ヒルトン「2027年版グローバル・トレンド・レポート」を読む 大阪・京都に広がる「過ごし方で選ぶホテル」




ヒルトンは2026年9月、「2027年版グローバル・トレンド・レポート」を発表しました。

モーニング・コンサルト社と共同で、今後1年以内に旅行を予定する18歳以上の14,744人を世界14カ国で調査したもので、日本からも1,000人以上が参加しています。2027年の旅行計画、予約、現地での過ごし方を左右するとみられる5つのトレンドを整理しました。

これは旅行者向けの流行予測だけではありません。旅行者が何を求めているのかをホテル・旅行業界と共有し、どのような施設、サービス、ブランドを用意するのかを考える材料でもあります。

同時に、ヒルトン自身が実施した企業調査で、旅行者の変化を示しながら、ROKU KYOTOなど自社ホテルやサービスを具体例として紹介しています。市場調査とブランド戦略の両面から読むと、レポートの狙いが見えやすくなります。

核心は「完璧な旅」より、自分に合った旅




レポート全体を貫くテーマは「The Great Rebalance」です。

The Great Rebalanceとは、仕事と休息、計画と自由時間、冒険と回復。旅行中のさまざまな要素を、「理想的な旅行」の型に合わせるのではなく、自分に合う配分で組み合わせる動きです。ヒルトンは、旅行者が細部まで予定された「完璧な旅」から、より柔軟で個人的な満足につながる旅行へ移行していると説明しています。

日本の調査結果にも、その傾向が表れています。
テーマ 日本の回答 ホテルとの接点
自分らしい旅 60%が価値観や好みに基づいて旅行を計画 目的別のホテル・サービス
信頼できる情報 76%がホテルスタッフを信頼できる旅行情報源と回答 コンシェルジュ、地域情報
学び・成長 42%が旅行で新しい興味・関心を発見 文化・食・体験プログラム
ウェルネス 62%が休息に自然や新鮮な空気を重視 公園、自然、プール、スパ
マイクロトラベル 35%が短時間で多くを体験する旅行を好む 好立地、短時間の地域体験
日本人旅行者の86%は「2日未満」を短期旅行と捉えています。1泊2日程度の旅行が身近な日本では、滞在日数を延ばすこと以上に、限られた時間をどう使うかがホテル選びにも関係してきます。

ここで重要なのは、観光を減らしてホテルに滞在する人ばかりになる、という話ではありません。

街を歩きたい人、ホテルで休みたい人、食を楽しみたい人、地域文化に触れたい人。それぞれが旅行時間の配分を選びやすくなることが、今回のレポートの中心にあります。

大阪では「街」と「ホテル」の時間を組み替える

        

大阪でこの変化と重なるのが、梅田周辺に集積するヒルトン系ホテルです。

グラングリーン大阪には2024年にキャノピーbyヒルトン大阪梅田、2025年にはウォルドーフ・アストリア大阪が開業しました。さらに中之島のコンラッド大阪では、短時間で地域文化に触れる体験プログラムが提供されています。
ホテル 特徴 滞在イメージ
キャノピーbyヒルトン大阪梅田 308室。うめきた公園に隣接。レンタサイクルや飲食施設を備える 公園散策→梅田で買い物・食事→ホテルのバー
ウォルドーフ・アストリア大阪 252室。屋内プール、ウェルネス施設、レストラン、バーを備える 街歩き・買い物→午後はホテルでスパやプール
コンラッド大阪 「Conrad 1/3/5」で時間別の地域体験を提案 夕方から3時間、裏天満の飲食文化を体験
キャノピーbyヒルトン大阪梅田は、「街をローカルのように探索する」ことをブランドの特徴としており、大阪らしいデザインや飲食、キャノピーバイクなどを取り入れています。

一方、ウォルドーフ・アストリア大阪は50㎡以上の客室に加え、屋内プールやウェルネス施設を備えています。大阪駅周辺で買い物や食事を楽しんだ後、午後はホテルで過ごすという「半日は街、半日はホテル」の滞在とも相性があります。

この2ホテルは今回のレポートを受けて開発されたものではありません。ただ、都市公園、商業施設、飲食店、高級ホテルが徒歩圏に集まるグラングリーン大阪は、街とホテルの時間を自由に配分する旅行を組み立てやすい環境になっています。

コンラッド大阪は「3時間」を商品にする



今回のトレンドと直接重なる動きとして分かりやすいのが、コンラッドの「1/3/5」です。

ホテル周辺の体験を1時間、3時間、5時間という単位で提案するプログラムで、コンラッド大阪では、*時間で裏天満の飲食店を巡る「Izakaya Hopping Journey」を設定しています。

大阪全体を短時間で回るのではなく、使える3時間を一つの地域体験に充てる。これは「マイクロトラベル」をホテルの商品に落とし込んだ例でもあります。

従来の観光案内が「周辺に何があるか」を伝えるものだとすれば、こちらは「手元に3時間あるなら、どう使えるか」まで編集して提供するサービスです。旅行時間が短くなるほど、ホテルの立地だけでなく、時間の使い方を提案する機能にも価値が生まれます。

