政府は2023年3月31日に、新たな「観光立国推進基本計画」を閣議決定し、持続可能な形での観光立国の復活に向けた観光政策を推進すると発表しました。 計画年度は2023~2025年度で6年ぶりの改訂となります。
今回の観光ビジョンは、2025年の大阪・関西万博に向けて(1)持続可能な観光(2)消費額拡大(3)地方誘客促進 の3つのキーワードを掲げて観光政策を推進。ポイントは、持続可能な形での観光立国の復活に向け、質の向上を重視する観点から人数に依存しない指標を中心に設定された事です。
観光産業は、少子高齢化により国内市場の縮小が避けられない状況の中、コロナ禍を経ても、なお成長戦略の柱、地域活性化の切り札であり、国際相互理解・国際平和にも重要な役割であると定義。「持続可能な観光地域づくり戦略」「インバウンド回復戦略」「国内交流拡大戦略」の三つの戦略を総合的かつ強力に推進する方針が打ち出されました。
【出展元】
→観光庁>「観光立国推進基本計画」を閣議決定
(1) 持続可能な観光地域づくり戦略
2025年までに「日本版持続可能な観光ガイドライン」に沿った取り組みを行う地域数を、現在の12地域(うち国際認証・表彰地域6地域)から100地域(うち国際認証・表彰地域 50地域)に拡大します。宿泊施設のリノベーション支援、観光DX、高付加価値な旅行商品の造成など観光産業の革新、観光人材の育成・確保、DMOを司令塔とした観光地域づくりなどを推進などに取り組み、観光振興が生む地域社会・経済の好循環実現を目指します。
(2) インバウンド回復(消費額拡大)
「インバウンド回復戦略」では、インバウンド旅行消費額5兆円(2019年実績4.8兆円)の早期達成、訪日外国人旅行者数の3188万人(2019年実績)超え、訪日外国人の旅行消費額単価2019年比25%増の20万円/人、1人当たりの地方部宿泊数については同10%増の1.5泊にする目標をそれぞれ設定。インバウンドの回復に向けた集中的取り組みや受け入れ環境の整備に加え、消費拡大効果、地方誘客に効果の高いコンテンツの整備とともに高付加価値旅行者の誘致を促進するほか、MICE・IRの推進、戦略的な訪日プロモーションにも力を入れます。
数値目標については、インバウンド旅行消費額:早期に5兆円(2019年:4.8兆円)、消費額単価:2025年までに20万円(2019年:15.9万円)、一人当たり地方部宿泊数:2025年までに2泊(2019年:1.4泊)、旅行者数:2025年までに2019年水準超え(2019年:3,188万人)アウトバンド(日本人海外旅行者数)については、 2025年までに2019年水準超え(2019年:2,008万人)を目指します。さらに、アジア主要国における国際会議の開催件数に占める割合について、2025年までにアジア最大の開催国(3割以上)(2019年:アジア2位(30.1%)) の目標が掲げられました。
(3) 国内交流拡大戦略(地方誘客促進)
「 国内交流拡大戦略」では、旅行実施率の向上、滞在長期化、旅行需要の平準化に取り組むとともに、関係人口の拡大につながる新たな交流需要を開拓。2025年度までの目標では、日本人の地方部延べ宿泊者数を3.2億人泊(2019年実績 3.0億人泊)、国内旅行消費額22兆円(2019年実績21.9兆円)を達成することも掲げています。
観光は今後も『成長戦略の柱』
2019年の国内の旅行・観光消費は、生産波及効果が55.8兆円、雇用誘発効果は456万人で、観光産業は裾野が極めて広く、我が国の基幹産業へと成長するポテンシャルを有する総合産業といえます。また、観光産業の付加価値を示す観光GDPは、同年において国内GDPの約2%となっており、今後は観光産業の付加価値を更に高め「稼げる」産業へと変革を進めていく必要があります。
一方、コロナ禍を経た旅行需要の変化に目を転じると、世界の旅行者の約71%がサステナブルな旅行に関心があるとのデータがあり、世界的に「持続可能な観光」への関心が高まっています。自然・アクティビティに対する需要も高まりを見せ、世界のアドベンチャーツーリズム市場は、2018年の62兆円から2026年には173兆円まで大きく成長するとの予測もあります。
前回の観光ビジョンで定めた2020年目標については、2019年時点で、訪日外国人旅行者の人数は約8割に達しましたが、旅行消費額と地方部宿泊数については約6割にとどまりました。旅行者の一人当たり消費額単価は伸び悩み、高付加価値旅行者(着地消費100万円以上の旅行者)の獲得シェアが低い状況となっています。インバウンド旅行者の8割が、訪問先上位10都道府県に集中し、一部観光地では、観光旅行者による混雑、マナー違反等、住民との課題も生じていました。このように、インバウンド旅行者が増加する一方で、取組の質的強化が必要な課題が浮き彫りになりました。
今回策定された計画は、一部の観光地にインバウンドが集中し軋轢を生んでいた事や、高付加価値旅行者(着地消費100万円以上の旅行者)の獲得シェアが低いなど、前回の観光ビジョンで定めた数値目標に対する、結果から浮かび上がってきた問題点と課題に対応する内容となっています。
今後、少子高齢化が進み、消費人口が減少し内需縮小が避けられ状況下において、観光産業のの拡大は地域の活力の維持・発展に不可欠です。幸い日本には、国内外の観光旅行者を魅了する素晴らしい「自然、気候、文化、食」が揃っており、ポストコロナにおいても、観光を通じた国内外との交流人口の拡大の重要性に変わりはなく、観光は今後とも成長戦略の柱、地域活性化の切り札になり得ます。
2025年は、「大阪・関西万博」をはじめ観光の起爆剤となるイベントが多数開催され、日本が世界の脚光を浴びる絶好のチャンスとなる年となります。製造業など他の産業に比べると一段低く見られがちな観光産業ですが、世界的に見ると自動車産業を凌ぐ規模で、かつ今後も成長が見込める貴重な分野です。今後は、日本が有している魅力を武器にして、観光産業が、日本の成長産業の1つとして確立する様な取り組みを期待したいと思いました。