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建築と美意識で体感する“愛の讃歌”──大阪・関西万博2025 フランスパビリオン徹底レビュー【ルイ・ヴィトン・ディオール展示も紹介】


2025年4月13日から10月13日まで開催される大阪・関西万博。その舞台となる夢洲(ゆめしま)で、ひときわ異彩を放っているのが「愛の讃歌(Hymne à l’Amour)」をテーマに掲げたフランスパビリオンです。

大胆かつ詩的な空間構成、ラグジュアリーブランドによる文化展示、そして五感を刺激する味覚体験。感性と知性を同時に刺激する構成に、来場者からは「圧倒された」「理解しきれなかったが心に残った」といった感想が相次ぎます。



なぜ今、フランス館がこれほどまでに注目されているのか。なぜこれが“今世紀型のパビリオン”と呼ばれるのか──その答えは、表面的な豪華さではなく、空間に仕掛けられた「問い」にあります。本稿では、公式情報や建築コンセプト、LVMHの展示内容、食の演出、来場者の体験談までをもとに、フランスパビリオンの全貌に迫ります。

1. 建築とコンセプト──思想が織り込まれた“自然劇場”



建物の外観は、白いドレスを纏ったような優美な造形が特徴で、中央に配置されたローズゴールドの螺旋階段がひときわ目を引きます。他国のパビリオンとは一線を画すラグジュアリーな印象を放ち、来場者の多くが「まるでハイファッションのインスタレーションの中に迷い込んだよう」と感じる設えです。

筆者が実際に体験して感じたのは、まるで舞台作品の中に自分が入り込んでいるような没入感でした。フランスパビリオンの設計は、フランス政府系機関COFREXの監修のもと、建築事務所・コルデフィ(Coldefy)とカルロ・ラッティ・アソシエイト(CRA)が担当しました。建築面積は約1,560㎡で、延床は約2,000㎡近く。内部には常設展示スペースに加え、200㎡の企画展、130㎡のビストロ、150㎡のイベントスペースが設けられています。



展示動線は一筆書きのように地上から屋上へと続き、建築全体が物語を語る“舞台”として機能。外観は劇場のカーテンを思わせるベールで覆われ、内部では「自分への愛」「他者への愛」「自然への愛」の3つのテーマに基づいた空間体験が展開されます。



最上部には屋上庭園が広がり、山岳から海岸までフランス各地の自然風景を象徴的に表現。筆者自身も事前にはまったく知らず、屋上に出た瞬間に思わず声が漏れたほど驚かされました。この屋上庭園の存在は事前に知らない来場者も多く、「フランス館に屋上庭園があるとは!本当に驚きました」といった感想がSNSにも見られます。地上から天空まで一貫した思想をもつ建築は、パビリオンそのものが“詩”として機能しています。



さらに、展示後半にはモンサンミッシェルと厳島神社の鳥居をしめ縄で結ぶインスタレーションが登場。西洋と東洋、聖地と聖地を結ぶこの象徴的な表現は、日本とフランスの文化の融合を視覚的に示しており、他にも日本建築や意匠を取り入れた構成が随所に見られます。また、構造は解体・再利用を前提としたサーキュラーデザインであり、展示後は再配置や再活用も想定。気候変動への配慮や持続可能性に対するフランスの建築思想を体現する試みでもあります。

2. ルイ・ヴィトン、ディオール、セリーヌ──フランスの美意識と物語性



LVMHグループは本パビリオンのメインパートナーを務め、以下5つのメゾンが展示に参画しています:ルイ・ヴィトン、ディオール、セリーヌ、ショーメ、モエ・ヘネシー。

ルイ・ヴィトンは、OMAの重松象平氏が設計を手掛けた展示空間に、84個のワードローブトランクを配し、職人技の魅力を視覚と音響で体験できるインスタレーションを展開。展示の導入部では、筆者自身が体験したとおり、ジブリ作品『もののけ姫』のタペストリーと彫刻作品が来場者を迎えてくれます。世界的に評価されているジブリ作品とフランスのアートの出会いは、開始早々に心を掴まれる演出です。これはフランス文化と日本文化の象徴的な出会いであり、フランスによる日本文化への深いリスペクトを感じさせる演出です。



展示が進むにつれ、空間は一転して薄暗くなり、筆者自身も激しい閃光に目を奪われました。すだれ状に並んだライン型LEDが奥行きをもって構成され、その輝きが立体的に動き回るように感じられる、これまでにない映像体験でした。これまでにない感覚の映像空間に、観客からは「まさに体験型アート」との声も。



