2025年の大阪・関西万博をきっかけに、JR大阪駅南側の歩道沿いを中心とした駅前エリアでは花壇や緑地の整備が進められました。阪神百貨店北側など回遊性の高いゾーンには約140基の「おもてなし花壇」が配置され、都市の玄関口にふさわしい景観が整いつつあります。
この整備は、美観の演出だけでなく、大阪駅を利用する人々が気持ちよく過ごせる環境づくり、さらには旅人が最後に見る大阪の印象をより良いものにすることを目的としています。企業や地域団体の協力のもと、大阪の“顔”にあたる空間が丁寧に整えられてきました。
一方で、整備が進む広場ではスケートボードの利用が課題として浮上しています。平坦で硬質な舗装材や縁石、手すりといった構造が偶然にもトリックに適しており、駅前が“滑走スポット”として利用される状況が一部で確認されています。
背景には、大阪都心部に滑走可能なスペースが極端に少ないという現実があります。既存のスケートパークは長居公園など都心の外縁部に立地しており、通勤・通学の途中で立ち寄れる距離とは言いがたいため、利便性を求めて駅前に人が流れ込んでいる面も否定できません。
ルールの周知にも課題があります。「スケート禁止」の看板はあるものの、設置場所が目立たない、あるいは日本語のみで記載されているといった理由で、認知が十分とは言えない状況です。
市民からは「夜に音が響いて落ち着かない」「子どもと歩いていて危険を感じた」といった声が寄せられています。一方で、スケーター側からは「滑れる場所が都心になく、迷惑をかけないように配慮している」といった意見もあり、SNS上では「一部の迷惑行為によって全体が否定されてしまう」という不満も見られます。
現在、大阪市では滑走防止パーツの設置、多言語による注意喚起、警備員による夜間巡回などの対応を進めています。あわせて、整備された花壇や緑地が「大切にされている場所」という空気を生み、人々の行動に一定の抑止力を与えているとの見方もあります。整った空間がふるまいに影響を及ぼすことは、環境心理学的にも知られた効果です。
とはいえ、滑走スペースが少ないとはいえ、大阪駅前やグラングリーン大阪のような人通りの多い場所での滑走は現実的ではありません。特に歩行者、子どもとの接触やスケートボードの飛び出しによる事故リスクは看過できず、「夜間なら問題ない」という認識も安全面では成立しません。
まずは安全確保を最優先とし、その上でスケーター自身が一部の不届きな行為によって印象を損なわないよう、コミュニティ内での啓発を進めることが求められます。将来的には、都心部に小規模でも安心して利用できるスケートパークを整備する方向性も必要です。
大阪都心部におけるスケボー問題については、短期的にはルールと運用の明確化、中期的には当事者間の対話と啓蒙、長期的にはハード整備といった段階的なアプローチを通じて、都市空間の共存モデルを築いていくことが求められています。大阪駅中央南口に登場した「おもてなし花壇」は、ルールと運用の明確化に一役買っていますが、根本的な問題解決には長い時間がかかりそうです。