出展:三越伊勢丹ホールディングス
2025年5月13日、三越伊勢丹ホールディングスは2025年3月期(2024年度)決算を発表し、伊勢丹新宿本店の総額売上高が過去最高となる4,212億円に達したことを明らかにしました。これにより同店は、東京地区の百貨店市場全体の約4分の1という驚異的なシェアを記録。来期(2026年3月期)もさらに成長を見込んでおり、「館業から個客業へ」の変革を体現する象徴的な存在となりつつあります。
都市の記憶を塗り替える──伊勢丹新宿本店、異次元の伸長
三越伊勢丹ホールディングスの発表によると、伊勢丹新宿本店の2024年度の売上は前年比12.1%増の4,212億円。計画値である4,240億円にはわずかに届かなかったものの、初の「4,000億円超え」を達成しました。コロナ前の2020年3月期と比較すると、売上は約1.5倍という成長を遂げており、同社の中核だけでなく、都市商業の象徴としての地位も確立しつつあります。
東京地区の百貨店売上高総計は1兆7,310億円(日本百貨店協会・2024年度暦年ベース)とされており、そのうちの24%を伊勢丹新宿本店が占有。まさに“都市の重心”が一店舗に凝縮されたような存在感です。
📊 三越伊勢丹 店舗別売上高ランキング2024
順位 | 店舗名 | 売上高(百万円) | 前年比(%) | 2026年度売上予想(百万円) | 予想前年比(%) |
---|---|---|---|---|---|
1 | 伊勢丹新宿本店 | 421,200 | 112.1 | 429,000 | 101.8 |
2 | 三越日本橋本店 | 161,600 | 105.7 | 162,000 | 100.2 |
3 | 三越銀座店 | 124,100 | 118.5 | 130,000 | 104.7 |
4 | 岩田屋三越 | 132,900 | 106.7 | 135,000 | 101.6 |
5 | 名古屋三越 | 63,200 | 102.5 | 60,000 | 94.9 |
6 | 札幌丸井三越 | 62,700 | 103.6 | 62,800 | 100.1 |
7 | 伊勢丹浦和店 | 36,200 | 93.3 | 36,500 | 100.6 |
8 | 伊勢丹立川店 | 31,800 | 98.8 | 32,500 | 102.0 |
9 | 新潟三越伊勢丹 | 33,900 | 94.6 | 35,000 | 103.0 |
10 | 仙台三越 | 26,300 | 95.4 | 26,000 | 98.7 |
識別顧客とインバウンドが生んだ“二層構造”の強さ
成長の背景には、識別顧客との深い関係性とインバウンド需要の組み合わせがあります。伊勢丹新宿本店の売上構成は、アプリ・カード・外商会員といった「識別顧客」によるものが70%以上、訪日外国人による免税売上が15%前後。合わせて85%以上が「誰が、いつ、何を買ったか」が追跡可能な顧客であることは、業界でも異例です。
特に免税売上は前年比50%以上の成長となる756億円に達し、1店舗単位でのインバウンド売上としては国内最大級の水準。客数がコロナ前に戻っていないにも関わらず、客単価の上昇が全体を押し上げる構造へと転換しています。細谷敏幸社長はオンライン決算説明会で「お客様の入店数はコロナ前に完全には戻っていないが、1人あたりの買上げ金額が伸びている」と述べており、質の高い消費へのシフトが鮮明です。
2026年3月期も連続成長へ──4,290億円の高みへ
三越伊勢丹ホールディングスは、2026年3月期の伊勢丹新宿本店売上目標を前年比1.8%増の4,290億円と設定。2年連続で過去最高を更新する計画です。富裕層向けMD(マーチャンダイジング)やCRMの高度化、外商戦略の強化を柱に、既存のトラッキング可能顧客との関係深化を図ります。
また、インバウンド対策として導入した多言語対応アプリは、わずか1カ月で登録者数が46,000件を突破。訪日時の登録を起点に、帰国後も情報発信を行うことで「次の来店」を作り出す構造を構築中です。
三越伊勢丹HD全体としても絶好調──営業利益は過去最高763億円
グループ全体でも好調を維持。2025年3月期の営業利益は前年比40.4%増の763億円と、2年連続で過去最高益を更新しました。総額売上高は1兆3,036億円、売上高は5,555億円で、利益率の改善と販管費抑制(前年比▲1.2%)が利益拡大に寄与しました。
特筆すべきは、グループ全体の「識別顧客売上比率」が52.8%であるのに対し、伊勢丹新宿本店は70%超と圧倒的。CRMとデジタル戦略の成果が、現場の数字に表れています。
百貨店は“街”ではなく、“個”を育む空間へ
伊勢丹新宿本店の事例は、もはや「百貨店が街の中心にある」という従来の構図を超え、「百貨店そのものが都市の縮図」として機能し始めていることを示唆しています。そこでは不特定多数に向けた“マスの集客”ではなく、「個客」に向けた精密な関係性構築が力を発揮しています。
2026年3月期も、三越伊勢丹ホールディングスは「個客業への変革」を加速させ、“連邦戦略”とCRMを軸に、都市型高付加価値百貨店の新たなモデルを描こうとしています。伊勢丹新宿本店の躍進は、その試金石となるでしょう。