CBREが発表した「Japan Retail MarketView 2025年第3四半期」によると、全国10の主要商業エリアのうち7エリアで平均賃料が上昇、3エリアが横ばいとなりました。
また、銀座・表参道・原宿・心斎橋・京都・神戸・天神の6エリアで過去最高値を記録しました。
特に、新宿の空室率は1.4%(前期比▲2.5ポイント)と大幅に低下。大型区画の成約が進み、需要の強さを裏付ける結果となりました。一方、銀座・渋谷・心斎橋・栄の4エリアでは空室率0%が継続しており、出店余地は極めて限られた状態です。
出店動向:アウトドア・スポーツとファッションが市場を牽引
全国のプライムエリアにおける新規出店・契約面積は前期比19.5%増の1,702坪。業態別ではアウトドア・スポーツ、ファッションの2分野で約6割を占め、新宿と京都が出店規模を押し上げました。
銀座や原宿、栄の周辺エリアではリテーラーの移転・再出店が相次ぎ、オーナー希望賃料を上回る契約事例も確認されています。特に銀座では建替え・リニューアルに伴う移転需要が高まり、高賃料を容認する動きが広がっています。
東京エリア:銀座・表参道・新宿の3極構造がより鮮明に
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銀座:空室率0%を3期連続で維持し、平均賃料は286,000円/坪(+1.4%)**と過去最高。
松屋通り・マロニエ通りの評価上昇により賃料上昇が続いています。
1年後は+2.8%(2019年比+13.9%)の上昇が見込まれています。 -
表参道・原宿:平均賃料246,000円/坪(+2.2%)で3期連続の最高値更新。
韓国・中国ブランドによる日本初の路面店出店が相次ぎ、周辺エリアでもリユースやシューズ業態が活発化。 -
新宿:空室率1.4%(▲2.5pt)、平均賃料179,000円/坪(+4.1%)。
スポーツ・アパレルの大型出店が続き、2025年Q3時点で前年通期の契約実績を上回る勢いです。
近畿エリア:心斎橋・京都・神戸の全エリアで最高値更新
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心斎橋:平均賃料271,000円/坪(+1.9%)で3期連続の最高値。
リテーラー間の競争激化が賃料上昇を後押し。御堂筋西側では「OPA本館」の譲渡や旧関西アーバン銀行本社の建替えなど再開発が進行中。 -
京都:空室率2.4%(▲1.2pt)、平均賃料130,500円/坪(+3.6%)で3期ぶりの最高値。
河原町交差点付近の賃料上昇が牽引しました。 -
神戸:平均賃料119,500円/坪(+1.7%)、空室率0.9%(▲0.4pt)。
外国人宿泊者数が前年同期比+37%の約22万人に増加し、インバウンド需要が追い風となっています。
栄と天神も堅調に推移
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名古屋・栄:空室率0%を維持。平均賃料73,000円/坪(横ばい)。
周辺エリアでは伊勢町通り・呉服町通りでファッションリテーラーが出店を拡大。 -
福岡・天神:空室率4.5%(▲0.4pt)、平均賃料66,500円/坪(+0.8%)。
リユース・アパレル・ジュエリー業態が堅調で、マロニエ通り周辺の賃料が上昇しました。
エリア別マーケットデータ一覧(2025年Q3)
| 地域 | エリア | 空室率 | 空室率 前期比 (pt) | 空室率 前年比 (pt) | 平均賃料(円/坪) | 前期比 (%) | 前年比 (%) | プライム賃料(円/坪) | 前期比 (%) | 前年比 (%) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 東京 | 銀座 | 0.0% | ±0.0 | −1.0 | 286,000 | +1.4 | +8.7 | 450,000 | ±0.0 | +12.5 |
| 表参道・原宿 | 0.4% | −0.1 | −0.4 | 246,000 | +2.2 | +20.1 | 400,000 | ±0.0 | +14.3 | |
| 新宿 | 1.4% | −2.5 | −1.6 | 179,000 | +4.1 | +5.3 | 300,000 | ±0.0 | ±0.0 | |
| 渋谷 | 0.0% | ±0.0 | −0.4 | 176,000 | ±0.0 | +16.6 | 350,000 | ±0.0 | +16.7 | |
| 関西 | 心斎橋 | 0.0% | ±0.0 | ±0.0 | 271,000 | +1.9 | +8.4 | 380,000 | ±0.0 | ±0.0 |
| 梅田 | ― | ― | ― | 129,000 | ±0.0 | +1.6 | 200,000 | ±0.0 | ±0.0 | |
| 京都 | 2.4% | −1.2 | −0.9 | 130,500 | +3.6 | +13.5 | 200,000 | +11.1 | +17.6 | |
| 神戸 | 0.9% | −0.4 | −4.4 | 119,500 | +1.7 | +12.2 | 230,000 | ±0.0 | −8.0 | |
| 中部 | 名古屋・栄 | 0.0% | ±0.0 | ±0.0 | 73,000 | ±0.0 | +2.8 | 110,000 | ±0.0 | +10.0 |
| 九州 | 福岡・天神 | 4.5% | −0.4 | −0.6 | 66,500 | +0.8 | +14.1 | 110,000 | ±0.0 | +10.0 |
なぜ6エリアが最高値を更新したのか?構造的上昇の6要因
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歴史的円安とインバウンドの過熱
訪日外国人は2024年に過去最高を更新し、1人当たり消費額も22万円超。
円安により「日本の高級品が割安」に見える環境が続き、銀座や心斎橋で高級ブランドの販売が活況となっています。 -
高付加価値業態への需要集中
Eコマース普及後も、ラグジュアリー・アウトドア・リユースといった“体験価値を伴う商材”はリアル店舗での出店意欲が極めて強い。
これが平均坪賃料を押し上げる構造的要因です。 -
空室率0%エリアの供給制約
銀座・渋谷・心斎橋・栄の空室率は0%。
退去が出ると複数社が競合し、オークションのように賃料が上昇します。
また、建替え・更新に伴う移転需要も賃料上昇を支えています。 -
旗艦店=広告費という投資構造
ラグジュアリーブランドは銀座・表参道・心斎橋の路面店を**「ブランド体験の場=広告塔」**と位置づけ、
広告費を賃料に振り替える戦略を採用。これにより高賃料でも投資が成立します。 -
再開発と国際イベントの波
心斎橋・天神では再開発、京都・神戸では観光消費回復が進行。
さらに2025年大阪・関西万博など国際イベントを見据え、「立地確保」目的の先行出店が加速しました。 -
オーナー側の強気姿勢
売上実績が好調なため、オーナー側も賃料を下げる必要がなく、
強気の水準でもテナントが確実に付くという市場心理が形成されています。
まとめ:日本のハイストリート市場は「構造的な上昇局面」に
銀座・心斎橋・表参道・京都など主要6エリアの賃料上昇は、短期的な景気回復ではなく、インバウンド・ブランド戦略・立地制約という三重構造に支えられた現象です。
特に「ブランド体験を中心に据えた小売の再定義」が進む中で、超プライムエリアは“商品を売る場”から“ブランドの世界観を見せる舞台”へと変化しています。その結果、賃料は依然として上昇基調にあり、2026年以降も「空間価値がブランド価値を決める」時代が続く見通しです。
出典
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日本政府観光局(JNTO)/観光庁データ(2024–2025年)
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各ブランド・リテール企業の決算・報道資料(LVMH、J. Front Retailing など)







