【再都市化ナレッジデータベース】←新規情報やタレコミはこちらのコメント欄にお願いします!

阪急阪神百貨店 店舗別売上ランキング2024年度(2025年3月期) 阪急梅田本店が売上高3,653億円を記録し過去最高を更新!年間売上4,000億円の到達を目指す


過去最高の売上を記録した阪急梅田本店。しかしその先に見据えるのは、単なる成長の持続ではない。観光客頼みのインバウンドから、グローバルVIPを主軸とした次なるステージへ──。H2Oリテイリングは今、免税売上の構造転換に着手し、梅田本店をその戦略の中核へと再定義している。改装とCRM、そして寧波との連携まで含めたその全貌を読み解きます。

過去最高の売上を記録した阪急本店、売上3,653億円の衝撃


2025年3月期、H2Oリテイリングの連結売上高は1兆1,596億円(前期比8%増)、営業利益は348億円(同33%増)、純利益も348億円(同59%増)と、いずれも過去最高を更新しました。そのけん引役となったのが、阪急阪神百貨店を核とする百貨店事業です。

中でも阪急梅田本店は、売上高3,653億円(同16.3%増)と単体で過去最高を記録。粗利益率の改善や販管費の抑制により、営業利益率も大幅に上昇しました。

一方で、2026年3月期には一転して減収減益の予想です。阪急梅田本店の売上は3,495億円(同4.3%減)と見込まれ、うち約43億円は改装に伴う一部売場閉鎖の影響。また、インバウンドの勢いが一服しつつあることが主因とされ、第4四半期(2025年1~3月)の免税売上は前年同期比7%増にとどまり、成長スピードに減速感が見られます。

この4Qの売上鈍化には、阪神梅田本店や川西阪急の改装工事、営業日数の減少といった外部要因も重なりましたが、実質ベースでは前年同期比+3.4%と底堅い推移を維持しました。

 
順位 店舗 売上高(百万円) 前年比(%) 2025年度売上予想(百万円) 予想前年比(%)
1 本店 365,349 +16.3% 349,489 4.3%
2 博多 69,358 +11.3% 67,543 2.6%
3 阪神梅田本 64,756 2.0% 70,222 +8.4%
4 神戸 42,981 +6.3% 45,500 +5.9%
5 高槻スクエア 24,859 +4.6% 25,609 +3.0%
6 西宮 24,774 0.8% 25,271 +2.0%
7 川西 12,362 3.5% 12,769 +3.3%
8 千里 13,536 4.9% 13,235 2.2%
9 メンズ東京 13,966 +2.6% 13,112 6.1%
10 宝塚 6,958 +1.4% 7,148 +2.7%
11 阪神・にしみや 4,220 +3.0% 4,351 +3.1%
12 大井食品 4,475 1.4% 4,510 +0.8%
13 都筑 3,214 +0.1% 3,246 +1.0%
14 あまさき阪神 3,094 1.0% 3,165 +2.3%
15 阪神・御影 628 +9.7% 630

“一見さん”から“顧客資産”へ──インバウンド戦略の大転換



こうした変化に対応し、H2Oの戦略は一過性の訪日観光客に依存したインバウンドビジネスから、リピーターや富裕層を中核としたCRM型ビジネスへと転換する方向へ明確に舵を切っています。その中心に位置づけられているのが、阪急うめだ本店です。

同店では、2026年春のリニューアル完了を目指し「グローバルデパートメントストア」への進化が進行中です。改装のコンセプトは、高感度でハイグレードな商品構成(MD)と、上質な体験と接遇を重視した空間設計の融合です。



2~3階にラグジュアリーブランドの旗艦店、5~6階にVIP専用ルームと高級レストラン、8階にアート・家具ゾーン、10階と13階には多言語対応の体験型VIPサロンを展開。専任スタッフによる接客体制も強化され、従来の“販売”から“顧客関係性の資産化”へと発想が転換されています。

