リアルな感動体験が広がる大阪・関西万博。その中でも、海をテーマにしたスペイン館が際立った存在感を放っています。
大阪・関西万博は開幕以降、SNSでは「予想以上に楽しい」「まるで世界旅行」といった声が急増し、実際に訪れた人々による肯定的な評価が広がりつつあります。なかでも注目を集めるのが、太平洋を流れる黒潮(Kuroshio)をテーマに据えた「スペイン館」。スペインと日本の長年にわたる海を越えたつながりを出発点に、建築・展示・食・舞台芸術が一体となった空間を創出。持続可能な未来の可能性を五感で体験できる、“未来をつなぐパビリオン”として注目を集めています。敷地面積は約1,500㎡、建物の高さは約15m。光をまとった外観は、「もっとも写真映えするパビリオン」としてSNSでも大きな話題を呼んでいます。
「黒潮」が結んできたスペインと日本──海が育んだ歴史と未来
16世紀から続くグローバル交流を、未来社会のヒントとして再構成。スペイン館の中心テーマは「黒潮」。この大海流は、かつてフィリピンとメキシコを結んだマニラ・ガレオン貿易の航路として活用され、アジア・アメリカ・ヨーロッパを結ぶ国際交易の大動脈として発展しました。黒潮が運んだのは物資だけではありません。人、文化、宗教、技術といった多様な価値が海を越えて行き交い、スペインと日本のあいだにも深いつながりが生まれていきました。
仙台とスペインを結ぶ400年の絆──支倉常長と慶長遣欧使節
スペイン館の背景には、壮大な国際交流の原点があります。1611年、スペイン船「サン・フランシスコ号」が日本近海で遭難した際、地元住民が乗組員を救助。この出来事を契機に、仙台藩主・伊達政宗は家臣の支倉常長(はせくら・つねなが)を大使とする「慶長遣欧使節」を派遣し、日本とスペインの外交関係構築を目指しました。支倉一行は太平洋を越え、メキシコを経由してスペインへと渡航。マドリードではフェリペ3世、さらにローマでは教皇パウルス5世とも謁見を果たしました。7年におよぶ壮大な航海の末に、日本と西洋世界との本格的な外交の扉が初めて開かれたのです。この歴史は、現在も仙台市とスペイン・セビリア市との都市間交流として受け継がれており、スペイン館の展示の中でも、この使節団の足跡が丁寧に紹介されています。
建築──太陽と海が織りなす、きらめくファサード
光の反射を表現したデザインと、映像演出による“体験する建築”
建築デザインは、「海と太陽の出会い」がモチーフ。ファサードには、水面に反射する陽光のようなきらめきが施され、柔らかな光をまとった幻想的なたたずまいが印象的です。設計はネストル・モンテネグロ建築事務所、Enorme Studio、Smart and Green Designの3チームによるもので、スペイン政府の文化機関AC/Eが2023年に実施した設計コンペを経て選ばれました。
正面には太陽を象った半円形の間口を持つステージが設けられ、その背後には高輝度LEDビジョンが設置。日中でも視認性が高く、逆光を活かして“影絵”のようなシルエット写真が撮影できると人気を集めています。ステージ前では、来場者が思い思いのポーズで撮影を楽しむ姿が多く見られます。
展示──海と未来をめぐる体験型の旅
伝統と先端技術が交差する、没入型のストーリーテリング。展示空間は、「太陽の広場」と呼ばれるエントランスから始まります。巨大スクリーンに映し出されるスペインの自然やアートが、来場者を“海の物語”へといざないます。内部では、黒潮が育んだ文化交流の歴史と、海洋技術やブルーエコノミーに関する未来志向の展示が展開されています。藻類を活用したバイオ燃料、ホログラムによる風力発電の解説、文化財の保存技術──すべてに「海とともに生きる」という視点が貫かれています。サン・フランシスコ号の遭難救助、慶長遣欧使節団の旅といった歴史的エピソードも映像やパネルで紹介されており、過去と未来をつなぐ“航海のような体験”が広がっています。
レストラン──「Etxola」が届ける18のスペインの味
各地域の食文化を凝縮した、スペイン“食の地図”
出典:Etxola
館内のレストランでは、大阪・靱本町のバスク料理店「Etxola(エチョラ)」がプロデュースするスペイン料理が味わえます。メニューは、スペイン本土17の自治州に、北アフリカのスペイン領セウタ・メリリャを加えた計18地域のタパス(小皿料理)で構成。また、スペイン産のワインやクラフトビール「マオウ(Mahou)」も提供され、スペインの“食の多様性”を体感できます。万博開幕から連日大盛況で、グルメファンからも高い支持を得ています。
芸術体験──「フラメンコ・リアル」で魂を揺さぶる