さらに進んだ先に登場するのが、ルイ・ヴィトンのトランクが整然と並んだ幻想的な空間。IRCAMとの共同制作によるサウンドトラックも臨場感を高めています。



ディオールは、「バー」ジャケットの展示を中心に、吉岡徳仁氏や高木由利子氏によるアート演出と映像詩でブランドのDNAを再解釈。建築家を志した創業者・クリスチャン・ディオールの思想が現代建築の中で再構築されています。

セリーヌは、日本の漆芸工房「彦十蒔絵」とのコラボで、漆塗りの“トリオンフ”アートピースを製作。限定バッグには黒・赤・金を用い、日本文化の象徴とクラフツマンシップの融合を表現しています。また、2025年9月1日からはショーメによる「自然美への賛歌」展も開催予定。自然主義のハイジュエラーとしての歴史と芸術的アプローチが紹介され、視覚・感覚・素材美に訴える展示となる見込みです。

3. メゾンカイザー×モエ・ヘネシー──味覚で触れるフランス


出典:メゾンカイザー公式HP

フランス館のビストロとベーカリーは、食文化においてもフランスの奥深さを伝えています。ベーカリーを手がけるのはメゾンカイザー。代表作であるクロワッサンやバゲットは、焼きたてで提供されることもあり、来場者から「香りだけで満足」「パン好きには天国」と高評価。

ビストロでは、シャンパン・メゾン「モエ・エ・シャンドン」や「ヴーヴ・クリコ」「ルイナール」などが並び、本格的なフレンチメニューとともに味わえます。自然派ワインのセレクションも豊富で、ワイン好きにとっては“発見の場”にもなっています。ただし、「パン1個で1,000円は高すぎでは?」という声や「ルクアでも買える」といった意見もあり、味と価格のバランスについては議論が分かれます。それでも、“万博の中でこの品質が楽しめる”こと自体が特別な体験として評価されています。

4. リアルな来場者の声──“戸惑いごと芸術”に昇華する空間



SNSや口コミサイトでは、フランスパビリオンに対して以下のような反応が確認されています:

 

「ヴィトンのトランク空間がかっこよすぎて言葉を失った」 「ジブリ展示があるなんて知らなかった!もののけ姫のタペストリーで感動」
「展示の意味がよくわからないところもあった。芸術性が高すぎる?」 「夜に行ったら待ち時間ほぼゼロ。昼は激混みだった」

展示の意図を受け止めるには事前知識や読解力が必要な面もあり、「公式サイトなどで背景を知っておくともっと楽しめる」との声も多く見られます。一方で、「説明が少ないからこそ想像力を刺激された」「わからなさすらもアートだった」と捉える声もあり、多義的で解釈の幅が広い構成が特徴です。

5. 総評──問いと詩の間にある、フランスの知的な余白



筆者自身の体験として、展示の一つひとつが感情や記憶に訴えかけてくる構成に驚かされました。しかし、それ以上に印象に残ったのは、このパビリオンが建築や芸術の文脈において非常に野心的な挑戦であるという点です。

フランスパビリオンは、建築、芸術、工芸、ファッション、食といった要素が一体化した“総合芸術”として成立しています。量ではなく密度、娯楽ではなく問い。「愛の讃歌」というシンプルな言葉の裏には、自分自身や他者、自然、社会との関わりを静かに見つめ直す哲学的テーマが通奏低音のように響いています。



そこには即物的なエンタメはありません。フランスはかつて、パリ万博やリヨン博でも“国の哲学を空間化する”という展示建築のアプローチをとってきましたが、本パビリオンもその系譜に連なるものです。物量ではなく、言葉と構成、動線と演出で、国家のアイデンティティを提示する。その点で、2025年会場における最も思想的な建築と呼ぶにふさわしい構成だと感じました。しかし、じっくりと空間に身を置くことで、訪れた者の感性と知性を豊かに耕してくれる。そんな“知的な余白”が、このパビリオンの最大の魅力なのです。

万博を巡るなかで、ふと立ち止まりたくなったとき。「美しさ」と「問い」が交差するこの場所で、静かに自分と向き合ってみてはいかがでしょうか。




出典・参考リンク

1 COMMENT

ガンマ

写真の構図がメチャクチャ上手くてきれいですね!

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