大和ハウス工業は、2021年4月26日付けのニュースリリースで、ノルウェーに本社を置くプロキシマーシーフード社(Proximar Seafood AS)が静岡県駿東郡小山町にある大和ハウス工業所有の工業団地「D-Project Industry 富士小山Ⅰ」においてアトランティックサーモンの閉鎖型陸上養殖施設の建設工事に着手したと発表しました。
【出展元】
→大和ハウス工業>日本最大級のサーモンの陸上養殖施設着工
→グローバル化する 養殖産業と日本の状況
→陸上養殖の現状と課題 ~サーモン陸上養殖を実証事例として~
→小山でサーモン陸上養殖 ノルウェー社、国内最大級施設
→水産庁>陸上養殖勉強会のとりまとめについて
施設は、鉄骨造(一部2階建て)で、延床面積約28,000㎡。断熱性能を高めることでアトランティックサーモンの育成に配慮した日本最大級のサーモン陸上養殖施設で、2023年6月竣工予定、2024年半ばから出荷を計画。年間生産量は日本のサケマス類の輸入量の2~3%にあたる約6300トンを見込んでいます。
需要の増加と漁獲量の伸び悩みが「陸上養殖」を後押し
世界的な人口増加やSUSHI(寿司)に代表される魚食文化の広がりにより水産物需要の増加が見込まれる一方で、天然魚の漁獲量は伸び悩んでおり、養殖による漁獲量も養殖適地の減少や海水温上昇等により限界が近いと言われています。また、一般的な海面養殖は大量の餌や排せつ物などを海に流す為、環境への負荷が大きくなります。そこで注目されているのが、海ではなく陸上の大型の水槽で養殖する「陸上養殖」です。
陸上養殖とは陸地に設けられたプラントで魚を育てる養殖方法で、なかでも水道水をベースにした水を使って海の魚を育てる『閉鎖循環式』の陸上養殖技術が注目されています。水道水が確保できれば、プラントの場所は海の近くでなくてもよく、内陸部でも海産物の工場を建設できるためです。
環境負荷が少ない『閉鎖循環型陸上養殖』
「陸上養殖」は、陸上に人工的に創設した環境下で養殖を行うもので、「かけ流し式」と「閉鎖循環式」があります。『かけ流し式』は、一般的な陸上養殖の方式で、コストは低く抑えられますが海水を引くため、養殖に適した静穏な沿岸域は限定され、海から離れた場所に施設を設けることが難しいという課題があります。また、食べ残した餌や排泄物による周辺の水質悪化、疾病等発生リスクの増加、疾病、寄生虫対策に使用する薬剤の環境への影響、台風、津波等による養殖施設の流出、破損のリスクがあります。使用した飼育水は海に排水される為、環境に与える影響が大きくなります。
一方、『閉鎖循環式』は、飼育水を濾過システムを用いて浄化しながら循環利用する方式で海水を引く必要がなく、場所を選ばず建設できる利点があります。また、屋外から魚を隔離することで、外部環境の影響を受けにくいことに加え、水温や水質が管理しやすいため、魚に最適な環境を維持できるだけでなく、餌や排せつ物による外部環境への影響が軽減されます。飼育水は基本的に排水しません。飼育環境の人為的管理が出来る為、気候・ 気象等の影響が無く、生産性の向上・品質の向上が可能です。
デメリットとしては、施設整備のイニシャルコスト、電気使用料等のランニングコストが高額で最大のネックとなります。複数の機材を使用するため故障等のリスクが相対的に高い事、ウィルス、魚病等が持ち込まれた場合や、停電等のトラブルが発生した場合、大きな被害が発生する可能性があります。
内陸で海水魚を育てる『農漁』の時代
今回のプロキシマーシーフード社の陸上養殖施設はすしネタとしても人気の「アトランティックサーモン」を生産します。富士山の伏流水を使い、サーモンの ふ化から加工まで行います。完全閉鎖式で外部の影響を受けず、水槽の水温をはじめ魚の成育に最適な環境を保ち、ふ化と成育を別の場所で行う従来型の海面養殖に比べて1年以上早く、22カ月で出荷サイズの5キロに育成させることが出来ます。
建設予定地は東名高速道路、新東名高速道路とのアクセスがよく、首都圏や関西、中部という大消費地に向けて新鮮な魚を供給でき、ノルウェーから空輸するよりコストを抑えられ、環境負荷も低いとの事です。
ヨアキム・ニールセンCEOは、大都市に近い立地や富士山麓の自然環境を挙げ、「養殖には最高のロケーション。最高鮮度のアトランティックサーモンを届ける。今後も伸びが期待できる日本市場の需要に応え、アジア市場への輸出を視野に、2万トンを生産する施設の建設構想があり、小山町に建設したい」と語りました。
『閉鎖循環型陸上養殖』は、低薬品の高品質の魚が、定時・定量・定質に供給できる事、しかも、場所も問わず、環境への影響も少ない為、デメリットに代えがたいメリットがあります。
「山に海魚を捕りに行く」
山の中の工場で海魚を大量に育てる。ちょっと宇宙世紀的な未来感のある話題だと思いますが、小山町の施設は1施設で日本のサケマス類の輸入量の2~3%を出荷する計画です。仮に同規模の施設を10箇所作れば輸入量の20~30%の生産量になり、現在のビジネスモデルが根底から覆るほどのインパクトが発生します。もはやトライアルの領域を超えて、本気でビジネスする予感しかありません。
今後、技術革新や規模の拡大によって生産コストがさらに下がれば、内陸で魚を育てる『農漁』の時代が本当にやってくるかもしれませんね。
Proximar Seafood Factory 施設概要
■建物概要
所在地:静岡県駿東郡小山町湯船下原1278‐11他(「D-Project Industry 富士小山Ⅰ」内)
交通:東名高速道路「足柄スマートインターチェンジ」より約10km(車で約20分)、JR東海御殿場線「駿河小山駅」より約5km(車で約10分)
敷地面積:56,762.26㎡(17,170.58坪)
建築面積:27,641.96㎡(8,361.69坪)
延床面積:27,901.85㎡(8,440.30坪)
構造・規模:鉄骨造・一部2階建て
建物用途:閉鎖型陸上養殖施設
事業主:Proximar(プロキシマー)株式会社(プロキシマーシーフード社100%子会社)
設計・施工:大和ハウス工業株式会社
着 工:2021年4月26日
竣工:2023年6月末(予定)
稼働開始:2023年度(予定)
海水魚の陸上養殖、これは初めて知りました!
『農漁』、どんどん普及してほしいですね。
JR西日本の陸上養殖クラウンサーモンのライバルですね。JR西日本の陸上養殖では既にお嬢サバ、白雪ひらめ、オイスターぼんぼんを展開していて、今年サーモンの出荷が始まっています。
https://www.westjr.co.jp/life/profish/crownsalmon.html