この改装には総額120億円が投じられ、年間売上4,000億円の達成が目標とされています。国内市場においても、富裕層の拡大や大阪万博による集客効果が重なり、実質ベースで前年比+2%の成長が見込まれています。

国境を超える接客戦略──寧波阪急とつなぐグローバルCRM



こうした体制は国内にとどまりません。中国・浙江省にある寧波阪急とのCRM連携も本格化しています。すでに子会社化された同店のVIP顧客に対して、阪急本店では現地と同等のサービスが受けられる体制を整備中です。

「データを共有し、関係性を引き継ぐ」。その実現により、訪日中の顧客にとって“二度目の来店”のような応対が可能となり、LTV(顧客生涯価値)の最大化が狙えます。単なる“接客の連携”を超え、都市と都市、百貨店と百貨店が、顧客を媒介にして接続される新たなモデルが生まれつつあります。

目指すは“VIP比率50%”──数値で見る成長のストーリー



この構造転換の意志は、数値目標に明確に反映されています。H2Oは2030年度までに、免税売上高を2,000億円(現状比+700億円)へ、海外VIP会員数を9.0万人(同2.3倍)へ拡大し、免税売上に占めるVIP比率を50%まで引き上げる方針です。

2025年度のインバウンド売上は、前年比15%減の1,100億円を想定。これは、急激に伸びた前年度との比較によるものであり、特に上期(4~9月)は22%減と大幅な調整が予想されています。一方で、下期には7%減にとどまり、徐々に回復軌道に戻る見通しです。

インバウンドという不安定な外部環境に依存するのではなく、安定的で強固な顧客基盤の構築を軸とした成長戦略に、H2O全体が移行しつつあります。

梅田・川西・博多──拠点強化で描くエリア戦略の未来図



こうした構造転換は、阪急本店だけでなく他の主要店舗でも並行して進行中です。

阪神梅田本店では、2025年秋までに段階的なリモデルを実施予定。「毎日が幸せになる百貨店」を掲げ、1階には新たな食の発信拠点「食祭テラス」、加えて健康・美容関連の専門店も強化し、日常と非日常の融合を目指します。

2025年5月には「川西阪急スクエア」がグランドオープンを迎えます。50ブランドを新規導入し、地域密着型イベントと融合したデパートメントモールとして再構築。顧客接点の多様化を通じて、郊外拠点の収益力を高めていく構えです。

そして博多阪急では、2025~2027年にかけて42.5億円を投じたリモデルを実施。3階フロアをラグジュアリー化し、コスメゾーンを再編。VIPサロンも新設し、九州最大級の体験型百貨店としての地位を固めます。2030年度には800億円の売上を見込んでおり、博多コネクテッドや空港滑走路の増設とも連動した中長期戦略です。

結び──百貨店の未来は、都市の未来



かつて百貨店は「立地と商品力」を競い合う商業施設の象徴でした。しかし現代の都市型百貨店に求められるのは、それを超えた“都市の価値”を媒介する装置としての役割です。

阪急梅田本店はその最前線に立ち、アップスケール化により「商品」「空間」「サービス」を横断する体験価値を構築。その目的は、売上向上にとどまらず、顧客との関係性そのものを資産化することにあります。訪れた人々の記憶に残る体験、語りたくなる場としての百貨店──それは“物販”から“物語の共創”へと主軸を移す大胆な構造転換です。

この変化は、寧波阪急とのCRM連携を通じたグローバル対応や、大阪関西万博をはじめとした都市イベントとの共鳴によって、さらに都市全体の体験価値を拡張させています。百貨店が都市空間の中で単独に存在するのではなく、都市機能そのものと統合して“場”の記憶を育む構造が生まれようとしているのです。



未来の百貨店は、単に物を売る場ではなく、文化や価値を共有する“信頼のプラットフォーム”としての空間へと再定義されていくでしょう。その先駆けとなる阪急梅田本店の取り組みは、都市の国際競争力と文化発信力を底上げする起点として、大阪という都市の未来像そのものを牽引しています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です