【再都市化ナレッジデータベース】←新規情報やタレコミはこちらのコメント欄にお願いします!

都市は誰のものか?大阪『なノにわ』に見る包摂型都市デザインの可能性と、東京のジェントリフィケーションとの対照構造

2025年3月28日、古代宮殿跡である難波宮跡公園の北部ブロックに、新たな商業施設『なノにわ』が開業しました。大阪市における初のPark-PFI制度活用案件として誕生したこの施設は、史跡の保存とにぎわいの創出を両立させた公共空間として注目を集めています。都市の余白を活かし、市民が主役となる「みんなの庭」が今、歴史と未来の交差点に誕生しました。

難波宮跡と都市再生──民活を導入し持続可能な公園へ


大阪市中央区に位置する難波宮跡は、大化元年(645年)に創建された古代日本の宮都であり、延暦3年(784年)に平安京へ遷都されるまで、約150年にわたり首都または副都として機能しました。国の史跡にも指定されており、その価値は極めて高いものの、北部ブロックは長らく未整備の状態が続いていました。

この状況を打破したのが、2017年の都市公園法改正によって導入された「公募設置管理制度(Park-PFI)」です。民間事業者が収益施設を設置・運営し、その収益をもとに公園の整備・維持管理を行うこの制度を活用し、大阪市はNTT都市開発を代表とするグループ(NTTアーバンバリューサポート、NTTファシリティーズ)を事業者として選定。「みんなのにわ なにわのみや」をコンセプトに整備が進められました。

対象地にはかつて、1936年に建設されたNHK大阪放送会館が立地していましたが、老朽化のため解体。その跡地は一時的に駐車場として利用されていたものの、長らく再開発が進まず、都心部に残された“都市の余白”となっていました。

『なノにわ』──歴史・自然・食が交わる共創の場


『なノにわ』は建物面積約1,817㎡、4棟構成の平屋建て商業施設で、飲食・カフェ・スイーツなど全13店舗が出店。そのうち9店舗が商業施設初出店、2店舗が新業態となっています。すべての店舗でテイクアウトに対応しており、芝生広場やテラス席と連携した開放的な空間づくりが特徴です。

注目の出店には、大阪市内初進出となる人気ベーカリー「Sunny Side」や、株式会社パピーユが手がける新業態のワインレストラン「RAINDROP」があります。RAINDROPでは、日本各地のサステイナブルな生産者の食材を使用し、シンプルかつ大胆な料理を提供。クラシカルからナチュラル、日本ワインまで多彩なラインナップを揃え、気軽なスタンディング席やテイクアウトにも対応しています。

ARで蘇る古代宮殿──NaniwaARの導入


公園内には、後期内裏正殿や回廊跡を示す整備に加え、AR技術を活用した「NaniwaAR」が導入されています。来園者はスマートフォンで園内のQRコードを読み取ることで、古代の建築物を3Dでバーチャル体験可能。歴史的価値を視覚的に理解しながら学べる、現代ならではの史跡活用が実現しました。

また、環境配慮の取り組みとして、芝刈りロボットやEV充電器、太陽光街路灯も整備。未来志向の都市公園モデルとしても注目されています。

Park-PFI制度が切り開く公共空間の可能性


『なノにわ』は、大阪市が初めてPark-PFI制度を本格的に適用したプロジェクトです。これまで大阪市では、天王寺公園「てんしば」やうめきた2期の「グラングリーン大阪」など、官民連携による開発が行われてきましたが、これらは指定管理者制度や特定事業制度に基づいていました。

Park-PFIは、民間資本の力を借りながらも、公共性を保った都市空間を創出できる制度として、今後の都市公園整備の新しいモデルとなりうる可能性を示しています。

都市は誰のものか?


『なノにわ』の開業は、大阪における都市空間の再構築のひとつの答えであり、また新たな出発点でもあります。ここで注目すべきは、単なる商業施設の整備にとどまらず、歴史の保存、文化の継承、現代技術の導入、市民参加、そして官民連携という多層的な要素が高い次元で結びついている点です。

まず、史跡である難波宮跡の保全という大前提のもと、AR技術を活用して歴史を立体的に再現し、訪れる人々に没入体験を提供することで、過去と現在をつなぐ教育的価値が加わりました。さらに、地域に根ざした飲食店の誘致や、すべての店舗がテイクアウト可能という柔軟な運営方針により、にぎわいと共に市民の日常生活にも自然に溶け込む設計となっています。

加えて、Park-PFI制度という新たな枠組みを通じて、民間事業者が主体的に公共空間の整備と管理に関わることで、財政的持続可能性と公共性の両立という都市政策上の難題にも一定の解を提示しています。これはまさに「制度」と「現場」の融合であり、制度が理念に留まらず、実際の空間として具現化された稀有なケースといえるでしょう。

