JR東日本は2025年6月10日、2027年春に新たな夜行観光列車を導入すると発表しました。常磐線特急「ひたち」などに使用されているE657系の電車をベースに改造し、全車両をグリーン車の個室とする構成です。定期運行は行わず、地域イベントや観光需要に応じて運行が計画されます。
特急型電車を改造した「夜行観光列車」
今回導入される車両は、交直流の特急型電車であるE657系を全面改造し、夜行運行に特化した観光列車として再生するものです。従来の「寝台列車」とは異なり、寝台設備ではなく全席がグリーン車等級の個室仕様となっており、あくまで特急電車をベースにした夜行型の観光列車です。
編成は10両で、定員は約120人。個室の構成は1人から4人までの複数タイプが用意され、1号車と10号車には1～2人用の「プレミアムグリーン個室」が設置されます。これらの個室にはL字型のソファーが備えられ、座面の配置を変更することでフルフラットにでき、夜間の長距離移動でも快適に過ごせる設計です。
中央の5号車には共用ラウンジが設けられ、軽食や飲料の自動販売機が設置される予定です。
外観は「ブルートレイン」を想起させる青系塗装
車両の外観デザインには、かつて全国を走った青い寝台列車「ブルートレイン」をイメージした2種類の青色が使われます。特に先頭車両には明るい青を配し、ブルートレインの記憶を現代に継承する意匠とされています。
ただし、今回の列車は寝台設備を備えた寝台列車ではなく、あくまで夜行運転を前提とした個室特急車両である点は明確に区別されます。
運行は観光需要に応じた不定期スタイル
運行ルートやダイヤは現時点で未定ですが、JR東は旅程の一例として、東京都内の山手線内駅を午後9時ごろ出発し、翌朝9時ごろに青森駅へ到着する約12時間の夜行運行を想定しています。ゆっくりとしたスピードで走行することで、夜間の時間を心地よく過ごし、朝の東北地方の車窓風景を楽しめる構成です。
運行は1編成のみのため、定期運行は行わず、観光需要や季節イベント、地域との連携に応じて柔軟に運行されます。団体貸切や旅行商品との連動も想定されており、一般販売分も含めて時期ごとに運転計画が発表される見込みです。
価格帯は新幹線グリーン車～グランクラス相当を想定
座席料金は未定ながら、JR東はプレミアムグリーン個室を「新幹線のグランクラス」、通常のグリーン個室を「グリーン車」よりやや高めに設定する方針を示しています。夜間に宿泊を伴う移動を含むことから、鉄道とホテルの中間のような付加価値を提供する価格帯になるとみられます。
カシオペア終了後の新たな提案──夜行列車文化を“再編集”
本列車は、長年にわたり人気を博した寝台特急「カシオペア」が2025年6月をもって寝台列車としての役割を終える中で、JR東日本が打ち出す次なる“夜行のかたち”でもあります。カシオペアは設備の老朽化により運行終了が決まりましたが、夜行での鉄道旅への需要自体は一定数存在し、その需要に現代的な車両で応える新提案と位置付けられます。
本計画は、JR東日本の経営ビジョン「変革2027」に掲げる「移動を楽しく、快適・便利に」の実現に向けた取り組みの一環です。同社は「非日常の夜行体験を通じて、鉄道で旅をするワクワク感を思い出してもらいたい」とコメントしています。
今後は、地域の自治体や観光事業者との連携を深めながら、運行エリアや観光資源との接続を調整し、訪日外国人を含む広範な観光需要の獲得を目指していく構えです。
出典：
・東日本旅客鉄道株式会社「新たな夜行特急列車を導入します」（2025年6月10日）
・朝日新聞デジタル（2025年6月10日）
・日経電子版（2025年6月10日）
