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「せんだい都心再構築プロジェクト」を読み解き、都心部に対する安易な『環境・高さ規制』を考えてみた



仙台市は、リーマンショック前まではブロック中枢都市の中でも「破竹の勢い」で高層ビルの建設が進んでいました。しかし、2009年に仙台市が制定した「杜の都」景観計画によって都心全域に厳しい高さ制限がかけた事から、超高層ビルの建設は一気に停滞し老朽ビルの建替えが進まなくなってしまいました。

また、仙台市では特に震災以降、オフィスビルの空室率は低水準が続いているものの老朽ビルの更新が進んでいないことによるオフィス賃料の下落も進み、需要に応えられていないという課題が浮き彫りになっていました。

この状況に危機感を覚えた仙台市は、激しさを増す都市間競争に打ち勝つ為に、2019年7月13日仙台中心部の再開発を促す「せんだい都心再構築プロジェクト」を打ち出しました。

【出展元】
せんだい都⼼再構築プロジェクト
「せんだい都心再構築プロジェクト」第2弾を実施します
仙台市「杜の都」景観計画について
仙台市「杜の都」景観計画 変更の概要

 

厳しすぎた仙台の景観・環境規制




現在、仙台都心では、ほぼ全域に対して厳しい高さ制限がかけられています。高さ規制はD1〜D4のエリアによって異なりますが、都心の中の都心と言える「青葉通り」付近のD-4地区は80m高さ制限で、一定基準をみたすと規制無しとなります。ただし、D-4の対象エリアは非常に限られています。

その他は、D-4から遠ざかるにつれ、D-3が60m以下(緩和有りで80m)、D-2は40m(緩和ありで50m)、D-1は30m(緩和ありで40m)以下に制限されています。都心部と言えるD-3地区で60m以下(緩和有りで80m)、その他は40〜30m以下となっています。

 

 



超都心部のD-4地区では、基準を満たせば高さ制限がなくなりますが、その基準が厳し過ぎます。まず、空地率を敷地の55%(35%)以上 を求めている点です。超都心部なので敷地の有効活用は必須です。にも関わらず、半分を空地にせよ、というあり得ない基準が設けられました。

 

 



加えて、D-4地区で高さ100m以上の建築物を建てるには、環境アセスメントが必須となります。環境アセスには1.5年程度の期間と莫大な手間暇がかかりコストもかさみます。プロジェクトが立ち上がってから着工に至るまでの期間が1年〜1.5年も余計にかかるのであれば、規制の無い都市に投資するのは必然です。さらに仙台圏をストローしている東京はチート的に国土交通省特認で航空法の高さ制限を緩和して、民間投資を呼び込んでいます。

 

 


大阪のタワマン例。規制緩和前の仙台基準では、この程度のタワマンでも環境アセスが必要だった

もし、大阪都心部でこの規制を導入すれば、都心で見られる高さ100mを超えるタワマンは全て「環境アセスが必須」になり、かつ「空地率55%(又は35%)確保」が要求されます。現実的に考えると中規模の高層オフィスビルやタワマンが建てられなくなります。

その結果、耐震基準を満たさない老朽ビルが寿命を迎えた時、新しいビルが建てられる事なく、都心部にコインパーキングが虫食い的に増殖して行く、そんな暗黒の未来が見えてきます。そういった意味で、安直な高さ規制や開発規制は劇薬だと言えるのではないでしょうか。

 

天神ビッグバンを横目に規制緩和に方向転換


出展:福岡市

しかし仙台市は、同じブロック中枢都市である「福岡市」が大幅な規制緩和『天神ビッグバン』によって民間投資を呼び込み、老朽化したビルを次々と建て替える状況に影響されたのか、一転して規制緩和に舵を切り始めました。

理想を掲げた厳しすぎる規制は都市に取っては劇薬となり民間投資が他都市に流れてしまい、その結果都市機能の更新が止まり魅力・活力が低下する事が解ったのかもしれません。

 

仙台版ビッグバン「せんだい都心再構築プロジェクト」始動



仙台市は、老朽化したビルの建て替えを促し都心部の機能更新を図る為「せんだい都心再構築プロジェクト」を推進しています。

第一弾では、仙台市は2019年7月、仙台市都心部の再開発推進のため、約100億円規模の投資を実施することを発表。「都市再生緊急整備地域」に置ける1981年以前の旧耐震基準で建てた老朽ビルなどを対象とした助成・緩和策が打ち出され、老巧ビル解体期間中の固定資産税相当額の助成金、高機能オフィス整備で固定資産税1年間相当額の助成、容積率の緩和、市街地再開発事業の補助上限と補助率の拡大、設置を義務付ける駐車場台数の緩和、などが行われました。

 

 