このように『なノにわ』は、都市がいかにして「市民のための場所」となりうるかという問いに対し、歴史・文化・経済・技術を横断した総合的なアプローチで、大阪ならではの答えを提示しています。

一方で、首都・東京では近年、再開発を契機としたジェントリフィケーション(高所得層による地域の高級化と、低所得層や既存住民の排除)が大きな社会問題として顕在化しています。特に都心部では、タワーマンションや高級商業施設を中核とした超高層再開発が急速に進行し、かつて地域を支えていた中小商店や個人経営の飲食店が立ち退きを余儀なくされる事例が相次いでいます。

この動きは、都市の国際競争力強化や不動産価値の最大化といった政策目標のもとで進められており、「住む人」ではなく「投資対象」としての都市が優先されているとの批判も根強く存在します。実際、地価の高騰によって、従来その地域に暮らしていた住民が生活の場を失い、文化的多様性が喪失されるという副作用が各地で観察されています。

さらに、再開発によって生まれた新たな都市空間は、居住者や利用者を高所得層に限定する設計になりがちであり、地域コミュニティの断絶や排除を助長する構造が内包されています。こうした開発は、一見すると洗練された都市景観を生むものの、「誰もが使える公共空間」を縮小させ、日常的な交流や多様な営みを許容する余地を狭めているのが現状です。

つまり、東京における都市開発は、経済合理性や外資誘致を優先するあまり、都市が本来持っていた包摂性や公共性を損なうリスクと常に背中合わせにあるのです。

比較で見えてくる東京と大阪の都市戦略


大阪においては、東京に比べて地価が相対的に低く、都心部にも旧貨物ヤードや公的未利用地といった“余白”が多く残されていたことから、こうした空間を活用した公共的な都市開発が行いやすいという地理的・構造的な強みがあります。

さらに、道頓堀川沿いの「とんぼりリバーウォーク」や、かつての「御堂筋パレード」、現在の御堂筋イルミネーションなど、市民参加型の文化が根付いている点も見逃せません。2022年のオリックス・バファローズの優勝パレードには13万人以上が訪れたことからも、市民と公共空間の強い結びつきが見て取れます。

大阪には、こうした文化的・社会的な土壌があるからこそ、『なノにわ』のような共創型プロジェクトが実現しやすいのです。行政や事業者も、無料・開放型の空間づくりに積極的であり、都市空間が“共有される場”として機能し続けることが、大阪の都市づくりの本質だといえるでしょう。
観点 東京 大阪
都市戦略 グローバル競争、外資誘致 市民共創、地域文化重視
地価・空間 高騰・密集 比較的安価・余白あり
公共空間の設計 商業主導・限定的 開放型・参加型
再開発の主体 民間主導・ブランド重視 官民共創・賑わい重視
 

抱える環境や条件に最適化した結果



国の強力なバックアップと財閥系デベロッパーを中心に、信じられない規模と速度で進む東京の再開発。その一方で、東京一極集中の影響により地方都市は拠点性が低下しました。大阪も例外ではなく、長らくオフィス需要の停滞に直面し、再開発の進展が緩慢でした。その結果、多くの「都市の余白」が生まれましたが、この余白こそが、大阪における再開発を独自の方向に導いた要因となりました。近年の「グラングリーン大阪」などのプロジェクトは、この余白を逆手に取った柔軟かつ創造的な都市再生モデルと言えます。

つまり、東京と大阪の差は優劣ではなく、それぞれが抱える環境や条件に最適化した結果として現れているのです。東京がグローバル競争力を追求し超高層化や高級化を進めたのに対し、大阪は公共空間の活用、市民参加型の共創を重視しました。

都市とは市民のための共通の庭

都市の本質は、市民が日常生活を送るための共有空間、すなわち「共通の庭」であるべきです。『なノにわ』はその思想を具現化した施設であり、歴史的価値を守りつつ、地域文化の継承や市民が自由に集える空間づくりを実現しました。商業性だけではなく、教育的価値、環境配慮、市民の参加意識を取り入れた多様な視点で整備され、都市が「住む人のための場所」となる可能性を提示しています。

『なノにわ』が今後も市民に愛され、歴史と未来をつなぐ象徴的な場所として発展していくことが期待されます。

2 COMMENTS

ガンマ

タテだけではなくヨコに広がる街並みや記載されている賑わい、文化、開放型の街づくり。
これに国際金融都市、IRとどんどん次へと進んで日本の中でも更に特徴ある都市を築いてほしいです。
日本国中の駅前にあるリトル東京ではやはりダメですよね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です