京都では「見る」から「過ごす」へ


京都では、ヒルトン自身が今回のレポートでROKU KYOTO, LXR Hotels & Resortsを具体例として取り上げています。

日本人旅行者の42%が旅行を通じて新しい興味や関心を発見したと回答した「成長につながる旅」では、和紙づくりや茶道などの体験を紹介。ウェルネスでは、天然温泉のサーマルプールや京都原産の北山杉を用いたアロマセラピーなど例に挙げています。

京都のヒルトン系ホテルを並べると、同じ都市でも提供する時間の違いが見えてきます。
ホテル 滞在の特徴 具体的な時間の使い方
ROKU KYOTO 自然、温泉、文化体験 寺社巡り+サーマルプール+茶道・和紙など
ヒルトン京都 京都中心部の都市滞在 錦市場・河原町・祇園+ホテルで休息
モットーbyヒルトン京都四条烏丸 2029年開業予定。108室のライフスタイルホテル 四条・烏丸を拠点に短期間で街を楽しむ
ROKU KYOTOでは、名所を巡るだけでなく、京都の自然や文化の中で時間を過ごすこと自体が宿泊体験になります。



対照的なのが、2024年に三条河原町エリアに開業した313室のヒルトン京都です。錦市場や祇園など中心市街地へのアクセスと、館内のプールやスパを組み合わせ、街歩きと休息を一つの滞在に取り込めます。

さらに2029年には、日本初の「モットーbyヒルトン京都四条烏丸」が開業予定です。108室、四条駅・烏丸駅から徒歩約2分という立地で、オールデイダイニングやオープンテラス付きラウンジも計画されています。ヒルトンは、同ブランドの世界の予約の半数以上を一人客が占めた実績と、日本で広がる柔軟な一人旅の需要を結び付けています。

同じ京都でも、自然の中で過ごす、文化を体験する、街を歩く、短時間で動くという複数の選択肢が生まれています。

ヒルトンが売ろうとしているのは「部屋」だけではない


ここまでの動きを事業戦略として見ると、今回のレポートの意味がより明確になります。

ヒルトンは現在、世界で28ブランド、9,400軒以上を展開し、日本では9ブランド・38軒を展開しています。ブランドが増える意味は、単純に価格帯を細分化することだけではありません。
旅行者の目的 対応するホテルの方向性
街を積極的に楽しみたい 都市型・ライフスタイルホテル
ホテルで休息したい ラグジュアリー、ウェルネス
地域文化に触れたい 体験型・デスティネーション型
短期間で楽しみたい 好立地+短時間の体験
一人の時間と交流を両立したい 柔軟な客室+共有空間
旅行者は毎回同じ旅をするわけではありません。今回は街歩き、次はリゾート、別の機会には家族旅行というように、目的は変化します。ヒルトンにとっては、異なる旅行目的を複数のブランドで受け止め、ヒルトン・オナーズという共通基盤でつなぐことができます。

今回のレポートは旅行者の意識調査であると同時に、ヒルトンの多ブランド戦略を説明する材料にもなっています。

今後は「ホテルが何軒増えたか」だけでは見えにくくなる



今後のホテル開発では、客室数や価格帯、高級ブランドの進出だけでは、施設の性格を捉えにくくなりそうです。ヒルトンのレポートから見える方向を整理すると、次のようになります。
方向 ホテルで起きる変化
泊まる目的の明確化 ブランドごとに「何をして過ごすホテルか」が分かれる
地域体験の商品化 食、文化、街歩きを時間単位で提案
ウェルネスの拡大 スパだけでなく自然や地域性まで取り込む
短期旅行への対応 好立地、手続きの簡素化、短時間プログラム
AIと人の併用 情報収集はデジタル、現地の提案はスタッフの知識も活用
もちろん、今回の調査だけで2027年の宿泊需要や消費額が伸びると判断することはできません。調査対象も、今後1年以内に旅行を予定している18歳以上であり、一般人口全体をそのまま表すものではありません。

それでもホテル開発を見る際の視点は広がります。

「何室あるのか」「どのブランドが来たのか」に加えて、「誰が、そこでどんな時間を過ごすホテルなのか」。大阪では、公園、街歩き、買い物とホテルでの休息を組み合わせる環境が整い、京都では、文化、自然、都心観光という異なる過ごし方に対応するホテルがそろいつつあります。

ヒルトンの2027年版グローバル・トレンド・レポートが伝えているのは、観光地そのものの価値が薄れるという話ではありません。

旅先で「何を見るか」に加えて、「どんな時間を過ごしたいか」がホテル選びを左右する。

その変化に合わせて、ホテルも「部屋を提供する場所」から、旅行者の時間の使い方まで含めて滞在を設計する場所へと役割を広げています。




出典

  • Hilton「2027 Trends Report: The Great Rebalance」
  • ヒルトン「2027年版グローバル・トレンド・レポート」(日本向け発表、2026年9月29日)
  • Hilton「Canopy by Hilton Debuts Opening of Osaka Umeda Hotel in Japan」
  • Hilton「Waldorf Astoria, Canopy by Hilton Plan Osaka Debut」
  • Hilton「Conrad Hotels & Resorts Expands its 1/3/5 Program」
  • Hilton「24 Hilton Properties to Check Off Your Bucket List in 2024」〔Hilton Kyoto〕
  • Hilton「Hilton Expands Its Lifestyle Portfolio in Japan with the Debut of Motto by Hilton」

Visited 431 times, 435 visit(s) today