「あの巨大な鍵穴、見たことがありますか?」 2025年10月、その“見えなかった都市の形”が、ついに空から体感できる時を迎えます──。
世界最大級の前方後円墳「仁徳天皇陵古墳(大山古墳)」を上空から望む観光気球プロジェクトが、5年半にわたる遅延とトラブルを経て、ついに運行を開始します。 空からしか見ることができなかった“鍵穴型”の前方後円墳を体感するこの体験は、堺市が持つ文化資産の意義を、新たな視点で無言のままに語りかけてきます。地上には見えない、“鍵穴”を空から読む

発着場は大山古墳に隣接する大仙公園(堺市堺区)。 ここからヘリウムガスを充填した繰留式観光気球が空への潤昇を開始します。 上昇高さは約100m、30階建てに相当し、飛行時間は1回15分前後。 1回の参加人数は30人までで、1時間に4〜6便の運行を見込み、年間6万人の利用を相計しています。
この仁徳天皇陵古墳は、基底部の壁線だけで103,410㎡の面積を超え、壁高は35.8m。 前方部の幅は307m、後円部の直径は249mにも達します。
この見上げるようなスケールは、平面からは並び立つことのない観光資源です。
空に浮かぶまで、1,980日の物語
この事業は、2019年7月に「百舌鳥・古市古墳群」が世界文化遺産に登録されたことを受け、堺市が観光振興の目玉として計画したものです。 翌2020年春には運行開始を予定し、大仙公園内には約2,700万円を投じて発着施設が整備されました。しかし新型コロナウイルスの感染拡大により、住民説明会などが延期され、プロジェクトは一時停止。 さらに2023年5月、いよいよ再始動というタイミングで気球本体からのヘリウムガス漏れが発覚し、使用予定だった気球メーカーが経営破綻に追い込まれるという事態に。 この連続するアクシデントによって、当初の構想から5年半もの歳月を要することとなりました。
パリ五輪と堺の空──信頼という再点火装置

出典:https://www.aerophile.com/en/aero30para/
気球設備は、フランスのエアロフィル社製「エアロ30」へと刷新されました。 この機体は、2024年のパリ五輪でも聖火台として使用された実績を持ち、電気制御を用いず静電気による誤作動リスクを排除した構造が特長です。 ガスには可燃性のプロパンではなく、軽量で燃えにくいヘリウムを使用し、都市部での運行に適した仕様となっています。この設備更新を含む事業費は約3億円に上り、全額を運行事業者である「アドバンス」(兵庫県豊岡市)が負担。 堺市は施設整備や広報を担い、明確な官民連携スキームのもと、再始動への道筋が整えられました。
三段階の料金設計──地域とインバウンドの両立へ

出典:https://www.aerophile.com/en/aero30para/
料金体系は、市民、一般(市外の日本人)、外国人の三段階に分かれる予定です。 大人一般料金は約4,000円を想定し、中学生以下は約3割引き。 堺市民はさらに2割引きで、小学3〜6年生と中学生には無料券も配布される予定です。一方で、外国人観光客にはプレミアム価格を適用する「二重価格制」も検討されており、地域への還元と訪日需要の収益化を図る戦略的設計といえます。この価格設計は、単なる入場料というよりも、地域文化を体験する“価値の対価”として慎重に設計されており、今後の観光事業のモデルケースにもなりうるものです。
都市と記憶をつなぐ“空の視点”──文化資産の再解釈へ
仁徳天皇陵を空から望む体験は、ただのレジャーではありません。 文化遺産を「見る」から「読む」へと導く視点の変化であり、空間体験の設計そのものが観光コンテンツとして機能しています。この気球体験を通じて、堺市は歴史的資産の“可視化できなかった価値”を顕在化し、教育・観光・都市ブランディングの3軸で再編集を進めようとしています。 学校教育への組み込みや、歴史探究型の体験教材としての活用も期待されており、体験価値の深化が進む可能性があります。
都市の記憶は、100m上空で静かに語りはじめた

出典:https://welcome-to-senshu.jp/
2025年10月、大阪・関西万博の終盤を迎える頃、堺の空に浮かぶ気球が都市の記憶を静かに映し出します。 5年半の延期と再設計の末に実現したこのプロジェクトは、堺という都市の粘り強さと文化戦略の象徴です。かつて“空からでなければ見えない”とされた古墳の輪郭は、今や体験のかたちとなって人々の記憶に刻まれようとしています。 都市の歴史は、地中にだけ眠っているのではないのかもしれません。 私たちはいま、“見えなかった都市”に、ようやく目を向けはじめたところです──。
- 堺市公式発表
- 産経WEST(2025年5月1日)
- 読売新聞オンライン(2025年5月1日)
- 日本経済新聞(2025年5月1日)
- 堺観光コンベンション協会(sakai-tcb.or.jp)
- 堺市博物館・百舌鳥古墳群解説ページ
- Wikipedia「大山古墳」
物事を考える時は「虫の眼、人の眼、鳥の眼、神の眼」で見ると良いのだそうで。
この気球は「鳥の眼」でじっくりと見ることになる訳で新しい視点、新しい感覚を私達にもたらすでしょう。
ただここは永遠の眠りについた方がいらっしゃる場所。
単なるアトラクションとは違う事を理解して観光に臨みたいものです。
この気球で古墳を一望する話、立ち消えになったのかな?と思っていましたけど、ついに実現しそうなんですね。
関係者各位の粘り強い努力が結実したのだと、ちょっと胸が熱くなりました( ╹▽╹ )