2025年5月、大阪市は長らく事業休止状態にあった「JR片町線・東西線連続立体交差事業(京橋地区)」の再始動を発表しました。対象区間は都島区片町2丁目から城東区新喜多2丁目に至る約1,300m。計画は別線地下化方式により、現在線の機能を維持したまま、地下に新たな鉄道線を整備するというものです。整備後はJR京橋駅の学研都市線・東西線のホームが北側(京阪側)に移設され、北口改札からのアクセス動線が劇的に改善される構造となります。
本記事では、この大型インフラ再編がもたらす都市機能の刷新、交通ネットワークの再構築、そして将来的な土地利用転換へのインパクトを、情報密度高く解説していきます。
なぜ今、地下化なのか?──「都市分断」の解消という本質的目的
この連続立体交差事業の根幹にあるのは、「踏切による都市の分断を解消し、まちの回遊性と利便性を再構築する」という都市政策上の目的です。
京橋~鴫野間に位置する3箇所の踏切(新喜多踏切・馬の口踏切・鯰江踏切)は、いずれも長時間の遮断や歩行者ボトルネックとなっており、市民生活や車両交通の大きな妨げとなってきました。特に鯰江踏切に至ってはピーク時に最大45分/時の遮断時間が生じ、いわゆる「開かずの踏切」として深刻な課題を抱えていました。
この計画では、それら3箇所の踏切すべてを除却し、鉄道は市道片町茨田線地下に新設される別線に切り替えられます。この「別線地下化」方式の採用により、鉄道運行を維持したまま工事を進めることが可能となり、工期短縮とコスト圧縮を両立しています。
地下2層構造へ──勾配見直しで駅機能を刷新

京橋駅の構造にも大きな変更が加えられます。当初は地下1層構造を予定していましたが、市道片町茨田線の勾配見直しにより、鉄道駅部は地下2層構造(B2F:下り線ホーム/B1F:上り線ホーム)へと改められました。これにより、JR東西線・学研都市線の地下ホームは、現行の北口改札(1F)からわずか2回の上下移動でアクセスできるようになります。
これまでのような煩雑な動線が解消され、「B2F→B1F→1F」という直線的かつ明快なアクセスへと転換されることで、移動時間の短縮とバリアフリー対応が大きく前進します。
また、ホーム部には近年の標準設計に準拠し、転落防止のためのホーム柵も設置される予定です。これは国土交通省が定める乗降客数10万人以上の駅に対する基準に基づいたものです。
総事業費は1,031億円、費用便益比は1.30
再評価資料によれば、今回の事業にかかる総費用は約1,031億円。2014年の前回評価時の650億円から実に381億円の増額となりました。
この主な要因は以下のとおりです:
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設計変更(駅構造の2層化、ホーム柵対応など):+79億円
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資材・人件費の高騰:+212億円
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汚染土や地中障害物などの撤去リスク対応:+90億円
一方で、費用便益比(B/C比)は1.30、その他便益(快適性や乗換短縮など)を含めると1.45とされており、一定の経済合理性は確保されています。とりわけ、歩行者移動時間の短縮(+66.7億円)や、騒音改善、災害時の避難経路確保といった効果は、数字以上の市民利益をもたらすと評価されています。
都市計画との整合性──「大阪城公園周辺地域まちづくり方針」に明記
本事業は2025年5月に策定された「大阪城公園周辺地域まちづくり方針」において、「京橋駅周辺の国際拠点化に向けた基盤整備」として明示されました。これにより、再開に向けた政治的・計画的正当性が整い、有識者会議でも「妥当」とする評価が下されたのです。
また、京橋駅周辺は2017年から「都市再生緊急整備地域」に指定されており、民間による再開発の動きも加速しています。鉄道地下化により、現在線の地上用地が解放されれば、駅前広場や交通ターミナル、歩行者デッキの整備、さらには駅ビル再開発など、周辺の都市空間は抜本的に再構成されることになるでしょう。
今後のスケジュール──約30年計画の長期整備へ
本事業は以下のスケジュールで進められる予定です:
年度 | 内容 |
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2026年度 | 都市計画決定・事業認可 |
2031年度 | 用地取得開始 |
2033年度 | 工事着手 |
2053年度 | 事業完了(供用開始) |
約30年にわたる長期プロジェクトではありますが、都市の未来を見据えたインフラ整備としてはむしろ標準的なスパンとも言えます。
総括:京橋が目指す「ハブ」の再定義
今回のJR片町線・東西線の地下化再始動は、単なる鉄道工事ではなく、京橋駅周辺の都市構造そのものを再構築する大規模な「ハブ再編成プロジェクト」です。交通結節機能の強化、都市分断の解消、土地利用の高度化、防災性の向上──それらを実現する中核に、地下に移設されるわずか1,300mの鉄道が据えられるのです。
大阪の東の玄関口として、京橋が再び「都市をつなぐ回路」として躍動する日が、静かに近づいています。
出典・参考資料
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大阪市「建設事業再評価調書(JR片町線・東西線連続立体交差事業)」
https://www.city.osaka.lg.jp/shiseikaikakushitsu/cmsfiles/contents/0000294/294837/01-1_tyosyo.pdf -
建設ニュース「大阪市/JR片町線・東西線連立を別線地下化で事業再開、総事業費1031億円見込む(2025年5月15日)」
https://www.decn.co.jp/?p=173797 -
建設通信新聞「『妥当』評価で成案化へ前進/26年度当初の再開目指す/JR片町線・東西線連続立体交差(2025年5月15日)」
https://www.kensetsunews.com/archives/1077676 -
大阪市都市整備局「大阪城公園周辺地域 まちづくり方針(案)」
https://www.city.osaka.lg.jp/templates/jorei_boshu/cmsfiles/contents/0000648/648393/01_osakazyoukouenmatidukurihuosinnan.pdf
ひゃー!
こういったビックプロジェクトは将来を託す夢があってイイですね!