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JR西日本273系・近鉄8A系・福岡4000系──ブルーリボン賞・ローレル賞が認めた“走る都市デザイン”


「ブルーリボン賞」「ローレル賞」は、鉄道友の会(1953年創立)が毎年選定する顕彰制度で、前年中に営業運転を開始した国内の新造・改造車両を対象に、会員投票と選考委員会の審議により選ばれます。ブルーリボン賞は主に特急型や観光列車などの“話題性・先進性”を重視した車両、ローレル賞は通勤型や地方私鉄などの“地道な進化や独自性”を評価する傾向があります。

2025年、JR西日本の273系、近鉄の8A系、福岡市交の4000系がそれぞれブルーリボン賞・ローレル賞を受賞しました。とりわけ、273系と8A系は同一デザイン会社イチバンセンによって設計され、異なる賞を同時受賞するという快挙を達成しました。これは日本の鉄道デザイン史上でも極めて稀な出来事であり、注目を集めています。

本稿では、3形式それぞれの特徴と背景を整理しながら、そこに通底する「次世代の公共交通としての在り方」を読み解いていきます。

ブルーリボン賞:JR西日本 273系──文化継承と高速性能の融合


出典:JR西日本

273系は、381系の後継として「特急やくも」に導入。振子機構により山岳地帯を120km/hで走破、岡山〜出雲間を約3時間で結びます。

「やくもブロンズ」を基調に出雲神話・製鉄文化の意匠を取り入れ、内装は温かみある木目調と伝統文様を使用。社員とデザイナーの協働によるデザインで、主要駅ラウンジや沿線ブランディングも一体化。

車体はアルミダブルスキン、全車両に1,040mmシートピッチ、セミコンパートメントや多目的スペースも備え、快適性と普遍性を両立しています。

 ローレル賞:近鉄 8A系──柔軟性・景観調和・次世代標準



2024年10月より奈良・京都線などで運行を開始した近鉄8A系は、24年ぶりの新系列一般形。アルミ車体・2,800mm幅・八角形前頭部を持ち、都市景観に配慮した赤白の新ツートンカラーを採用。

「日常の華やかさ」をコンセプトに、お年寄りや子育て世帯、大型荷物利用者にも配慮した「やさしば」や可変式L/Cシートを採用。ワークショップ形式で利用者の声を反映し、機能性と快適性を両立。

制御はハイブリッドSiCインバータを採用し、異形式車両との併結にも柔軟に対応。近鉄結崎駅や駅前公園と連携し、沿線全体の生活空間に貢献する設計となっています。

ローレル賞:福岡市交 4000系──省エネ・静音・ユニバーサル設計


出展:福岡市地下鉄

空港線・箱崎線の更新用として導入された4000系は、「一人ひとりにやさしい移動空間」をテーマに開発。アルミ構体、座席幅480mm、視認性の高い荷棚、フリースペースなどユニバーサル設計を徹底。同期リラクタンスモータを本格採用。3画面表示器やカメラ連動の案内システムで安全性も強化。

共通する設計思想──制度・地域・環境と調和した設計哲学


1. 法制度への応答:

3形式すべてがバリアフリー法やカーボンニュートラル目標を反映。制度を先取りする公共交通のモデル。

2. 都市との融合:

車両デザインが都市景観や地域文化と連動。車両が“街の顔”として機能。

3. 情報化の高度化:

大画面案内、センサー、監視カメラを通じ、災害・混雑対応、情報提供のハブとして進化。

4. エネルギー効率の革新:

SiCインバータ、非磁石モータ等の採用で、省エネ・資源対応を実現。

総括:移動手段を超えた“地域資産”としての鉄道車両


近鉄8A系と福岡市4000系は、制度適応・標準化・運用コストのバランスを高度に両立。273系は特急車として、地域文化を象徴するデザインと乗客体験を融合。すべての形式が、制度、都市、情報、環境という社会要請に応答しながら、次世代の「公共インフラの質」を提示しています。

鉄道車両は、移動の効率性を高めるだけでなく、地域の文化・景観・生活スタイルを反映し、人々の暮らしと都市を有機的につなぐ“社会インフラの要”として再定義されつつあります。




【出典元】
  • 鉄道友の会「2025年ブルーリボン賞・ローレル賞」発表
  • 近畿日本鉄道 公式リリース
  • 福岡市交通局 公式リリース
  • JR西日本 公式リリース
  • 鉄道ファン
  • 鉄道ニュース
  • FNNプライムオンライン
  • レイルラボ(2024~2025年)

1 COMMENT

アリー my dear

近鉄沿線住まいですが、この8A系はよく見かけるようになり乗車する機会も増えました。
なんというか、個人には車体デザインも内装も飽きがこない秀逸な電車だと思ってます。

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