【再都市化ナレッジデータベース】←新規情報やタレコミはこちらのコメント欄にお願いします!

JR東海、一般型ハイブリッド車「HC35形」を発表 キハ75形を更新、環境対応とコスト合理化を両立


JR東海は2025年9月10日、在来線普通列車向けに新型ハイブリッド車両「HC35形」を新製し、2028年度から順次導入すると発表しました。投入区間は快速「みえ」が走る関西本線の名古屋~伊勢市・鳥羽間や、高山本線の岐阜~下呂間、太多線の美濃太田~多治見間。製造から約30年が経過したキハ75形を置き換える形で、2両編成19本(計38両)が投入されます。

老兵に別れを告げる ― キハ75形の世代交代

出典:Wikipedia

キハ75形は1993年にデビュー。最高速度120km/hを誇り、快速「みえ」や高山本線の普通列車で長年活躍してきました。しかし製造から30年が経過し、老朽化に伴う修繕コストの増加が課題となっていました。特に推進軸や変速機といった気動車特有の回転部品は、故障時に長期運休につながりやすく、維持管理の負担も大きいとされます。HC35形はこうした課題を解消し、次世代の基幹車両としての役割を担います。

特急で実証済みの技術を“普通列車”へ

 HC35形は、ディーゼルエンジンで発電した電力とバッテリーを併用し、モーターで走行する「電気式ハイブリッド方式」を採用。すでに特急「ひだ」「南紀」向けに投入されているHC85系で実績を積んだ技術を、一般型車両に展開します。

この方式は、従来の機械式気動車に不可欠だった推進軸や変速機を廃し、駆動力をモーターに一本化。加減速はより滑らかで静粛性が高まり、振動も軽減されます。さらに重要部材を減らすことで溶接部も少なくなり、構造的な信頼性も向上します。加えて、状態監視システムを搭載し、台車やモーターの異常を遠隔で把握できる仕組みも導入。保守作業の効率化と安全性の両立を図ります。

燃費+35%、CO₂−30% ― 数字で示す環境性能

HC35形は、キハ75形と比較して燃費を約35%改善。CO₂排出量を約30%、NOx排出量を約40%削減する見込みです。これは非電化区間の環境性能を大幅に引き上げるものであり、電化に匹敵する効果を車両更新のみで実現できる点が注目されます。

最高速度は従来同様120km/hを維持しつつ、ハイブリッド方式では国内最高性能を誇ります。関西本線の「みえ」で速達性を確保し、高山本線の山岳区間でも安定した運行が期待されます。

「夏でも快適」冷房強化とバリアフリーの進化

車内設備も大幅に強化されます。冷房能力は従来比16%アップし、AIによる温度補正機能を導入。混雑時の冷房効き不足を改善します。

座席配置は線区ごとに最適化され、快速「みえ」には転換クロスシート1両+ロングシート1両を組み合わせて観光・通勤双方に対応。高山本線・太多線には輸送効率重視で全車ロングシートを導入します。

加えて、各車両に車いすスペースを設け、各編成に1か所の車いす対応トイレを設置。防犯カメラの標準装備とあわせて、安心・安全・バリアフリーの三拍子が揃います。

電化よりも安く、電化に近づく ― JR東海の狙い

出典:日本車輌製造 JR東海殿 HC85系

東海地域の在来線には、非電化区間が依然として広く残ります。全線電化には莫大な設備投資が必要で、架線・変電所・保守要員まで含めると数百億円規模の負担となります。人口減少や輸送需要の縮小が進む地方線区では、投資回収の見込みが立ちにくいのが実情です。

一方でハイブリッド車両は、既存インフラを活用したまま大幅な環境性能改善を実現できます。車両の導入コストは数十億円規模で済み、維持管理も従来車より省力化できるため、コスト合理化と環境配慮を両立可能です。リニア中央新幹線への巨額投資を控えるJR東海にとって、在来線に効率的に投資しつつ「環境対応企業」としての社会的責任を果たす最適解が、ハイブリッド方式の積極導入なのです。

他社の事例と比較する「ハイブリッド戦略」

出典:JR東日本 GV-E400系気動車

JR東日本は2007年にキハE200形を投入し、現在はGV-E400系を量産。JR四国も2025年に量産先行車を投入予定で、各社がハイブリッド化を進めています。

ただしJR東日本・四国のハイブリッド車は主にローカル線用で最高速度は100km/h前後。一方でHC35形は特急並みの120km/hを維持し、快速運用に耐える性能を持つ点が大きな違いです。輸送密度の高い線区で高速性と省エネを両立するのは、国内でも先進的な取り組みといえます。

在来線の未来像を変える「HC35形」の意味

HC35形は、在来線の環境性能を一気に引き上げると同時に、観光と通勤を両立する「座席ミックス」の設計思想を打ち出しました。老朽化したキハ75形からの置き換えは、単なる世代交代にとどまらず、電化に依存しない次世代ローカル輸送のモデルケースとなりそうです。






出典

  • JR東海ニュースリリース「ハイブリッド方式の新形式車両『HC35形』の新製について」(2025年9月10日)

  • 鉄道コム「JR東海、ハイブリッド式の一般車『HC35形』を発表 2028年度から順次導入」(2025年9月10日掲載)

  • 乗りものニュース「JR東海の快速『みえ』に新車投入へ」(2025年9月10日掲載)

  • 鉄道プレスネット「JR東海、キハ75形をHC35形で更新へ」(2025年9月10日掲載)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です