理システム、ホームドア、保守部品、人材育成の整備が必要です。

台湾高鉄は左営基地に、全長約350メートル、6本の検修線を備える第2車両検修工場を建設しています。2027年12月の完成後は、最大留置能力を44編成から50編成へ、日常的な検修能力を38編成から47編成へ拡大する計画です。

燕巣総機廠でも、現行700TとN700STの両形式を扱うため、工場や検査設備を改修します。台北駅のホームドア、運行管理、保守資材、異常時の対応手順なども新形式に合わせて変更します。

人材面では、台湾高鉄が運転士や保守担当者を日本へ派遣し、運転、検査、故障対応などの研修を進めています。日本での研修は14回、延べ100人を超え、基地内でも約50か所の設備調整や拡張が進められています。

台湾高鉄は車両購入とは別に、動的試験、研修、保守物資、検修設備など21件の関連契約を進めています。工場建設や設備改修を含む投資額は300億台湾元を超えており、N700STの導入は運行・保守システム全体を更新する大型事業です。

本当の山場は台湾到着後


台湾新幹線:「高鉄左営駅」

N700STは現行700Tを直ちに置き換える車両ではありません。700Tの検修・改修を続けながら両形式を併用し、増備によって運行本数を増やします。

一方、異なる2形式の併用が長期化すれば、部品在庫、整備教育、検査設備、ソフトウェア管理が二重化し、導入初期の保守費用が増える可能性があります。省エネルギー化や故障時の対応力向上と、二形式併用によるコスト増をどう両立させるかも課題です。

日本の鉄道産業にとっては、N700Sの標準化設計を12両編成の海外仕様へ展開した象徴的な案件です。ただし、過去の入札では価格の高さが問題となりました。今後、他国への展開を広げるには、車両性能だけでなく、現地仕様への変更、試験、認証、教育、保守まで含めた総コストで競争力を示す必要があります。

第1編成の初出荷は、調達難航を乗り越え、プロジェクトが現地導入段階へ進んだ重要な節目です。しかし、台湾の電力、信号、無線、線路、気象条件への適合確認と、残る11編成の安定した製造・輸送はこれからです。

N700STの真価は、営業投入後、現行700Tとの混在運用の中で、安全性、定時性、省エネルギー性能、快適性、増発効果を同時に実現できるかによって決まります。




出典

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