徳島県立新ホールが基本設計へ 2度の「応募ゼロ」から18者競争、藍場浜に1,500席の「水辺の劇場」



徳島県が徳島市中心部の藍場浜公園西エリアで計画する新ホールが、本格的な設計段階に入りました。

県は2026年8月28日、石本建築事務所大阪オフィスと基本設計業務の委託契約を締結しました。契約額は2億4,497万円(税込)、履行期限は2027年3月19日。基本設計で施設仕様や工事費を詰め、その後、実施設計へ進む予定です。

今回のポイントは、設計者の決定だけではありません。2025年の事業者公募は2度とも参加表明ゼロ。県が設計と施工を切り離し、設計者を先行選定する方式へ転換すると、2026年の設計公募には18者が参加しました。

施工会社を同時に確保するリスクを設計者側から切り離したことで、参加の間口が広がったとみられます。

藍場浜公園西エリア・新ホール計画


項目 内容
建設地 徳島市藍場町2丁目・藍場浜公園西エリア
事業主体 徳島県
設計者 石本建築事務所 大阪オフィス
大ホール 約1,500席・2層客席
提案規模 地下1階・地上3階、延床約10,800㎡
主な施設 大ホール、リハーサル室、多目的スタジオ、活動室、交流空間
基本設計 2億4,497万円、2027年3月19日完了予定
主な提案 藍場浜コモンデッキ、広場、屋上立体公園、既存地下駐車場躯体の活用
提案工程 2028年5月頃着工、2031年2月頃完成
総事業費 未確定
※建物規模や工程は石本建築事務所の技術提案を含む内容で、今後の基本・実施設計や施工者選定で変更される可能性があります。

なぜ徳島に新ホールが必要なのか



徳島市立文化センターは耐震性の問題から2015年度に利用を停止しました。

その後、県都・徳島市では、1,000席以上の客席を持つ稼働中の公共文化ホールがない状態が続いています。藍場浜に隣接するあわぎんホールの大ホールは809席で、地域の発表会や講演会などには対応できる一方、大型舞台芸術を受け入れる本格的な劇場型施設には空白があります。

新ホールの狙いは、その不足を埋めるだけではありません。
課題 新ホールの機能 狙い・効果
大型舞台芸術の受け皿不足 約1,500席、広い舞台、オーケストラピット、搬入・楽屋機能 音楽、演劇、舞踊、伝統芸能などの開催機会拡大
良質な公演が大都市圏へ集中 興行に対応した舞台設備と運営体制 全国ツアーや大型公演を誘致できる開催地としての競争力向上
文化の担い手育成 リハーサル室、多目的スタジオ、活動室 練習・制作・発表・人材育成を一体化
あわぎんホールは809席 約1,500席の新ホールと2館連携 中小規模から大型催事まで幅広く対応
都心と水辺の回遊性 デッキ、広場、カフェ、屋上公園 日常的な滞在・交流を生み、街への波及を狙う
県は新ホールを単なる鑑賞施設ではなく、文化芸術の創造・発信、人材育成、県民の生きがい、県都のにぎわいを生む拠点と位置付けています。

つまり、必要なのは「1,500席」という客席数そのものではありません。舞台、楽屋、搬入、遮音、リハーサル、専門スタッフなどを含め、徳島で本格的な舞台芸術を成立させる文化インフラを取り戻すことが目的です。

旧文化センター跡地から藍場浜へ 30年以上続く計画


時期 主な動き
1993年度 音楽・芸術ホールの検討を本格化
2015年度 徳島市立文化センターが利用停止
2021年3月 旧文化センター跡地を中心とする基本計画を策定
2021~2023年 旧計画の基本・実施設計を実施
2023年5月 建設費高騰などを受け計画見直し
2023年11月 藍場浜公園西エリアへの建設地変更構想を表明
2025年4月 新ホール早期整備プランを策定
2025年7月 1回目の公募が参加表明ゼロで中止
2025年10月 条件を見直して再公募
2025年12月 2回目も参加表明ゼロで中止
2026年3月 設計者を先行選定する方式で公募
2026年6月 18者から5者を最終審査へ選定
2026年7月27日 石本建築事務所を優先交渉権者に選定
2026年8月28日 基本設計契約を締結
2027年3月19日 基本設計完了予定
2025年5月の1回目は、設計・施工・工事監理を一体化して事業者を募集しましたが、応募はゼロでした。