五感を貫く、生きたスペイン文化の真髄。スペイン館のもう一つの目玉は、王立劇場(Teatro Real)による「フラメンコ・リアル(Flamenco Real)」公演です。2025年4月22日から10月12日までの期間中に、約450回以上開催が予定されています。
情熱あふれるステップ、ギターの旋律、魂を揺さぶる歌声──ライブパフォーマンスならではの迫力は圧巻。私自身も観覧しましたが、ステージの熱量と観客の一体感が重なり合い、ショーが佳境を迎えるころには会場全体が“ひとつのうねり”になっていました。やはり、スクリーン越しでは決して味わえない“リアルな体験の価値”を、全身で感じる時間でした。スペイン館のメッセージ──海から未来への“つながり”

気候変動・再生可能エネルギー・文化共生──答えは“共感と共創”にある。スペイン館を貫くメッセージは「つながり」。黒潮が生んだ国際交流を通じて、現代社会が直面する課題に対して、人と人、国と国が共鳴し合うことの重要性を伝えています。技術や経済だけでは解決できない問題に対し、スペイン館は感性・芸術・文化の共創によって、未来への希望を描く場となっています。
おわりに──スペイン館は“海の旅”の出発点

大阪・関西万博を訪れるなら、スペイン館は間違いなく見逃せないスポットのひとつです。建築・展示・食・舞台芸術のすべてが、海を越えて運ばれてきた文化の結晶であり、「つながり」の価値を五感で再認識させてくれます。
スペインと日本、過去と未来、海と大地──スペイン館は、それらをやさしく結び直す“海の旅”の出発点。ぜひ、あなた自身の感覚で、その物語にふれてみてください。
出典・参考資料一覧
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大阪・関西万博2025公式サイト
https://www.expo2025.or.jp/
– スペイン館の概要、各国パビリオン紹介、公式公演情報(フラメンコ・リアルなど) -
スペイン外務省/スペイン貿易投資庁(ICEX)
https://www.icex.es/
– パビリオン設計に関する公募情報、AC/E(Acción Cultural Española)の公的支援内容 -
Enorme Studio / Smart & Green Design / Néstor Montenegro Arquitectura(建築設計チーム)
https://www.enormestudio.es/ ほか
– スペイン館の建築コンセプトと受賞デザイン案 -
フラメンコ・リアル(Teatro Real公式)
https://www.teatroreal.es/
– フラメンコ・リアルの公演内容、出演者情報、回数スケジュール -
Etxola(エチョラ)公式サイト
https://www.etxola.jp/
– レストラン運営者、メニュー構成、出店情報 -
仙台市公式サイト/慶長遣欧使節団史料館(サン・ファン館)
https://www.city.sendai.jp/
– 支倉常長・慶長遣欧使節団に関する史実、セビリア市との友好都市関係 -
スペイン大使館(日本)公式情報/文化広報室リリース
https://www.exteriores.gob.es/Embajadas/tokio/
– 使節団、文化交流イベント、万博出展の趣旨 -
『慶長遣欧使節団の記録と遺産』(国立公文書館/日本スペイン交流史)
– 歴史的背景、外交文書、航路・滞在記録の学術的検証