
大阪ガスが参画する米国の大規模e-メタン製造事業「Live Oak(ライブオーク)プロジェクト」が、商用化を見据えた基本設計(FEED)に入りました。
米国ネブラスカ州に約250MWの水電解設備を整備し、再生可能エネルギー由来の水素と、バイオエタノール工場から回収したCO₂を原料に、年間約7.5万トンのe-メタンを製造。既存の天然ガス・LNGインフラを使って日本へ輸送し、2030年度中の商業運転開始を目指します。
この計画の本質は、新しい燃料をつくることではありません。
日本が長年かけて築いてきたLNG基地、都市ガス導管、工場や家庭のガス機器を大きく造り替えず、中を流れる燃料だけを脱炭素型に変える。Live Oakは、その仕組みを商業規模で成立させようとするプロジェクトです。
そもそも「e-メタン」とは?

e-メタンは、再エネ由来の水素と回収CO₂から人工的につくるメタンです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原料 | 再エネ電力、水、回収CO₂ |
| 製造 | 水電解で水素を製造 → CO₂と反応させメタン化 |
| 出来上がる燃料 | 天然ガスの主成分と同じ「メタン」 |
| 狙い | 化石由来天然ガスを減らし、ガス需要を脱炭素化 |
| 最大の強み | LNG基地、都市ガス網、ガス機器など既存設備を活用しやすい |
| 向いている用途 | 高温熱など、電化しにくい産業需要 |
一方、e-メタンは回収したCO₂を再び燃料に戻す仕組みです。つまり、**「ガスをなくす」のではなく「ガスそのものを脱炭素化する」**のが狙いです。
何がすごいのか? 「設備を変えず、燃料を変える」
水素をそのまま大量輸送・利用する場合、水素専用の液化設備、輸送船、タンク、配管、需要家設備などの新規投資が必要です。e-メタンなら、
再エネ → 水素 → e-メタン → 天然ガス網 → LNG船 → 日本のLNG基地 → 都市ガス網 → 家庭・工場
という既存サプライチェーンを幅広く活用できます。
| 水素利用 | e-メタン利用 |
|---|---|
| 専用インフラの新設が必要 | 既存LNGインフラを活用可能 |
| 需要家設備の更新が必要になりやすい | 既存ガス機器との親和性が高い |
| 輸送・貯蔵方法の再構築が必要 | LNG物流網を利用できる |
| 大規模な社会改造が必要 | 燃料の置換で対応しやすい |
Live Oakプロジェクトの概要
| 項目 | 計画内容 |
|---|---|
| 建設地 | 米国ネブラスカ州ノーフォーク |
| 参画企業 | TotalEnergies、TES、大阪ガス、東邦ガス、伊藤忠商事 |
| 権益比率 | TotalEnergies 33.35%、TES 33.35%、日本3社計33.3% |
| 水電解設備 | 約250MW(25万kW) |
| e-メタン生産量 | 年間約7.5万トン |
| 水素 | 再エネ電力による水電解 |
| CO₂ | バイオエタノール工場由来のバイオCO₂ |
| FEED | 2026年8月開始 |
| FEED担当 | KBR、Técnicas Reunidas |
| 次工程 | 2027年度FEED完了・EPC開始を目標 |
| 商業運転 | 2030年度中を目標 |
| 主な供給先 | 日本 |
| 主な引取先 | 大阪ガス、東邦ガスを想定 |
年7.5万トンは「約43万世帯分」

Live Oakの年間7.5万トンは、概算で都市ガス約1億m³/年に相当します。
| 比較 | 規模 |
|---|---|
| Live Oak生産量 | 7.5万トン/年 |
| 都市ガス換算 | 約1億m³/年 |
| 一般家庭換算 | 約43万戸分 |
| 大阪ガス2030年度目標 | 6,000万m³/年 |
| Live Oakとの比較 | 約1.7倍 |
| LNG換算 | 約17万m³ |
| 大型LNG船換算 | ほぼ1隻分/年 |
一方、日本全体のLNG輸入量と比べればまだ小規模です。
つまりLive Oakは、e-メタン事業としては巨大ですが、ガス市場全体の脱炭素化ではまだ第一歩という位置付けです。
250MWとは「25万kWを使って水素をつくる」規模
250MW=25万kWです。これは100万kW級の大型発電所の約4分の1に相当しますが、Live Oakは発電する側ではありません。
最大25万kW級の電力を消費して、水を分解し、グリーン水素をつくる設備です。
仮に250MWで24時間365日稼働すれば、単純計算で年間約21.9億kWhを消費します。実際の稼働率は再エネ調達などで変動しますが、e-メタンの大量生産には膨大な再生可能電力が必要です。
なぜネブラスカなのか