同年10月の再公募では、維持管理や施設運営も含め、民間のノウハウをより広く取り込む方式に条件を変更しましたが、再び参加者は現れませんでした。

事業者への聞き取りでは、施工会社を同時に確保する難しさ、工事費と実勢価格の乖離、人材不足などが課題として挙がりました。

そこで2026年、県は設計を先行させ、施工者選定を後段に分離。設計公募には18者が参加し、ようやく競争環境が成立しました。

石本案の核心は「ホールを街に開くこと」



石本建築事務所が掲げたコンセプトは、「水辺の劇場」です。

建物の2階レベルに設ける**「藍場浜コモンデッキ」**で、あわぎんホール、新ホール、藍場浜公園を結び、新町川の水辺と一体感のある都市空間をつくります。

公園との接点には広場やカフェ、情報発信機能を配置。屋上も緑化し、誰もが歩ける立体公園として開放します。

目指しているのは、公演の日だけ人が集まる閉じた文化施設ではありません。散歩、休憩、飲食といった日常利用まで取り込み、ホールを公園と街の一部として機能させる考え方です。

建物も約1,500席を2層客席にまとめ、地下1階・地上3階にコンパクト化。既存地下駐車場の躯体を可能な限り利用し、杭や土工事、構造体、外壁面積を抑えます。

審査では石本案が1,136.5点を獲得し、次点の949.3点を大きく上回りました。「文化ホールとしての機能充実」に加え、「工期短縮・コスト縮減」で高く評価されています。

工事費は154億円からさらに上振れ コスト対策が最大の焦点



新ホールの工事費は、まだ確定していません。
費用・試算 内容
2025年早期整備プラン 本体約142億円+関連工事約12億円=約154億円
算定基準 2024年4月時点の単価
2026年の県による単純試算 他県事例を当てはめると約200億円規模
石本案の建設時縮減効果 比較条件比で約16.09億円
60年間の縮減効果 建設・運用費合計で約54.66億円
最終事業費 基本設計以降に精査
約54.66億円は新ホールの事業費ではなく、既存地下躯体の活用や省エネルギー化などによる比較条件に対する削減効果です。

一方、2025年の約154億円は2024年4月時点の単価によるモデル試算で、その後も資材価格や労務費は上昇しています。県は2026年2月、他県の落札事例を単純に当てはめれば工事費が約200億円に達する可能性を示しており、基本設計では厳しいコスト調整が避けられません。

次の関門は「建てられる設計」にできるか

設計者は決まりましたが、施工者はまだ決まっていません。

県はその対策として、発注者側から設計、工事費、施工性、工程などを検証する**コンストラクション・マネジメント(CM)**を導入します。

重要なのは、美しい建築を設計することだけではありません。

音響や舞台機能を確保しながら、既存地下駐車場との取り合い、施工方法、工期、材料、設備仕様を精査し、建設会社が現実に応札できる価格まで設計を落とし込めるかが問われます。

さらに、完成後の成否は運営に左右されます。

魅力的な公演を継続的に誘致する専門人材、興行会社とのネットワーク、あわぎんホールとの役割分担、公演客を藍場浜公園や新町川、中心市街地へ導く仕掛けがなければ、ホールの集客力は街全体には波及しません。

文化インフラの復活を、都心再生につなげられるか



この事業で徳島県が目指しているのは、約1,500席の「箱」を完成させることではありません。

県都に不足する本格的な舞台芸術の受け皿を復活させ、その集客力を藍場浜公園、新町川、中心市街地へ広げることです。

旧文化センターの代替施設という発想から、水辺と文化施設を核に都市空間を再編するプロジェクトへ。新ホール計画の性格は大きく変わりました。

一方、最大のリスクも明確です。

文化ホールとして必要な機能を守りながら建設費を抑え、施工会社を確保できるか。そして完成後に、文化施設の集客を街の消費と滞在へ結び付けられるか。

2027年3月にまとまる基本設計は、「水辺の劇場」という構想を、実際に建設・運営できる事業へ落とし込めるかを判断する最初の大きな節目になります。




出典・参考資料

  • 徳島県「藍場浜公園西エリアにおける新ホール早期整備プラン」
  • 徳島県「藍場浜公園西エリアにおける新ホール整備について」
  • 徳島県「公募型プロポーザルの中止について(藍場浜公園西エリア・新ホール整備事業)」
  • 徳島県「【再公告】公募型プロポーザルの中止について(藍場浜公園西エリア・新ホール整備事業)」
  • 徳島県「藍場浜公園西エリア・新ホール整備事業基本・実施設計業務」
  • 徳島県「基本・実施設計業務公募型プロポーザル 二次審査結果・審議内容・全体総評」
  • 石本建築事務所大阪オフィス「藍場浜公園西エリア・新ホール整備事業 技術提案書」
  • 徳島県「藍場浜公園西エリア・新ホール整備事業 コンストラクション・マネジメント業務」
  • 徳島新聞「徳島県立新ホール」関連報道
  • 毎日新聞「徳島県立新ホール基本設計」関連報道
  • 建設通信新聞「徳島県新ホール設計」関連報道
  • 建通新聞「徳島県・藍場浜公園西エリア新ホール」関連報道

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