北海道の空の玄関口、新千歳空港など道内の主要7空港(新千歳、稚内、釧路、函館、旭川、帯広、女満別)は2020年1月に民営化されました。今回の民営化は、空港施設の所有権を国や道など空港管理者に残しつつ、民間事業者に運営権を一定期間売却する「コンセッション方式」が採用されました。広域エリア内の7つもの空港を一度に民営化し、一体的に運営する取り組みは全国初となります。
民営化の担い手は三菱地所や東急など北海道内外の企業17社が出資する北海道エアポート(HAP)で20年1月に7空港のターミナルビル運営に着手し、6月からは新千歳の空港運営がはじまりました。運営期間は2049年までの30年間で運営権は計2920億円。7空港の総投資額は約4290億円を予定しています。
【出展元】
→事業計画のアウトライン
→中期事業計画(2020~2024年度)
→2021年度事業計画
→国際線ターミナル地域再編事
→新千歳空港の誘導路複線化事業について
HAPが運営する7つの空港は、これまで、それぞれの旅客ビル会社がビルの運営を行っていましたが、管理者の異なる各施設を一つの事業者に集約し一括運営を行い、民間の経営ノウハウを生かしつつ、より効率的で柔軟な空港運営や広域的な観光振興による地域経済の活性化を目指します。
基本戦略として、7空港の役割分担に応じたターゲット路線の設定、LCC誘致による新規需要の拡大、道内オープンジョー(複数都市をまわる旅行形態)による広域観光促進を挙げています。新千歳空港に就航する長距離路線で遠方からの集客を図り、スポークとなる6空港に送客する方針です。HAPは、30年後の目標値として、7空港の路線数を現状の60路線から142路線、7空港旅客数を現状の2,846万人から4,584万人と設定しています。
コロナ禍で厳しい船出
HAPによる運営が始まった道内7空港ですが、コロナ禍の影響により厳しい状況が続いています。HAPが発表した2021年度事業計画によると今年度の旅客目標は7空港で計1665万人で、中期事業計画で掲げていた当初目標3213万人から大幅に下方修正されました。また、7空港への投資額は58億2千万円で、当初計画の104.7億円から4割以上減らされました。
7空港の旅客数は2019年度が2806万人→コロナ禍が直撃した2020年度は800万人強→2021年度は1665万人を見込んでいます。今年度は収束に向かい、国内線を中心に一定程度回復する予想です。21年3月期の営業損益は202億円の赤字で、2022年3月期は221億円の赤字に拡大する見通しです。
国は昨年12月に、運営権対価の支払いの一部先送りや運営期間の1年延長などの支援策を発表しましたが、同社は、投資資金の回収にはさらなる運営期間の延長が欠かせず「少なくとも5年は必要だ」とし、今後国と協議する方針です。
第3旅客ターミナル(T3)が計画されている!
厳しい状況下で暗い話題が多いので、コロナ禍が過ぎ去った後の明るい未来の話題をお伝えします。
民営化された新千歳空港は将来的な旅客数を3537万と見込んでおり、それに向けて空港設備の増強が行われます。具体的には第3旅客ターミナル(T3)の建設です。コロナ禍前の関西空港も旅客ターミナルの処理能力が限界に達していましたが、新ターミナルビルの建設は先送りにされ、T1の大規模改修が行われる事になりました。その状況で、新千歳空港に新ターミナルビルの建設計画がある事を知って驚きました。
コロナ禍でもインフラ整備がジワジワ進む
北海道開発局 札幌開発建設部は、新千歳空港誘導路複線化で進めている末端取り付け誘導路複線化について、2022年度にも南側の工事を本格化させる見通しです。同誘導路は南北に設置を計画しており、現在は北側部分を優先的に施工中。北側部分は20年度に着工し、21年度は新千歳空港北側末端取り付け誘導路新設ほか、新千歳空港誘導路新設ほかの工事2件を進める予定となっています。
末端取り付け誘導路は、既存の滑走路(A・B滑走路)2本と平行誘導路(D誘導路)1本を縦貫する取り付け誘導路を南北に2本整備する計画。除雪車両が航空機通行の影響を受けずに滑走路から誘導路に移動できるため、滑走路の閉鎖時間短縮につながります。行誘導路では、A・B滑走路とD誘導路の南側に、約1500mの誘導路を新設。これにより駐機場へ引き返す航空機が滑走路を占有するケースを解消できます。当初、取り付け道路は22年度、平行誘導路は25年度の完成を予定していたが、滑走路運用との兼ね合いや現場の状況変化などから現在は未定です。
エアライン受入環境の整備
※以下の計画はコロナ禍前に策定されたマスタープランの内容です。今後変更修正が行われる可能があります。
HAPは、30年後の目標値の達成に向けて、基幹空港となる新千歳空港への積極的な投資を打ち出しました。運営開始当初は、国内線旅客ビル施設の到着階拡張や搭乗待合室の混雑緩和、JR新千歳空港駅からの縦導線改善等、既存施設の利便性向上に優先的に投資する方針です。
さらに、運営開始から5年後から10年後までの間に国内線、国際線共用の旅客ビル施設(T3)を新設し、エアラインの拠点化を促進すると共に、十分な空港容量を確保する計画を打ち出しており、第3旅客ターミナル(T3)が計画されている事が明らかになりました。投資額は約612億円を想定しています。
また、現在の国内線ターミナルと国際線ターミナルの連絡通路部分に「交通観光センター」を設置し、二次アクセスへの乗継利便性向上と交通・観光情報提供の一元化を実現するほか、専用道を設けたBRT により「交通観光センター」と「T3」や隣接する「駐車場」を接続し、快適な移動手段が提供されます。この他にも、ビジネスジェット専用施設やホテル・従業員施設をを新設するほか、ケータリング施設の移設、国際貨物ビルの拡張整備が計画されています。
航空ネットワークの充実
他の6空港では誘致が困難な長距離路線、アジアの地方都市路線を拡充する計画で、長距離アジア地方都市への路線を重点的に誘致するほか、東南アジア各都市への路線をオフピーク時間に戦略的に誘致します。
2024年までに東アジアや東南アジア路線の拡充や、ヨーロッパやオーストラリア路線の新設、2025年から2037年の間にアメリカ路線の就航を目指し、30年後には欧米豪への路線を、現状の3路線から8路線へ拡充させたいとしています。東アジア主要都市への路線は分散対象路線として旭川や函館への就航を促します。
これにより、新千歳空港の旅客数は、2017年度の2,309万人から、2024年度には2,783万人、2049年度には3,537万人に増加することを見込見込んで居ます。
HAPは不確定要素が大きい為、2024年までの中期計画の見直し内容をまだ発表していませんが、報道によると運営期間の5年延長を求めた上で、計画の見直しを行いつつ必要な投資を行う事をを示唆しています。コロナ禍で投資スケジュールは先送りになりますが、永遠にコロナ禍が続く事は無いので、何れ第3旅客ターミナルが建設されるはずです。