大阪府は2025年7月28日、咲洲(さきしま)庁舎(大阪市住之江区)における新たなホテル事業者として、株式会社アベストコーポレーション(本社:神戸市)を選定したと発表しました。
府とアベストは今後3か月以内に15年間の定期建物賃貸借契約を締結する予定で、対象区画は旧「さきしまコスモタワーホテル」跡の高層階11フロアです。**月額賃料は60,010,400円(税抜)**に上り、年間では約7.2億円に達する高額条件となっています。
運営実績豊富なアベスト、咲洲での新拠点整備へ
出展:アベストコーポレーション
アベストコーポレーションは、全国で22か所の宿泊施設を運営する独立系ホテル運営会社で、2003年に設立。本社は神戸市中央区に構え、ホテル事業を主軸に、不動産、飲食、ペット、ITなど多角的なサービスを展開しています。
売上高は2024年3月期で約66億円、2025年3月期は約88億円の見込みとされ、堅調な成長を続けています。
今回の計画では2025年内の開業を予定しており、当初は263室でスタートします。将来的には2030年秋ごろに予定されている統合型リゾート(IR)の開業を視野に、需要の高まりに応じて段階的に客室数を拡大していく方針です。
平均客室単価(ADR)は2万円前後を想定し、主に訪日外国人観光客(インバウンド)を主要ターゲットとしています。
さきしま旧ホテル跡、40億円滞納からの再起動
このホテル区画には、かつて「さきしまコスモタワーホテル」が2019年1月に開業し入居していましたが、同年10月頃から賃料滞納が発生。その後も改善が見られず、大阪府は2022年に訴訟を提起しました。
2023年3月には大阪地方裁判所が未払い賃料の支払いと明け渡しを命じる判決を下し、同年6月に大阪高裁で確定。最終的な滞納総額は約40億円に達し、2024年10月にホテルは閉館。対象区画となる11フロアは以降、長期間にわたり空室状態が続いていました。
この経緯を受け、大阪府は新たな事業者公募にあたり、資金計画や運営実績、財務健全性など“信頼性”を重視した審査方式を導入しました。短期的な利益回収よりも、中長期的視点での継続可能な運営体制を築けるかどうかが、評価の重要なポイントとされました。
高額賃料の妥当性と先行投資型モデルの採用

アベストが運営する「神戸ポートタワーホテル」の客室例
今回提示された月額6,001万円という賃料水準は、ホテル業界においても極めて高額です。仮に263室、平均客室単価2万円、稼働率70%で運営した場合、月間の客室売上は約1億1,000万円と見込まれます。
これに対し賃料が6,000万円であれば、売上に占める家賃比率は54〜57%前後となり、一般的な水準(15〜35%)と比較しても非常に高負担な構造となります。
ただし、今回のケースでは居抜きでの施設再活用によって初期投資を抑制できること、長期契約によりIR開業までの時間軸を確保できること、さらに眺望価値の高い高層階を活用できることなどから、アベスト側は単年度収支ではなく、中期的な「先行投資型モデル」としての判断を下したと見られます。
咲洲再浮上の布石となるか
咲洲庁舎は高さ256mを誇る西日本屈指の高層ビルであり、ホテルフロアからは大阪湾、夢洲、梅田方面まで一望できるパノラマビューを備えています。今後のブランディング次第では、こうした立地特性を活かした“ビューホテル”としての差別化も十分に可能です。
一方で、咲洲地区は現在、観光地としての認知度が高いとはいえず、平日や閑散期における稼働率の維持には課題も残されています。前事業者が撤退に至った経緯も踏まえれば、明確なターゲティング戦略とキャッシュフロー管理の徹底が不可欠です。
咲洲の未来を担う宿泊インフラの第一歩

大阪府が設定した15年間という長期契約には、短期回収型のビジネスモデルを排除し、地域と共に歩む中長期パートナーを選定するという意図が込められています。今回、複数の応募の中からアベストが選ばれた背景には、同社の安定した運営実績、資金調達能力、インバウンド需要への高い対応力などがあったと考えられます。
今後は2030年秋のIR開業、交通インフラの整備進展などを追い風に、咲洲エリアの価値向上が期待されます。今回のホテル開業は、湾岸エリアの再生を支える宿泊インフラ整備の第一歩であり、地域に新たな民間投資を呼び込む起点としても、重要な役割を担うことになりそうです。