2025年10月13日、大阪関西万博は半年間の会期を終えて閉幕しました。総来場者は約2,902万人。異文化との交流や偶然の連鎖が生み出す熱気の中で、「いのち輝く未来社会のデザイン」という理念を、多くの人が体感しました。
万博の評価にはさまざまな見方がありますが、本稿では報道で十分に語られていない「数字の裏側にある静かな成功」に焦点を当てます。その本質は、「高効率」「公平性」「安全性」にあります。この3つの視点から、大阪万博が成し遂げた隠れた成果を解き明かします。
1:1haあたり来場者数が示す「高効率運営」
◆ 登録博(1970年以降)の比較一覧 | |||||
順位 | 万博名(年) | 開催地 | 総来場者数(万人) | 会場面積(ha) | 1haあたり来場者数(万人) |
1位 | ミラノ万博(2015年) | イタリア・ミラノ | 2,150 | 110 | 19.55 |
2位 | 大阪万博(1970年) | 日本・大阪 | 6,422 | 330 | 19.46 |
3位 | セビリア万博(1992年) | スペイン・セビリア | 4,181 | 215 | 19.45 |
4位 | 大阪・関西万博(2025年) | 日本・大阪(夢洲) | 2,902 | 155 | 18.72 |
5位 | 上海万博(2010年) | 中国・上海 | 7,308 | 523 | 13.97 |
6位 | 愛知万博(005年) | 日本・愛知(長久手) | 2,205 | 173 | 12.75 |
7位 | ハノーバー万博(2000年) | ドイツ・ハノーバー | 1,810 | 160 | 11.31 |
8位 | ドバイ万博(2020年) | アラブ首長国連邦・ドバイ | 2,410 | 438 | 5.50 |
大阪・関西万博は会場面積155haで開催され、総来場者数2,902万人を記録しました。その結果、「1haあたり18.72万人」という高効率な集客を達成しています。これは登録博(1970年以降)では、ミラノ(2015年)、大阪(1970年)、セビリア(1992年)に次ぐ世界第4位の水準です。
限られた敷地で高密度な来場を実現し、開幕前の試算で約2.9兆円とされた大きな経済波及効果を生み出した大阪万博。コンパクトでありながら高効率な運営は、「都市型万博」の新たな可能性を示したと言えます。
2:限られた予算で最大の体験を生んだ設計。大屋根リングが果たした役割
これまでの万博は、国家の威信を競う巨大建築の舞台でしたが、大阪・関西万博は公平性・効率性・持続可能性を重視する方向へと転換しました。
高さ制限による公平性

各国パビリオンには大屋根リングを基準とした高さ制限(原則12m、最大20m)が設けられ、建築規模の差を抑制しました。
これは単なる構造的制約ではなく、大国間の威信競争を抑え、「パビリオンの大きさではなく内容で競う」という構造への転換を促しました。その結果、会場には経済格差を顕著化させない、序列の少ない景観が広がりました。この建築的公平性は、今後の国際イベントにおける新しい倫理基準となるものです。
理念の象徴としての大屋根リング

中央の「大屋根リング(全長約2km)」は、多様な文化を包み込み、「多様でありながらひとつ」という理念を可視化しました。
運営面では、限られた予算の中で焦点を“リング”に絞った設計判断が、統一感と記憶性を高め、過剰な装飾を排した空間を実現。メリハリのある設計が、限られた資源で最大の体験価値を生み出しました。
環境負荷を抑えた動線設計

回遊性と省エネルギーを両立し、都市型万博としての再現可能性を提示しました。
3:収益よりも安全を優先した「リスクマネジメント」
輸送力と安全性の両立も、今回の大きな特徴です。大阪メトロ中央線の夢洲延伸やシャトルバス、船舶の連携など、複層的なアクセス体制を構築しました。一方で、輸送上限を考慮し、1日あたり最大約24.5万人の入場制限を設定。9〜10月には「チケットが取れない」と報じられ、「死にチケット問題」とも呼ばれましたが、無制限に受け入れていれば来場者数は3,000万人を超えていた可能性があります。
運営側は収益性よりも安全性を優先し、日時予約システムによって人流を抑制・分散。輸送の混乱や群集事故を未然に防ぎました。その結果、半年間を通じて大きなトラブルはなく、安定運営を貫徹。アプリのUIに課題は残ったものの、安全性と収益性を両立させたリスクマネジメントの新しいモデルとして、高く評価されるべき事例です。
4:万博が示したもの: “巨大なハコモノ”ではなく、“高効率なシステム”

大阪・関西万博が示した本質は、「巨大なハコモノ」ではなく、「高効率なシステム」で成果を出す可能性です。
・来場者密度と体験効率を重視する新しい評価軸
・建築的威信競争を排し、平等な舞台を実現
・収益よりも安全を優先した運営
・都市型・コンパクト開催による環境・経済・安全の最適化
これらはどの都市でも応用可能であり、国際博覧会の新しいスタンダードを示しました。
まとめ:巨大化の呪縛を断ち切った「次世代万博」のあり方
大阪万博が示したのは、「規模の小ささ」を逆手に取った新しい国際博覧会のモデルです。会場155haで2,902万人を動員し、高効率・平等・持続可能性を兼ね備えたその仕組みは、万博の巨大化競争に一石を投じました。
従来の万博は、各国が自国の技術力や経済力を誇示する“見せる舞台”でした。それに対して大阪万博は、「未来の社会はどうあるべきか」という問いを掲げ、その答えを会場の設計や運営の仕組みそのもので表現しました。この成果は、国際博覧会を「威信の象徴」から「持続可能な社会モデル」へと進化させた転換点として、歴史に刻まれる事になるでしょう。
やはりここでも行き着く先は『人類の進歩と調和』なのでは。昭和45年(1970年)の大阪万博のスローガンです。