続く第二弾では、第1弾で示した企業立地促進助成制度や容積率の緩和をさらに拡充。総合設計制度では周囲を道路で囲まれた区域などで基準容積率を1.5倍に緩和。

さらに、高さ100m以上、または延床面積5万㎡以上の建物を対象とし、グリーンビルディングに該当する案件では環境アセスが不要となりました。環境影響評価(アセスメント)の手続きが不要となる事で、着工までの期間を11年半短縮できる見込みで仙台市にとっては画期的な規制緩和を言えます。

その他にも、建替えに伴うテナントの移転に対して移転先のオフィスの月額賃料の3ヶ月分を交付するなどの規制緩和及び助成を打ち出しました。

さらに、もう一つのボトルネックであった、仙台市「杜の都」景観計画 が変更され、高さ規制緩和の要件にあった『空地率55%(又は35%)確保』を撤廃した上で、敷地の 5%以上又は 200 ㎡以上の公共的空間を設ける、という新たな内容に変更されました。

 

 



仙台市は自らが課した厳しい規制によって、都心部への投資が滞り、老朽ビルの建替えが進まないジレンマを体験しました。一方、福岡市は逆に規制緩和を行い天神ビッグバンを成功させ機能更新が進んでいます。仙台市がロスした時間は10年以上でしょうか。

ようやく規制緩和が始まりましたが対象エリアは限定的で、多くのエリアでは、なお厳しい規制が残っています。今後はターミナル駅周辺やタワーマンションを誘導したい地区などをピンポイントで規制緩和を行い、仙台市が理想とするスカイラインや機能配置を目指す事が望まれます。

 

 



最後に、厳しい規制は、結局はその都市への投資を妨げ他都市に投資が向かう結果となります。仙台市は幸いにして方向転換をはかる事が出来ましたが、安易な規制の導入は、最低でも10年のタイムロスを生み出し、少子化が進み経済が縮小する今後において、その都市は致命傷をおう事になります。

東京一極集中が決定的になる中、日本国内で最も規制緩和されている都市は、他ならぬ「東京」なのですから。

 

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6 COMMENTS

あおかぶ

すばらしい考察です。
この10年、仙台の中心市街地は、天神、札幌に大きく水を空けられました。
全国的に、ずっとず〜っとオフィス不足だったのに、駅前の一等地が廃墟状態(地権者が入り組んでいて、色々と事情があったことは理解しますが)。
遅きに失した感はありますが、ヨドバシ(東口)、PPIP(さくらの跡地)、藤崎と再開発の動きが出てきていますので、挽回してほしいものです。

神奈川県人

皆様のおっしゃる通りです。中央政府は充分すぎる東京の乱開発を規制し止めさせて
他の都市に開発と人口移住を促せば国内が循環するのを北海道から沖縄迄の事を何も考えず
東京ありきだけの考えなのが一番の過ちです。「東京だけが日本じゃないんだよ」と僕は叫びたい。東京バカになりすぎた大臣・議員・官僚に文句を言いたいです。

かつての御堂筋は、シャンゼリゼのように風格のある街並みが形成され、大阪のイメージアップに寄与してきたと思います。
かつての御堂筋は、道路幅に対するビルの高さの比率が素晴らしい街並みと外国のデザイナーに言わせたらしい。
2012年の土地総合研究において、「御堂筋における高制限の変遷」が記載されています。
https://www.lij.jp/html/jli/jli_2012/2012spring_p030.pdf
少し古い論文ですが、深く考察されているので、一読の価値があると思います。
高さ制限を何度も変更して、アホか。
今の御堂筋、今後の御堂筋は、どこの街でも創られるような街並みとなり、風格がなくなり、残念です。

ぷんぷい

東京だけやりたい放題。
IRもなんで霞ヶ関なんぞにお許しもらわなあかんねやろ。

東京が差配している限り、東京以外が報われることはない。

さんたん

神戸市にも見習ってほしいものですね。

よっさんdsnmb

理想と現実。
これは如何なる事にもついて回る永遠の悩みなのでしょうね。
大阪だと御堂筋の高さ規制、これは時代の変遷に上手く対応し、老朽化したビルの建て替えを促し新陳代謝が上手く行っている好事例。
これは大阪単独で決められるからこそ機動的に高さ規制を見直せたわけだ。

機動的に見直せないのが国が絡む事例。
国が定める梅田や中之島の最大高さ200メートル規制の馬鹿馬鹿しさといったらない。
何しろ東京では都心の上空を最早超高層ビルスレスレと言っていいぐらいの高度で羽田への飛行機が飛んでいる。なのに大阪には同じ事が許されない理不尽さ。新大阪やうめきたへの厳しい高さ制限は理解出来るが、大阪駅の南側の梅田、中之島、本町界隈に厳しい高さ制限なぞ無意味だろうに。東京にある我が国中央政府のいい加減さ、デタラメさには呆れるしかない。

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