(一財)森記念財団・都市戦略研究所は2025年9月2日、「日本の都市特性評価(JPC)2025」の結果を公表しました。全国136都市と東京23区を対象にした調査で、大阪市が5年連続で総合1位となりました。大阪・関西万博を契機とした都市再開発や観光交流力の向上が、都市力を押し上げる結果となっています。
大阪市が5年連続首位 都市特性評価2025の結果とは?
都市特性評価は「経済・ビジネス」「研究・開発」「文化・交流」「生活・居住」「環境」「交通・アクセス」の6分野87指標を統計とアンケート調査でスコア化するもので、2018年から毎年実施されています。
大阪市は今回、経済・ビジネスや交通・アクセス、文化・交流の分野で高い評価を獲得し、総合順位で首位を守りました。一方で環境分野や生活・居住分野では厳しい評価を受けており、強みと弱みが鮮明に表れています。
経済・交通・文化で突出する大阪の都市力
大阪市の総合1位を支えるのは、経済、交通、文化の3分野です。
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経済・ビジネスでは、労働生産性が全国2位、新規法人登記が3位と高い活力を示しました。
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交通・アクセスでは、JR大阪駅北側の「うめきた」2期開発や中之島・難波エリアの再開発効果が数値に反映され、利便性で首位となりました。
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文化・交流では、観光客誘致活動の指標が前年37位から20位に改善。豊富な観光資源や文化財の存在と相まってスコアを引き上げました。
これらの分野での突出した強みが、大阪市の評価を押し上げています。
万博を契機に進む再開発と国際交流力の向上
大阪・関西万博は2025年の開幕を控え、都市の姿を大きく変えています。
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万博関連のホテル建設やオフィス供給が加速し、観光・ビジネスの両面で都市力が強化。
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インフラ整備の進展により、鉄道や道路の利便性がさらに高まりました。
市川宏雄・明治大学名誉教授(同財団業務理事)は「国際イベントは都市力を底上げする。大阪は万博を追い風に強みを発揮している」と述べています。
環境分野は最下位クラス 都市型の暮らしが数字で不利に
大阪市は環境分野で最下位クラスという厳しい評価を受けました。
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ヒートアイランド現象による夏季の熱帯夜の多さ。
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都心部の緑被率の低さ。
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大気汚染指標の相対的な弱さ。
これらがマイナス要因となり、快適性を数値化した際に大きく不利になりました。実際の生活では交通や文化の利便性を「快適」と感じる市民も多いものの、指標上は自然環境を重視しているため評価が低くなっています。
生活・居住は47位 「広さ重視」の指標が招く評価のギャップ
生活・居住分野では、大阪市は47位にとどまりました。
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指標は住宅の広さや持ち家率、空き家率、生活コストなどを中心に構成。
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マンション比率が高く、都市型コンパクト居住が一般的な大阪は不利になります。
一方で、都市生活の実感としては「交通アクセスの良さ」「買い物や医療の近さ」などが快適さを支えており、数字の印象と市民の実感にはズレがあります。
名古屋は生活・居住で1位、研究開発も強み
名古屋市は2年連続で2位を維持しました。
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生活・居住分野で全国1位。住宅の広さや持ち家率の高さが評価されています。
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研究・開発分野でも全国首位であり、大学集積や産業技術研究に強みを持っています。
福岡が3位に躍進、横浜・京都は順位を落とす
福岡市は前年の5位から3位に浮上しました。空港の滑走路増設や中心部での再開発が評価され、経済分野で大阪に次ぐ2位を獲得しました。
横浜市は前年3位から4位に後退。景観まちづくりや自治体SNSで高評価を得る一方、住宅面積や電子自治体化で課題が浮き彫りとなりました。
京都市は文化・交流分野でトップを維持し、研究・開発でも2位でしたが、財政基盤の弱さが響き、順位は5位に下がりました。
東京23区は港区が連覇、都心3区が独占
東京23区は別集計で評価され、港区が2年連続で首位となりました。国際会議や展示会の開催件数、観光目的の訪問数が押し上げ要因です。2位は千代田区、3位は中央区で、都心3区が上位を占めました。
ランキングが示すのは「都市の姿」か「数字の姿」か
今回の調査は、都市の強みと弱みを統計データで可視化する試みとして価値があります。ただし、指標設計による偏りも少なくありません。
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大阪の研究集積は阪大や国循、けいはんな学研都市を含めれば国内随一ですが、市域単位の評価では反映されにくい。
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生活・居住は住宅の広さや持ち家率を重視する設計で、都市型生活の利便性が十分に評価されない。
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快適性は「夏の涼しさ」など自然環境を中心に測られるため、都市生活の便利さや楽しさが数値化されにくい。
ランキングは比較の目安としては有用ですが、都市の実感を完全に映すものではないという限界も併せ持っています。
大阪の挑戦 弱点を抱えても首位を守る都市力
大阪市が5年連続で首位となった事実は、万博を契機とする投資と都市力強化が数字として裏付けられたことを示しています。
環境や住居での評価は低くても、経済・文化・交通の強みが圧倒的に突出しているため、総合首位を譲りません。これは「弱点を抱えてなお首位」という都市の総合力の表れでもあります。
万博の波及効果をどのように次の時代につなげていくのか。大阪の都市力は今まさに試されようとしています。