理由は、再エネとCO₂の両方を確保しやすいからです。
米中西部は風力発電などの開発余地が大きい一方、トウモロコシ由来のバイオエタノール産業も集積しています。
Live Oakでは、
| 必要な資源 | ネブラスカの強み |
|---|---|
| 再エネ電力 | 風力などの開発余地が大きい |
| CO₂ | バイオエタノール工場から回収可能 |
| 輸送 | 米国の天然ガス・LNGインフラを利用可能 |
見方を変えれば、**「米国の再生可能エネルギーをメタンという運べる分子に変え、日本へ輸入する」**仕組みです。
電気そのものを太平洋越しに運ぶことはできません。しかしメタンに変換すれば、世界中に整備されたLNG物流網へ載せられます。
1GW構想から250MWへ、商業化可能な第1フェーズに
Live Oakの原型となった2023年構想は、現在よりさらに巨大でした。| 時点 | 水電解設備 | e-NG生産量 |
|---|---|---|
| 2023年構想 | 1GW | 年10万~20万トン |
| 現在の第1フェーズ | 250MW | 年7.5万トン |
FEED開始、「夢の構想」から投資判断へ
今回の最大のポイントは、基本設計(FEED)が始まったことです。FEEDでは、製造プロセス、主要設備、配置、建設費、工程などを詰め、実際に巨額投資へ踏み切れる事業なのかを判断します。
Live Oakでは、米KBRとスペインのTécnicas Reunidasが並行して基本設計を実施し、2案から最終案を選定します。
2027年度中のFEED完了とEPC(設計・調達・建設)開始を目標とし、2025年12月時点では同年度中のFID(最終投資意思決定)も想定されています。
つまり、現時点で建設が正式決定したわけではありません。
今後の焦点は、年間7.5万トンをいくらで製造し、日本までいくらで運べるのかです。
弱点は「効率」と「コスト」
e-メタンは万能燃料ではありません。| 強み | 課題 |
|---|---|
| 既存LNG・都市ガスインフラを活用可能 | 天然ガスより高コスト |
| 電化困難な産業熱に対応可能 | 変換ロスが大きい |
| 海外再エネを「分子」として輸入可能 | 大量の再エネ電力が必要 |
| 既存ガス設備を維持しやすい | CO₂回収源やメタン漏洩管理も重要 |
したがって、電化できる分野は電化し、それでもガスが必要な領域をe-メタンで脱炭素化するという使い分けが現実的です。
「2030年1%」から始まる都市ガスの脱炭素化

日本政府は2030年度に、都市ガス供給量の1%相当を合成メタンまたはバイオガスとして導入する方針を掲げています。大阪ガスも同年度にe-メタン等をガス販売量の約1%導入する目標を設定しています。
1%だけを見ると小さく見えます。
しかし、全国に張り巡らされた都市ガス網の中身を、化石由来天然ガスから脱炭素型燃料へ置き換える最初の商業フェーズと考えれば意味は大きいでしょう。
Live Oakが2030年度に稼働すれば、年間約43万世帯分、大型LNG船ほぼ1隻分のe-メタンを米国でつくり、既存LNG網に載せて日本へ運ぶ仕組みが現実になります。
日本が何十年もかけて築いてきたLNG基地や都市ガス導管を捨てず、流れる燃料だけを少しずつ変えていく。
e-メタンの最大の価値は、「今ある都市を大きく造り替えずに脱炭素化できる可能性」にあります。
Live Oakは、そのモデルが商業ベースで本当に成立するのかを試す、大阪ガスの2030年代を左右する重要プロジェクトです。
出典
・大阪ガス「米国ネブラスカ州におけるe-メタン製造事業(Live Oakプロジェクト)の基本設計(FEED)開始について」(2026年8月28日)・大阪ガスほか「Live Oakプロジェクトの基本設計(FEED)実施に向けた共同開発契約の締結について」(2025年12月2日)
・TotalEnergies「TotalEnergies, TES, Osaka Gas, Toho Gas and ITOCHU Partner Up to Develop the Live Oak Project」(2025年12月2日)
・TotalEnergies「United States: TotalEnergies and TES Join Forces to Develop a Large-Scale e-NG Production Unit」(2023年5月31日)
・資源エネルギー庁「合成メタン等調達費の承認申請について」
Visited 86 times, 86 visit(s) today
