大手広告代理店の電通グループは、東京都港区の汐留にある本社ビルの売却を検討していることを明らかにしました。新型コロナウイルスの影響で社員のテレワークが進む中、オフィスの利用方法を見直すとともに、売却によって得た資金を事業構造改革などにあてる狙いがあります。電通本社ビルには、グループの社員およそ9000人が勤務していますが、テレワークの導入で最近では出社率が2割以下にとどまり、余剰スペースが発生していました。電通は本社ビルを売却したあともビルをオフィスとして借りる方針で『本社の移転は考えていない』としています。
「電通本社ビル」は、東京港区のJR新橋駅に近い地上48階、地下5階、高さ213.3m、延床面積231,701㎡の超高層ビルで、大手広告代理店の電通が本社機能を置くほか、商業施設「カレッタ汐留」等が入居しています。
オフィス棟はフランスの建築家ジャン・ヌーヴェル、商業施設部分はアメリカの建築家ジョン・ジャーディがデザインを担当しました。周囲の景観およびビルで働く社員がウォーターフロントを眺められるよう、浜離宮庭園に面した南側を曲面とした、ブーメラン状の断面が採用されました。ビルのデザインコンセプトは、岩のように堅固な大地に透明感あふれるクリスタルがそびえる「クリスタル・アンド・ロック」。オフィス棟は、他に類を見ないブーメラン形の平面形状を持ち、見る位置によってさまざまにその姿を変えて行きます。

「電通本社ビル」の帳簿価格は1800億円余りですが、売却価格はこれを上回り、国内の不動産取引としては過去最大級の3000億円規模になるとみられます。ビルの売却については、1月中にも優先交渉先を選び本格交渉に入るもようで金融機関や不動産会社、投資ファンドが買い手候補として挙がっているそうです。電通は新型コロナの影響で広告市場が縮小したことから2020年8月にコスト構造の変革、バランスシートのさらなる効率化などに着手しましたが、2020年1〜9月期の営業利益は185億円で、前年に比べ半減しています。
コロナ禍の影響により、テレワークなど働き方の多様化を進める動きがあり、オフィス空間のあり方が見直されつつあります。また、さまざまな業界が悪影響を受け保有資産の見直しを進める一方で、これを機に放出される不動産の取得に前向きな動きが出てきています。コロナ禍というこれまで考えられなかった「ブラックスワン(Black Swan)イベント」により、今後もドラスティックな動きが出てきそうです。



