592億円へ膨張する事業費
札幌市は9月8日、国際会議や展示会などを開催する「新MICE施設」の基本方針を発表しました。建設地は2027年2月末に閉館する札幌パークホテル跡地の北側で、開業は2033年度以降を目指します。
事業費は当初想定の約280億円から2019年には341億円に修正され、最新試算では592億円に拡大しました。内訳は建物整備費487億円、土地取得費105億円です。資材価格の高騰に加え、計画見直しによる仕様の充実が背景にあります。
施設規模と機能
新MICE施設は延床面積約38,400㎡で、札幌市が国際都市として必要とする会議機能を一通り備えます。
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メインホール:約2,000㎡(最大収容5,000人規模の国際会議対応)
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多目的ホール:約3,200㎡(展示会・イベント対応)
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会議室15室:約3,400㎡(大小合わせた会議対応)
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総合計:ホール・会議室で約8,600㎡
単館で3,000~5,000人規模の国際会議に対応可能。さらに周辺ホテルの会議室と連携することで、より大規模な会議や展示会を開催できる計画です
経済効果と収支見通し
札幌市の試算によると、新施設は次のような効果を生みます。
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経済波及効果:年間約492億円、10年間で約5,000億円
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開催件数:年間1,220件(学会26件、展示会56件、会議989件など)
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雇用効果:年間約3,200人分の雇用創出に相当
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運営収支:年間収入約10.6億円、支出約8.3億円で、約2.2億円の黒字
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ライフサイクル収支:耐用年数80年で約170億円のプラス。土地取得費や既存施設の減収を考慮しても約30億円の黒字
この数字から、市は単なる支出ではなく「稼ぐ公共施設」としての位置づけを明確にしています。
MICE整備の背景と必要性
既存施設の制約

札幌コンベンションセンターは稼働率が高く、利用希望を断らざるを得ない状況が続いています。バンケット機能の不足もあり、大規模な国際会議を受け入れるには機能が限定的です。
都市間競争

横浜(パシフィコ横浜)、福岡(マリンメッセ)、名古屋(ポートメッセなごや)など主要都市は大型MICE施設を整備済みで、札幌は観光資源の強さに比べ、国際会議の開催件数で劣後しています。
都市戦略との整合性

中島公園エリアは「高次機能交流拠点」として都市計画に位置づけられ、近年は外資系高級ホテルが次々と進出。2024年には「コートヤード・バイ・マリオット札幌」、同年秋には「インターコンチネンタル札幌」が開業予定です。Kitaraや豊平館といった文化施設と組み合わせることで、札幌らしいMICE活用が期待されています
ラピダスとの接点──産業基盤と都市基盤の両輪

千歳に建設が進む先端半導体工場「ラピダス」と新MICE施設は、北海道の産業転換を支える両輪と考えられます。
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国際人材の呼び込み:研究者や技術者を北海道に招くには、国際会議や展示会といった短期滞在の機会が重要です。MICEがその受け皿となります。
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知の交流拠点:千歳の製造拠点と札幌の会議拠点を結ぶことで、研究発表や産業連携の機会が増えます。
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都市ブランド形成:半導体関連学会や展示会を札幌で開催することにより、「北海道=先端技術都市」という評価を定着させることができます。
MICEが整備されなければ、国際会議や展示会は東京や横浜に流れ、北海道は「製造はあるが交流が不足する地域」とみなされる懸念もあります。
費用増大と市民理解
市議会では「生活が厳しい中で事業費が倍増することへの理解は得られにくい」との意見も出ています。一方で札幌市は、年間492億円の経済効果や黒字収支の見込みを示し、長期的には費用を上回る効果があると説明しています。
まとめ
札幌市のMICE戦略は、観光需要の平準化にとどまらず、国際会議を通じた産業振興、都市ブランド形成、そして北海道の産業構造転換に直結する取り組みです。592億円という規模は大きな負担ですが、整備を怠れば観光収益や税収、人材交流や研究機会、さらには「北海道が国際都市として選ばれる未来」そのものを失うリスクもあります。中島公園エリアの開発とラピダスの投資が重なり合うことで、札幌は「観光都市から国際都市へ」という新たな局面に移行しつつあります。
出典
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札幌市「新MICE施設整備基本方針 記者説明会資料」(2025年9月8日)
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STVニュース北海道「経済効果は年間約500億円 巨大会議で変わる中島公園周辺」(2025年9月8日配信)
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北海道新聞「札幌市のMICE施設、経済効果年492億円 31年度中に着工へ」(2025年9月8日)
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HBCニュース北海道「大規模なビジネスイベントを札幌へ MICE施設計画」(2025年9月8日)