大阪・中之島エリアに位置する堂島関電ビルが、築53年を経て大規模リニューアルを完了しました。関電不動産開発と積水化学工業が共同で手がけた今回のプロジェクトは、老朽化への対処という従来型の改修を超えて、「環境配慮」「職場改革」「技術発信」を重ね合わせた先進的な取り組みとして注目されています。
1972年に竣工した同ビルは、延床面積25,769.87㎡、地上12階・地下2階の構造を持ち、積水化学の大阪本社としても機能しています。今回のリニューアルでは、テナントが稼働を続けながら既存の構造体を活用することで、建替えと比較して施工時のCO₂排出量を約50%削減。さらに、オール電化と再生可能エネルギー由来の電力を導入し、ゼロカーボンを達成しました。
出展:関電不動産開発
環境性能だけでなく、職場としての快適性・多様性への配慮も進化しています。1階にはバリアフリーのサブエントランスを新設。11階にはコワーキングスペースを整備し、誰もが利用しやすいオールジェンダートイレも設けました。多様な働き方や価値観に対応する設計思想が随所に盛り込まれています。
その結果、同ビルは築30年以上のテナントビルとして国内初となる「CASBEEスマートウェルネスオフィス認証」最高位Sランクを取得。環境性能に加え、従業員の健康性や生産性といった側面でも高い評価を得ています。

出展:関電不動産開発
外装は、「積水」の語源でもある“水”をモチーフとし、水都・大阪の文脈に呼応するデザインへと一新されました。企業の理念と都市のイメージが重なり合い、シンボリックなファサードとして生まれ変わっています。
さらに注目すべきは、リニューアルにあわせて積水化学グループの製品が20品目以上導入されている点です。耐火材「フィブロック」や防犯性に優れた中間膜「S-LEC」、可変性を高める「セキスイOAフロア」などが採用され、ビル全体が“実用空間としてのショールーム”となっています。
出展:関電不動産開発
中でも象徴的なのが、外壁に国内で初めて実装された「フィルム型ペロブスカイト太陽電池」です。この軽量・柔軟な次世代太陽電池は、11階の電力供給および非常用電源として活用されており、積水化学が進める技術の実証フィールドとしても機能しています。同社は2024年に日本政策投資銀行と新会社を設立し、2027年には年10万kW、2030年には100万kWの生産体制構築を目指しています。
環境負荷の削減、働き方のアップデート、そして自社技術のリアルな発信。この3つを同時に実現した堂島関電ビルは、老朽ストックの再生における新たな方向性を示しています。建物の価値を、単なる箱から“社会に対するメッセージ”へと引き上げたこの取り組みは、巨大都市・大阪における持続可能なまちづくりの一つの解答といえるでしょう。
2025年6月の様子
現地の様子です。前回の取材が2025年3月だったので、約3ヶ月振りの撮影です。
南側から見た様子です。外装は、「積水」の語源でもある“水”をモチーフとし、水都・大阪の文脈に呼応するデザインへと一新されました。
公開敷地の様子です。以前は「閉じられた」印象ですが、リニューアルにより「開かれた」印象に変わりました。
50年以上前に計画されたビルのため、敷地に大きなゆとりがあります。最近、再開発されたビルと比較すると容積率にも余裕があり、同様の規制緩和が実現すれば、将来的に大規模な超高層ビルの建設も可能と考えられます。リニューアルされたばかりですが、将来の建て替えにも期待が高まります。
西側からの様子です。すっかり現代的なデザインに生まれ変わりました。
北西側から見た様子です。
北東側から見た様子です。
最後は南東側から見た様子です。
これまでの様子
これはこれで、ありだなと思いましたね。