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太陽の塔が国の『重要文化財(建造物)』に指定!1970年万博の記憶が、2025年の未来へつながる日


出典:文化庁

1970年の大阪万博で「人類の進歩と調和」の象徴として誕生した「太陽の塔」が、2025年の大阪・関西万博の開催期間中に、国の重要文化財(建造物)に指定されることとなりました。芸術と建築技術の結晶であり、仮設建築から“未来に語り継がれる遺産”へ。55年越しの評価がいま形となり、次なる目標は世界遺産──その意義と経緯を読み解きます。

 高度経済成長のシンボル──万博とともに生まれた太陽の塔

出典:大阪府

太陽の塔は、大阪府吹田市千里万博公園内に立地し、1970年に開催された日本万国博覧会(大阪万博)のテーマ展示施設として建設されました。「人類の進歩と調和」という理念を象徴する構造物であり、会場の中心「お祭り広場」や「大屋根」と一体となり、万博全体の“心臓部”を担っていました。

デザインは、万博のテーマ展示プロデューサーとして起用された芸術家・岡本太郎氏によるものです。徳利型の胴体(高さ約65m)に、約25mの腕を左右に広げ、正面には「太陽の顔」、頂部には「黄金の顔」、背面には「黒い太陽」と名付けられた3つの顔を持ちます。内部は吹き抜け構造で、高さ約41mの「生命の樹」がそびえ立ち、生物進化の系譜を表現する模型が取り付けられています。

 芸術と構造の融合──建築技術が支えた表現


出典:大阪府

この独創的なフォルムを実現するため、太陽の塔には複数の建築技術が組み合わされました。胴体下部は鉄筋コンクリート造、中央部は鉄骨鉄筋コンクリート造、上部と腕部は鉄骨造で構成され、さらに外殻には湿式ショットクリートと呼ばれる特殊な工法が用いられています。これは、複雑な三次元曲面を持つ建築の初期事例とされ、極めて高度な成型技術が必要でした。

腕上部には、当時ようやく実用化され始めたウレタンゴム系塗膜防水材が、国内で初めて新築建築物に採用されるなど、素材選定の面でも先進性が際立ちます。施工現場では、上向き・高所という特殊な条件下で、専用機械の導入と熟練職人による技術が結集されました。

こうして芸術家のヴィジョンを忠実に具現化するため、建築・構造・材料工学の最前線が総動員され、太陽の塔は「芸術と工学の融合体」として完成をみました。

 保存と再評価──仮設から永続へ


出典:大阪府

実は太陽の塔は、当初は万博終了後に解体される予定でした。しかし、その造形の独自性と芸術的・建築的価値が見直され、1975年に永久保存が決定。その後も長らく非公開が続きましたが、2016年から総工費18億円をかけた大規模修復工事が行われ、2018年に内部公開を再開します。

2020年には文化庁により登録有形文化財に指定。2024年には大阪府が詳細な調査報告書をまとめ、建築構造・施工技術・文化的象徴性を踏まえて、国の文化審議会に提出されました。報告書では、内部構造や施工法の先進性に加え、「芸術と技術が融合した建造物」としての意義が体系的に評価されています。

 文化財指定の決定──そして次は「世界遺産」へ

2025年5月16日、国の文化審議会は「太陽の塔」を重要文化財に指定するよう文部科学大臣に答申しました。評価の根拠は、「技術的に優秀で、歴史的価値の高いもの」とされ、内部の「生命の樹」や、保管中の竣工図も附指定されることになりました。

吉村洋文大阪府知事は「2025年の万博開催中に指定されたことは非常に意義深い」と語り、次なる目標として「世界遺産登録」を掲げました。現在、世界遺産の暫定リストの新規登録は停止中ですが、再開され次第「手を挙げたい」と意欲を示しています。

大阪ではすでに「百舌鳥・古市古墳群」が世界遺産に登録されていますが、「太陽の塔」は日本の戦後文化と都市史を象徴する、まったく異なる軸でのアプローチとなるでしょう。

 記憶と未来をつなぐ象徴──なぜ今、再評価されるのか

太陽の塔がいま改めて評価されている背景には、「都市の記憶をいかに未来へ継承するか」という問いが横たわっています。芸術と技術が融合し、社会が一体となって未来を描いた時代の象徴は、ただ保存されるだけでなく、語り継がれる存在となる必要があります。

2025年の大阪・関西万博が「未来社会の実験場」と位置づけられる中で、その原点とも言える太陽の塔が国の文化財に指定されたことは、非常に象徴的な出来事です。55年の歳月を経て、“未来を語った建物”が、“未来に語り継がれる建物”へと位置づけを変えつつあるのです。

 結びに:公共芸術が生き続ける時代へ

今回の重要文化財指定は、単なる建物の保存ではありません。それは、芸術と工学、歴史と都市、記憶と未来を結ぶ“日本的レガシー”の再発見です。そしてこれは、巨大な公共アートが単なるオブジェではなく、社会の記憶を媒介する「生きた存在」として、再び認識される時代の幕開けを意味します。

再評価された太陽の塔は、次なる世界遺産登録というステージに向けて、また一歩を踏み出しました。過去から未来へ、日本が誇る文化遺産の旅は続きます。






出典一覧:

  • 大阪府 教育庁 文化財保護課『太陽の塔 詳細説明資料』

  • 文化庁「文化審議会 答申資料」

  • MBSニュース『太陽の塔、重要文化財に指定へ』

  • NHKニュース『太陽の塔が国の重要文化財に』

  • 関西テレビ『吉村知事「次は世界遺産を」』

  • 日本万国博覧会記念公園 登録有形文化財関連資料

1 COMMENT

アリー my dear

次は世界遺産ですな。
アメリカの自由の女神像や、ブラジルのコルコバードのキリスト像みたいな存在になってほしいです。

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